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パレード


遠い国に立っていた


目前に広がるメインストリートを
絢爛なパレードが進んでいく

金のかけらを薔薇蒔きながら道化師たちはゆうるり跳ねて
素顔を扇で優雅に隠し貴婦人らは滑るように進む
豪奢に響く鈴の音はそれぞれの居場所を隠すように
反響して反響して
脳の奥から聴こえるほどに星の数ほど鳴り喚く

言葉なんてわからないけど
肌で感じる浮わついた雰囲気は
無条件にこころを明るくさせるような
そういうたぐいのものだった


ふいに
通りの隅にぽつりと立つ
同郷らしき男性を見付けた
黒い髪した痩躯の青年
白い肌 額がわずかに汗ばんでいる

知り合いだったかしら
初めて会う方だったかしら、わからない。

ひとことふたこと交わしてみたけど通じ合うような話はなくて
押し黙り薄い背中越しに流れゆく人々を再び覗く


前触れもなく 彼の背が行進の速度で倒れてくる
慌てて抱えたその身体は仔猫みたいに骨ばかりで軽く、淡々と温度を無くしていくものだから

はやく助けないと、と、思ったのだけれど

彼を抱えあげたせつなパレードは華やかさを失いばけものの様相で私めがけてその向きを変える
美しい音楽たちは悲鳴とも歓喜ともとれる金切り声に裂かれて消えた

もつれる足で走る
腕のなかの彼は冷えきっていく
パレードは追いかけてくる。

はやく助けないと、と、思ったのだけれど
背後から私の肩に置かれた手
緑色の爪
小さな金属の打ち合う音
つよく抱き締めた彼はもう石膏像のようで私もまねをして目を閉じた

彼を救えなかったこと
それとさいごまで彼が誰か思い出せないまま目覚めたのが心残りだった
彼は知りもしない誰かかもしれなかった


[夢日記 数年おきにみる夢のひとつ]

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