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からだという乗り物に乗っている。

からだという乗り物に乗っている。

沖永良部島という、

島に行ったときのこと。

ずいぶんひさしぶりに潜った海の中、

偶然見つけたウミガメの背中を

ゆらゆらと追いかけながら

僕はそんなことを考えていた。

森の中の自宅から車で空港まで移動し、

そこから飛行機に乗って、

東北の上空、

一面に広がるの雲の世界。

途中、

友人のマンションに一泊させてもらう。

電車を乗り換え辿り着いたマンションの部屋は39階。

部屋にたどり着くまで

3回セキュリティチェックがあった。

ここからも雲に触れられそう。

きらめく夜景と

かすかに聞こえてくる街の騒音。

普段の土着的な暮らしとの振れ幅を楽しんで、

翌朝、高速エレベーターで

一気にマンションの地下に降り、

車に乗って空港へ向う。

再び空の王国を飛んで、僕は島にやってきた。

照りつける太陽と潮の匂いを含んだ温風。

また何もかもが違う世界。

そして今、ウミガメと泳いでいる。

ここに来て初めて、海に潜ったとき、

不思議なほど安堵感に包まれて

身体はずっと求めていたんだと、知った。

僕の意思で動く乗り物。

それを動かして僕はここまで来た。

だけど身体にもたぶん、意思がある。

僕はその声を聴いてあげられていたんだろうか。

多少の無理をしても、

島へ来てよかった、と思った。

身体に乗って生まれてきたから、

大地を歩き、空を飛び、海に潜って、

この三次元の世界を移動できる。

ほかのいのちと出会い、触れ合うことができる。

あたり前のことだけど、ありがたいことだ。

今はなぜか、水中に浮かんだこの身体がすごく愛しい。

もっと大切にしたいし、

もっとこの身体のことを知りたいと思う。

そして、この乗り物に乗って、

その声を聴きながら、どこまでも旅を続けていきたい。

こうして書きながら、ふと心に浮かんだことは

もしかしたら、

僕はあの島の海の安堵感に包まれたとき

母胎の中で、この身体と出会ったときのことを

羊水に抱かれていたときのことを

思い出していたのかもしれない、ということ。

海に潜っていた、

ウミガメを見つけて、見失うまでの

たった一呼吸の時間だったけど。

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