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有馬の源泉を加温加水することなく、唯一適温で提供できる宿

プレート直結の有馬の温泉は非常に貴重で、非常に濃厚な温泉なので維持管理に非常に手間がかかります。その温泉を加水や加温することなく、常に適温で提供できるというのは御所坊だけだと思っています。その理由を説明いたします。

結論から申し上げます。

  1. 源泉は非常に高温。湧出したての湯は100℃近くある。

  2. 非常に配管が詰まりやすい。泉源では3日に1度交換する。

  3. 湯量が日々変化する。ある日は“0”という事もある。

  4. 海水より濃い塩分濃度。機械がすぐに壊れてしまう。

  5. 湯量はそんなに多くない。

以上の問題があり、その問題をそれなりに克服したからこそ、有馬の源泉を加水や加温することなく、源泉を“垂れ流し”で、常に適温で有馬の温泉を楽しんで頂けていると思うのです。

有馬の温泉は高温

有馬温泉の地下50kmから60km上部マントルの所で、沈み込んだフィリピン海プレートから水分が放出されます。水分は高温(1,000℃ぐらい)と高圧の為に超臨界水となっており上部マントルの成分も溶かし込み、地上に湧出します。

湧出した瞬間は温度計が102℃、103℃を表示しますが、すぐに98℃になります。これは有馬温泉が標高400mの所にあるので、大気圧の関係で沸点が98℃となるからです。

この高温の温泉が有馬の温泉の特徴ですが、すべての泉源がこのような高温だという事ではありません。

配管が詰まりやすい

地上に湧出した瞬間に炭酸ガスや放射線などが放出されます。
それまで溶かし込んでいた上部マントルの物質などが現れてきます。
例えば炭酸ガスとカルシュウムが結合して炭酸カルシウムになります。サザエやアワビの殻の成分です。

泉源に行くと青いキャップの鉄管とキャップのない鉄管が置かれています。キャップのない鉄管は使用済みの鉄管で、中を覗くと白いモノが付着しています。これが炭酸カルシュウム。付着し鉄管の中を狭くする為に3日~4日に一度鉄管を取り換えているのです。

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白い部分が鉄管に付着した炭酸カルシウム

うわなり泉源から御所泉源の配湯槽までの地中に、温泉を運ぶ為の管が埋設されていますが、この管の中に茶色い泥の様なもの(スケール)が生成されます。これも週一で配管の掃除をしています。

配湯槽からは、各旅館の管理になります。多くの旅館がやはり週一ぐらいで道路の下の配管を掃除して自館の貯湯槽まで湯を送っています。

このように維持管理に大変手間がかかるのです。

湯量が日々変化する。

これが大きな問題なのです。
泉源のパイプの交換が3日に1度と言いましたが、交換した時の湯量が100とすれば、3日後は50に下がっているという事です。
また配湯槽までの管の清掃が週1回。そして配湯槽から各館までは週1回とするとバイオリズムの図のように日々湯量が変化します。

湯量が変化するならば、どれぐらいの湯量が良いか設定が難しいと思います。ある日は余るが、ある日は足らない。
これを補完するには、加水して量を増やすとか、加温も含めた循環をしなければいけなくなります。

海水より濃い塩分濃度

海水というのは海辺で暮らす人や漁師など海で暮らされている人は大変だという事はご存じだと思います。その海水の1.5倍ほどの塩分濃度があり、なおかつ高温という事は機械類にとって最悪です。
ポンプ類もすぐにダメになってしまいます。
今までもいくつかびっくりするような体験をしたことがあります。

温泉の浴槽内に上のようなバルブを取り付けたことがあります。1ケ月後バルブを開けようと思って赤い部分を握って回すと・・・
手の中で赤い部分がボロボロに崩れてしまったのです。赤い部分はビニールでコーティングされていたと思うのですが、その中は普通の鉄だったんじゃないかと思います。たった1月で鉄が完全に錆びてしまっていたのです。

湯量はそんなに多くない

湯量が日々変化しますし、地下50km下の上部マントルから湧出する有馬の湯は一定量で、どこの温泉地と比べるか問題ですが、そんなに多くないと思います。
実際、有馬温泉内でどれだけの湯が現在出ていて、どれだけの量が必要か?
また地下深くから湧き出る湯はどれだけが適正量か?
それを持続可能にするために、規制や保護をどのようにするかが大きな有馬の課題なのです。
現在、有馬温泉に有馬泉源保護協議会という会を立ち上げて、温泉の保護と有効活用を推進しています。

