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えも言われぬ幸福感に包まれながら、俺は次第に戦意を失っていく・・・。

このままずっと、この幸せな気持ちを抱きしめさせてくれ・・・。


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西暦2029年。
世界各地で勃発した紛争により、地球上は大混乱の様相を呈していた。

当たり前であった日常は崩れ去り、次第に人々の心は疲弊し荒んでいく・・・

それでも皆、荒ぶる獣物に身を堕とさず、人としての尊厳を守り通す事が出来、こうして生き延びている。

何故それが可能だったのだろうか?


我々の心には怒りや恐れ、そして哀しみや憎しみが間違いなく存在している。しかし、それと同時に優しさや思いやり、慈しみ、そしてその全てを内包した強い力「歌」が残されているのだ。

かつて便利だった電気も、詳細な情報も全て争いに奪われてしまった現在。

それでも歌の持つメロディやリズム、メッセージは、海を越え、大陸を超え、人種間を超えて人々の心を繋いでいく・・・。

我々の心にポジティブな力を生み出す源、「歌」を奪う事など誰にも出来ないのだ
・・・

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「ソルジャー!!」

徐々に崩壊していく研究所・・・
だがヤツらが躍起になって破壊しようとしても、このタイムマシンはビクともしない・・・
実際に破壊しようとしていた俺が云うのだ。
間違いない。

「ソルジャー!!」

耳元で叫ぶな。ウルサイじゃないか。
褐色の肌に青い瞳・・少し縮れた毛が本当にキュートだ・・・
ついこの前まで俺はオマエを消そうとしていたのに・・・不思議だ。

こうして俺はオマエに手を貸しているのだ。

「最後によ。アンタのウタを・・・あの歌を聴かせてくれないか・・・?」


「Strumming my pain with his fingers
Singing my life with his words・・・

Killing me softly with his song
Killing me softly with his song
Telling my whole life with his words
Killing me softly with his song・・・」


何ていい歌なんだ・・・
生まれてこのかた、歌など聴いた事の無かった俺が、こんな気持ちになるなんてよ・・・

「ありがとよ・・・歌のお礼だが、俺のこのメガ・チューナーをやるよ・・少し焦げたり、溶けたりしてるが大丈夫だ。しかもタイムマシンと連動させれば、過去でも現代の音声が拾える筈だ。理論上で云えばな・・・
さあ!行けよ!!

いかにタイムマシンが頑丈でも、ここの爆破に巻き込まれたらどうなるか・・・

さあ!行け!!

オマエの成すべき事を成せ!!」


俺は最後の力を振り絞ってマシンガンを掃射した。
蜂の巣になりながら踊る様に倒れていく、俺の同胞達・・・

「お前達は本当に残念だな・・・「歌」を知る事が出来無くて・・・」

えも言われぬ幸福感に包まれながら、俺は次第に戦意を失っていく・・・。
このままずっと、この幸せな気持ちを抱きしめさせてくれ・・・。

「Strumming my pain with his fingers
Singing my life with his words・・・」

絶え間なく続く爆発音の中・・・

アイツの歌が聴こえた様な気がした・・・



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