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死んだ青い鳥を弔う

ここ数日、鳥のことを考えていた。

それは今生きる「世界」を越えて、別の「世界」へと

飛んでいくイメージとしての、鳥。

自分が生きる「世界」以外にも「世界」があることを

「見える世界」「見えない世界」

同時に複数の「世界」が目の前に存在していることを

僕はシャーマンの儀式を通して体感で知っている。

今でもそれをよく思い出すし、

そうした複数の世界を自由に行き来したい

そういう根源的な欲求が自分の中にあると

近頃はよく思う。

異世界を跨ぐ翼を持つ、鳥のように、

次元を超えるうたになれたならば。

そう、僕が歌うのではなく、

僕がうたになれば、それは叶うかもしれない。

あのとき彼らがイカロとなって

僕の体内に入り込んで癒やしてくれれたように。

そんなことを考えていたら、

ひとつの景色が浮かんできた、

手が動き出していた。

夜明け前の「闇」から「光」へ移り変わり

ふたつの「世界」が交わる瞬間を飛ぶ鳥、

あるいはそれは「光」が「闇」に飲まれていく

夕闇を飛ぶ鳥かもしれない。

鳥というものがどんな形を持っていたか思い出しながら、

なんとなく指先に絵の具をつけて、絵を描いていた。

その感覚をこれからも、覚えておくために。

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絵を描いた日の午後のことだった。

ぼくは森でうたになろうとしていた。

人前で「うたう」のではなく、うたになりたかった。

イメージした鳥のように、

絵に描いた鳥のように、

境界線を自由に越えていきたかった。

仲間たちがその場で聴いてくれていた。

僕はうたになれたんだろうか。

鳥が鳥であることを疑わないぐらい

ぼくもうたであれたなら。

そんなことを思いながら、夕方、小屋に戻ってきたら、

デッキの上に何かが落ちていた。

近づくと一羽の青い鳥だった。

多分、窓にぶつかったんだろう。

とても美しい羽を持つ鳥が、死んでいた。

圧倒的に死んでいる。

でも、とても美しい。

身体だけを残して

この世界でないどこかに、行ってしまった鳥。

僕はただただ見惚れてしまった。

死に見惚れるなんて、

どうかしてるかもしれないと思いながら

僕は座り込んでその青い鳥を見続けていた。

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鳥のイメージ、絵、うた、そして鳥の死。

これはなにかのサインだろうか。

それはネット検索しても答えが出ることのない種の、問い。

翌朝になっても、鳥はそこにいて

やっぱり圧倒的に死んだままで、

そして未だに美しい姿のままだった。

描きたい、と思った。

描かなければならない。

それは生まれて初めての感覚だった。

僕は再びキャンバスを取り出して、

この青い鳥を描きはじめた。

この鳥が残してくれた何かを、残しておきたい。

そのために描く。

なるべく丁寧に、なるべく美しく。

絵かきでもない僕にとって

絵の技術なんてどうでもよかったのに

このときはじめて、技術が欲しくなった。

鳥を描くために。

クロッキーで描いた下絵ができて、

またしばらく僕は座り込んで、その鳥を眺めていた。

どれぐらい時間が経ったかわからないけど

ふと思い立ち、

僕はその鳥の亡骸を埋めることにした。

死体を触るということになれてない僕は

少しためらったけど、

やっぱり手で触って感じてみたくて、

その青い身体を持ち上げてみると、

意外なほど、柔らかく軽くやさしい感じがした。

冷たい感じはしなかった。

まだ言語化すらできていない

この鳥のことを、

感じているなにかを思い出せるように

アトリエから眺められる場所に埋めることにした。

鍬で穴をほり、

枯れ草を敷いて

手でほぐした土をかけてやった。

しばらく手を合わせてから、

再び小屋に戻り、

今度は絵の具で鳥の体に色を塗り始めた。

その先の「世界」でも、

飛び続けられるように、願いを込めて。

これは僕なりの弔いだった。

絵を描き終えたとき、

ふと顔を上げて見上げると、

なんだか目の前にある空もまた

切り取られた絵のように見えて、

描いた鳥がキャンバスを飛び出していきそうな気配がした。

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