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無知の人助け

それは私の無知から始まった。

20年ぐらい前のある日、mixiと言うSNS(オワコンとなって久しい?)で知り合った女性からメッセージが届いた。昔の話だから正確には覚えていないが、概ね以下のようなやりとりだったと記憶している。

彼女「私、これから練炭行くんだ」
私「(え?七輪で焼き肉?キャンプ?)いいね。どこ行くの?」
彼女「山だよ」
私「この季節に?もう紅葉も終わってるし、寒くて風邪引くよ」
彼女「風邪なんか別に良いんだよ」
私「誰と行くの?」
彼女「知らない人たち」
私「(何か変だな)あんまり楽しくなさそうだな。行くなら知ってる友達と、季節の良いときに行った方が良いよ。その方が焼き肉とかも美味しいし」
彼女「…うん、何か行くの、馬鹿馬鹿しくなっちゃった。辞めとくわ」

私の頓珍漢なやりとりに、「練炭」が馬鹿馬鹿しくなったらしい。きっと彼女は本当は私に引き留めて欲しかったに違いない。でも私の頓珍漢なやりとりに思わず拍子抜けして思い留まった、と言うことだろう。

私が「練炭」の意味を知ったのは、それからしばらく経ってからであった。

彼女は今でも「ごろうさんは私の命の恩人だよ。ありがとう」と言う。私としては、そうと分かって必死で思いとどまらせようとしたわけではないので、半分笑い話にもなっている。でも、お陰で重い思い出にならなかったのも良かったのだと思う。

彼女は今は、むしろ貪欲に生きている。私と同じ双極性障害を抱えている。膝が悪くて人工関節にしたのに激しい痛みも消えずにいる。でも、決して投げやりにならず「健康に生き続けるんだ」と食事や筋トレに気を遣っている。見習わなくては。

たまたま彼女と会う機会があった。ほんの30分程度、お茶しただけだが。彼女はインスタに顔出しで投稿しているので顔は十分知っている。でも、その時の顔はどの写真よりも可愛らしく、輝いているように見えた。いや、格好付けた決まり文句ではなく、本当に。五歳ぐらい若く見えたし。

たまたま良い方に転んだだけだが、たまたま今日、彼女から近況報告があり、「ごろうさんは私の命の恩人だよ」とまた言われたので、ふと、これを書きたくなった次第。

無知な私の滑稽な人助け。

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