御所坊の温泉システム

現在の神戸市所有の主要泉源は、昭和23年から30年にかけて整備されました。天神社に泉源を掘れば「天神泉源」、極楽寺の所だと「極楽泉源」。

御所坊の所有地を提供して掘削したので「御所泉源」の名前が付けられています。その泉源に隣接して所有地が残っており、家が建っていました。

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御所泉源にある配湯槽

泉源の隣接して家があった!これが重要なのです。

ドラッグレーサーのマフラー

学生時代。日曜日の朝、いつも親父にたたき起こされるのです。
そして御所泉源の所から御所坊の浴槽までの温泉の配管の掃除を手伝わされるのです。

これが嫌で、嫌でどうやったらこれをしなくても良いか、いつも考えていました。

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配管掃除を味わってもらう体験プランをつくった事もある。

曲がり角、流れが起きやすい所、配管のキャップの所などにスケールが付きやすい事がわかっていました。また何らかの原因で空気が配管の中で貯まると湯は流れて来ません。

配湯槽は単純な構造で各館に公平に湯が流れる構造になっています。
しかし配管が詰まると湯は流れずに他館へと湯が流れていきます。
少しでも多く湯を確保するには、常にスムーズに配管に湯が流れるようにしなければいけません。だから毎週の泉源から浴槽までの道中の配管を掃除する必要があるのです。

配当槽から湯を送り出す装置・・・車でいえばターボチャージャーやスーパーチャージャを付けられないのであれば、マフラーから排気ガスをいかにスムーズに放出するかを考えます。

一番効率が良いのはドラッグレーサーのマフラーだと思いました。

PCのソフトで初めて描いてみました。処女作です。

つまり配管の距離を短くすればよいのだ!

その為には、泉源に隣接している家の一階に貯湯槽を設ければよい。

そうすれば配管の掃除は配当槽から2~3mぐらいで良いと考えたのです。

有馬で一番良い状態で温泉を味わう 湯屋 松風

泉源に隣接している家を改装し、1階には泉源から来た湯を貯める貯湯槽を設けました。
この事で湯量の変化にも対応できます。この貯湯槽には常に80℃~85℃の温度で湯が貯められています。
この温度であればレジオネラ属菌の心配もありません。

2階には2つの家族風呂を設けました。
有馬の温泉は湧出時は弱酸性。つまりお肌に優しい湯です。時間がたつと弱アルカリになります。
有馬の温泉の一番フレッシュな良い状態の湯が味わえる浴場です。

流れを起こさず、空気だまりが出来ない方法

貯湯槽を設ける事で、日々湯量が変化しても一定量の湯を確保する事が可能になった。次の問題は貯湯槽から御所坊までの地中の配管をどうするかだ!?

配管の中で流れや空気だまりをつくらないようにすれば良い。

まず御所坊の浴場の脇にサブ貯湯槽を設けた。

サブ貯湯槽の湯量が少なくなると、サブ貯湯槽のバルブが開いて、メイン貯湯槽のバルブが開き、一気に湯を送る。そしてサブ貯湯槽が満たされると、バルブが閉まって、少し時間を置いてメイン貯湯槽のバルブを閉める・・・これを自動でやっています。

この事で、メイン貯湯槽からサブ貯湯槽までの配管の中はいつも密閉された状態。つまり流れもないのでスケールが固まらない。そして湯を送る時は一気に送るので少々溜まっていたスケールも押し出されてしまいます。
もちろん空気が溜まっていても大丈夫です。この空気はたぶん湯に含まれている炭酸ガスだと思うのです。空気が入るはずがないのです。

この事で道中の配管掃除はほぼメンテナンスフリーになったのです。

適温で供給できるシステム構築

源泉を加温、加水することなく適温で提供する為に、浴槽内に温度計を設け、浴槽内の湯の温度が下がればサブ貯湯槽にためられている湯を(60℃~65℃ぐらい)浴槽の下部に流して、一定の温度になれば止める。

という事を自動的に行っています。

お客様がたくさん入浴されると、とうぜん湯は溢れます。体温が36℃とすると湯の温度も下がります。そうすると熱い湯を注ぎ、適温にしているのです。

冬場は気温が低いので浴槽の温度は下がりますので、夏場よりも多くの湯を使用している事になります。

誤解しないで下さいね!

「かけ流しが感じられなかった!」というコメントを頂くことがあります。
温度が下がると浴槽の下部から60℃の湯を注いでいます。熱い湯は対流で上部に行きます。だから湯が流れている様子は見えないのです。
でもよく見て頂くと、溢れた湯が流れる部分があります。

「垂れ流しという言い方は良くないのではないか?」
とご指摘を受けたことがあります。

確かに垂れ流しというと、コントロールや処理をされずに河川に放流されている場合に使われます。しかし“かけ流し”と表示してよい浴槽は、一度浴槽からあふれ出した湯を再利用しないのを“かけ流し”と言えるのです。

浴槽のふちを高くすれば浴槽から湯が溢れにくくなります。そして循環回路を設けて加温して湯を何度も使い続けている浴槽も“かけ流し”と表示できるのです。多くの方は“かけ流し”というと、新しい湯が次々と注ぎ込まれていると思われているのではないかと思います。

御所坊の浴槽は、熱い温泉を注ぎ込む量をコントロールして、一定の温度を保っているのです。循環回路を設けて湯を使い続けているわけではないので“垂れ流し”と表示しています。ご理解ください。

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