見出し画像

必ず元気になる。する。

85歳のS様。腰椎の圧迫骨折で入院され、退院後、4月にパライソに入所されました。
S様の旦那様は船大工の仕事をされていて家にいないことが多く、子供四人の子育てをしながら1人で家庭を守っていたとのことです。60歳過ぎまで様々な仕事もしてきたとのこと。

そんなS様ですが、パライソに入所された時は、ほとんど寝たきりでした。ですが、自力がないわけではないのです。ただ起きようとする意欲が失われてしまっている様子でした。口数も少なく表情も乏しい、見るからに元気のない様子でした。

画像1


なんてことだ

そこでチーム内で、まず一日一回は起きてもらうことを目標にしてケアをスタートしました。

目標にしていたはずなのに、、

それを発見したのは、S様が入所してから約一ヶ月半が過ぎた頃です。S様の踵に褥瘡が出来てしまったのです。
褥瘡(床ずれ)は、体のある部位が長時間圧迫されたことにより、その部位の血流がなくなった結果、組織が損傷されることです。イコール我々がケアをしっかり出来ていなかったことを意味します。
勿論、手を抜いていたつもりは全くありません。ただ、結果がそうじゃないことを教えてくれました。
心の底から申し訳ない気持ち、強い後悔でいっぱいになりました。こんな痛い思いをさせてしまった。これではプロ失格です。

振り返れば、S様はずっと寝たきりだったので体を起こそうとすると、起きる動作自体がしんどいのだと思います。痛い痛い!起きるだけで吐きそうだ!という訴えがありました。その訴えに従うことが多く、結果的に体を動かす回数が必要数を下回り褥瘡になってしまいました。たとえ訴えがあったとしても積極的に関わってアプローチすればよかった。強く反省しました。


気を引き締めなおして

これがキッカケで、チームの意識が変わりました。ケアの目標も明確にしました。
ナースにも相談して、S様にとっての体位交換のあるべき形を再確認、それを見える形にして体位交換のポイントを見て確認できるようにしました。ユニット会議でも同じく体位交換時に意識するポイントも都度確認し合いました。そして、ベッドで食べていた時もありましたが昼食時には必ず起きてもらい食堂で食べていただくよう徹底していきました。これら一連のケアの記録も一日一日必ず残してチームで進捗の共有も徹底しました。

画像3

もちろん痛みの訴えは変わらずありましたが、本来は自力のある方です。起きる回数も増えれば痛みも減るだろうと考え、拒否の訴えに負けることなく今度は強気な姿勢でS様と向き合いました。

「痛い!だめだ起きない。」
「大丈夫です、大丈夫です。いけますよ!起きましょう!」

ある意味心を鬼にして強気な気持ちで起こしに行きました。
そして、どんどんポジティブな声掛けをしていきました。
手すりをつかめる、座れる、足をあげられる、そういった動作一つ一つを「出来るじゃないですか!」「すごい!」「良いじゃないですか!」とポジティブに声掛けをしていきました。


嬉しい変化が

そうして繰り返していくうちに少しずつ変化が起こってきました。
だんだん体の動かし方が分かってきて、こちらの動きに合わせて動かすようになりました。
離床時間がだんだんと増えていきます。
入浴も、最初は寝たきりの機械浴でした。でも実際はちゃんと座れた。それからは積極的に個浴も試して、今では毎回個浴で入浴することが出来ます。
機械浴は寝たきりで楽は楽です。ですが個浴のほうが体を動かすので残存機能を活かせます。
ご本人も今では個浴を好んで入るようになりました。

結果、今では褥瘡は治りました。ただ、それ以上に大きな変化がありました。S様が見るからに元気になられたのです。
少なかった口数も、いまでは職員と言い争うくらいよく喋ります。笑顔なんてひとつもなかったのに、よく笑い、たくさんの笑顔を見せてくれます。食事量も増えました、半分も食べれない時もあり完食なんて考えられなかったのが、今ではほぼ毎回完食です。

確かに、最初は強い否定。ですがそれに負けずに強い気持ちで関わりを諦めず起こしに行った結果、そのこちらの思いに呼応してくれたかのように、みるみる元気になってくれたのです。これには本当に嬉しかったです。元気になったという結果だけでなく、S様と気持ちが通じ合った気がしたことが嬉しさを倍増させました。

画像2


次なる目標

今はお昼だけ起きる、トイレに座ってもらう、お風呂は個浴、離床時間をのばすといった目標ですが、次はそれにプラスで、朝ごはんも起きてもらおうと頑張りたいです。そして最終的には、朝昼夜起きて食べる。必ずトイレで毎回排泄。今は居室で過ごすのが多いですが、日中は車椅子で過ごしてもらい自分でこいで移動できるようになる。そうして好きに外で過ごせるようになって頂きたいと思います。立てるようになるか?そんなこともゆくゆくは試してみたいです!

寝たきりから起きてもらう。そうすれば元気になる。これを肌で実感することが出来ました。これを機に今後はもっとチームとして積極的なケアに取り組めると思います。


学んだこと

そして、改めて今回の事例を振り返ると、失敗の大きな原因は曖昧なケアの目標値だったと思います。目標が曖昧でやるべきことも不明瞭だったがために、本人の主張に悪い意味で流されやすくなる。結果、必ずしなければいけないケアすらできなくなる。

一人ひとりの利用者様にどんな目標を立てて、具体的にどうケアを行うか、ここを明確にまず決めてチームで頭合わせをする。これが重要だと改めて学びました。

この失敗からの経験を反面教師として、ぜひ他のユニットの方々も再確認頂けたらこれほど嬉しいことはありません。

最後真逆のことを言ってしまいます。実は内心、果たして本当に起きることが正しいのか考えるときがあります。起きてもらうことで、日常の当たり前の動作を当たり前に出来るようにお手伝いするだけで、間違いなくご利用者様は元気になります。

ですが今のご本人の状況次第で、起きるべきか、そうでないかはいつも悩みます。起きるというだけの話ではなく、このケアで本当に良いのか絶えず自問しています。

あくまでこちらの正解を押し付けるのではなく、相手のあるべき姿を描き、状況に応じて都度新しい正解を作れるか、作り直せるかが大事だと思います。修行の日々です。


(パライソごしき ニューヨーク・ラスベガス)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?