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無方庵の価値

御所坊に漢詩をはじめデザインを導入するのには、いくら支払ったら良いか?
ちなみに470万円の見積もりが添えられていた・・・

契約書と見積もり

先生との出会いから、契約の話までは下記をご覧ください。

無方庵の契約書の金額は記載されていない。
いくらの金額を記入するかは、こちら側に任されている。
1987年7月、32歳の僕は頭を抱えた。

当時の御所坊の税理士の顧問料が月、10万強だった。
いくら払えるかと言っても、借金をして旅館を改修しようとしている。余裕はない。

そこで二人の設計士と話をした。

結論は、中途半端な金額を提示してはいけない。
先生は話の輪を和ます為か、よくHな話をしている。

「洒落には洒落で返そう! それであかんかったら、しょせん偉そうに言っているだけのスケベーのおっさんだ。」と設計士の1人が言った。

それで金額を決めた。金額はスケベーな言葉を数字に置き換えた。

その額を伝える為に先生宅に向かった。

先生に顧問料の話をし、「非常に困ってしまった。先生の価値は金額に換算できないと思う。しかしこれでいかがでしょうか?」
と言って金額を記載した紙を渡した。

先生は、その金額を見て「何だねこれは!」と厳しい顔をした。

「先生の価値に金額を付けることはできません。いつも先生はHな話をされています。そこでこの金額を付けました。この金額であればうちは末永く先生と付き合う事が出来ます。」と言うと、先生はニコッと笑って「わしの感覚でやるなら手伝ってやるわ!」と言ってくれた。

それ以来、約35年間にわたって先生に世話になってきた。

何故?破格値で契約が出来たか!?

無方庵と契約している会社は10社ほどあるが、各社がいくらで先生と契約をしているかは知らなかった。

おそらくうちのようなやり方をした所はないだろう。
なぜ?先生は御所坊の顧問を引き受けてくれたか!?

先生はいつも「風格を上げる事が自分の得意な所だ」というような事を言っていた。
ある時、大規模な所から依頼があったが断ったという。なぜならばあんな所、触りようがない。というような言い方をされた。

つまり契約書の金額は相手の会社任せだから、いくらの金額を提示しようが、先生がNOと思えばNOなので、断られた会社は提示金額が悪かったのか?と思ってしまうという事だ。
たとえ金額が少なくても先生が気に入にいると引き受けておられたと思う。

当時、先生は周りの人に「菓子やお酒は平面的だが旅館は立体だ。面白いことになりそうだ。」と言っていたようだ。

有馬温泉は日本で一流の温泉地だ。その中で一番格式のある宿、何しろ“御所”が付く。時代遅れのボロ宿だが、リニュアルしようとしている。それをやろうとしている若い経営者が面白い。

今思えば、先生としてもやりやすい、やりたい素材だったんだと思う。
つまり無方庵の空間展開の一つのモデルになると思われたと思う。

そしてもう一つ、先生のデザインを広めようと株式会社無方庵宗家を設立する話が進んでいた。それが先生の誕生日の日が予定されていたが、その日より前だったので「うちでやる!」と言われた。

先生がいう“うち”は身内とかの意味の“うち”。

32歳の時に僕の人生の中で一番大事な出会いが出来た。

でも、契約の話をしたときに「わしの部屋をつくれ! 有馬妻を紹介しろ!」と言われた。

部屋は「先生部屋は用意します。・・・・ただ仏壇がありますが」という事で御所坊の仏間を“考槃居”として、いつでも先生に提供できるようにした。

現在、先生が生前中に、このような部屋があったら良かっただろうな?と思う部屋を整備している。そのお披露目を無方庵関係者に2022年9月4日、先生の誕生日に開催した。

有馬妻は適当にごまかしていたが、そのうち先生も言わないようになったと思う(笑)

顧問料としては、結局一度も支払わなかったが、その代わりに色々出来ることはやっているので相殺されていると思う。(笑)

出来る所からやっていこう!

話が決まると、リニュアル工事をやっている関係で、しょっちゅう先生宅を訪問していた。

まず改装中の部屋の部屋名のロゴ、消火栓、非常口、避難経路図などの文字も先生につくってもらった。

そして御所坊のマークをつくってもらった。

このマークは老子の道教の無用の第十一章に「無用の用」を紹介する際に例として車輪が取り上げられている。
先生が御所坊を手伝ってやろうと思った理由は、きっと先生が元々したかった要素が御所坊にあったからだと想像する。

聴水御坊 37号室の掛け軸

スポークが集まって車輪が出来るが、その中心部に車軸を通す為の穴が開いていないと車輪として役に立たない。
一見無駄に見えるものが実は必要不可欠の事がある。というのが無用の用の解説に使用されている。そして中国の位の高い人が乗る車の車輪のスポークは30本だそうで、御所坊のマークの車輪には30本のスポークがある。

温泉旅館は生活必需品ではない。しかし“無用の用”必要な存在でありたい。

幼稚園の子に褒められてうれしいか!?

日本DM大賞という賞があり、その第一回の受賞者が先生だった。
※ 現在でも開催されており、歴代グランプリの一覧表にリンクしています。
その事が記載されている本があるのだが、インタビューの内容が記載されている。
それを見ると、いつもの無方庵流のやり取りが記載されていた。

無方庵流のやり取りとは、先生は人に媚を売ることをしない。例えば僕の場合だったら「御所坊は良い旅館ですよね? 料理も凝っている。」とインタビューされたら、もっとPRしてもらいたいと思って、色々話をするのだが、先生の場合は「受賞おめでとうございます!」と言われたら、「君は幼稚園の子に、『おじさんの書く字は良い字だね』と褒められたらうれしいか?」とやり返す。
するとインタビューをした人は答えられない。

そのようなやり取りを先生は楽しんでいた。

僕も実は、そのような先生の言い方をたくさん真似ている。

次回は先生の食の話をしたい。



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