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EURO2024を振り返る

さて、一か月に及んだEURO2024はスペインの優勝で幕を閉じました。

私も重い瞼をこじ開けながら、時にコーヒーを流し込み、時にエアコンを切って寝られない環境を作りながら観戦しました。

仕事や家庭の都合上、90分見られていない試合もありますが、少なくとも毎日1試合以上&ハイライトは全試合見た上でこの大会を振り返っていきたいと思います。

なお、私の主観ですので共感を得られない部分も出てくるかもしれませんし、「偉そうに言うな!」と言いたくなる場面も出てくるかもしれません。

読者の方の推しチーム・選手・監督をマイナス評価する部分も出てきますが、一人のサッカーファンの意見として悪しからずご理解頂けると幸いです。

【レフェリング・レギュレーションについて】

良かった点としてはセンサーによるハンドの判定性能の向上があります。これまでは手に当たったかどうか見極めが難しい部分もありましたが、センサーにより可視化され、比較的スムーズに運用できていたと感じました。

また、今回はUEFAの管轄でしたのでFIFAやFAのようなロスタイムの算定基準とは異なり、従来のロスタイム(概ね2~5分程度)で試合が進んだのも観ている側としては観やすかったです(これにより選手の不自然な時間稼ぎがどうだったかについてはデータで検証する必要があります)。

ワールドカップやプレミアリーグではロスタイムが長くなることで劇的なゴールが増加したというデータもありましたが、選手の体力・怪我の問題や試合のテンポを考えるとメリット・デメリットは双方にあると思います。ただ、私としては今回のようなロスタイム算定基準の方がスムーズで良かったです。

あとは「キャプテン以外が主審とコミュニケーションを取ってはいけない」というのもプラスの評価が出来ます。
試合が円滑に進められる可能性も高まったと思いますし、主審の負担感も減少するはずです。
(GKがキャプテンの場合、わざわざゴールを離れてコミュニケーションしに行かなければいけないというデメリットはあります)

悪かった点というほどのことは無かったですが、今後改善してほしいなという点はありました。
(個別の事象の判定の良し悪しはあると思いますが、主審の判定を尊重すべきですし、大会全体の評価とは切り離して考えています)

例えば象徴的なシーンとしてスペインvsドイツ戦でクロースのシュートがククレジャの左手に当たったシーンがありました。

映像を見れば誰しもが分かるように手には当たっています。
しかしながら多くのサッカーファンがご理解の通り「手に当たった=ハンドとは限らない」というのが現在のルールです。

あの時の判定は非常に微妙な物でした。

100%ハンドという人もいるでしょうし、角度によってはハンドの対象から外れるかも?と考えた方もいるでしょう。

また、その時に「前のプレーでオフサイドがあったのでは?」という印象を持った方もいました。

ユース年代で一部取り入れられてますが、主審が何故その判定をしたのかという理由をマイクで説明するような施策があります。

私は主審の負担や試合の円滑化を考えると、主審がその場で口頭でスタジアムに説明するのは避けた方が良いと考えていますが、世界中の人が観る試合のPKか否かという重大な局面の判定は、何かしらもっと"判定を分かりやすくする"施策が必要かなと感じています。

なお、勘違いして頂きたくないのは「分かりやすくする=納得できる判定になる」ではないのです。

サッカーはルールと競技の仕組み上、曖昧なプレーというのが必ず発生します。

それゆえにAIを導入しても全員が100%納得する判定は誕生しないのです。

ただ、映像で誰もが見てわかる重大な事象は、何かしらの判定理由の表記が主審→VARを通じて表示されるのがいいのではないかな?というのが改善点です。

勿論、何が重大で、何が重大でないかとか細かな議論はありますが、サッカーというコンテンツを世界中のあらゆる人に見せていくには、そういった分かりやすさが今後の必要事項ではないでしょうか。

【マイナー国の戦い】

今大会は残念ながらマイナー国からダークホースが誕生するようなメジャー大会の楽しみはありませんでした。

理由としては強豪国の戦い方の変化があると思います(これについては後述します)。

ただ、そういった中でもジョージア、アルバニアは個性的なタレントが違いを作り出したり、リスク覚悟で相手陣内に勝負に出たときの力強さは目を見張るものがありました。

特に印象的だったのはクロアチアvsアルバニア戦です。
アルバニアが見事に先制し、クロアチアが攻めあぐねる展開となりました。

後半に入るとクロアチアの押し込みが強力になり、短時間で逆転に成功。
アルバニアは万事休すと思われましたが、そこからのリスクを負った攻め込みは凄まじい迫力がありました。
会場は熱狂的なアルバニアサポーターが多数詰めかけていたようですし、本当にいい雰囲気でした。
疲労感が見えるクロアチアに対し、面白いようにシュートを浴びせるアルバニア。

最後はもう技術では無くパッションの戦いとなり、アルバニアが執念の同点ゴールを奪ったシーンは個人的に今大会のハイライトです。

私が大会前にダークホースと予想していたジョージアも健闘し、面白いサッカーを見せてくれました。
エースのクヴァラツヘリアを筆頭にママルダシュビリ、ミカウタゼなどのタレントは大会の盛り上がりに非常に貢献したと言えます。

【中堅国の戦い】

全体的には残念ながらマイナスな印象を否定できません。

勿論、オーストリア、トルコ、スイスについては大いに評価されるべきだと思います。

特にスイスについては攻撃のタレントが入れ替わっても一定以上のクオリティが維持され、個性を出しつつ高い組織力が見て取れました。最大の強みと言える、シェア、ロドリゲス、アカンジの3CBは守備面だけでなく攻撃面も優秀で、スペインの攻撃ユニットと共に大会屈指のユニットとして評価されるべきでしょう。

一方でグループステージで敗退したハンガリー、スコットランド、セルビア、ポーランド、ウクライナ、チェコはほぼ期待外れでした。

語弊を恐れず言えばこれらの国はグループステージで惜しくも敗れたというより、「強豪国相手にちゃんと負けた」もしくは「同等・格下相手に不十分な戦いを見せた」と言えます。

散発的に良いシーンもありましたが、中堅国の中にビッグタレントがいるにも関わらずそれを生かせない展開がほとんどで、アイデンティティが見られなかったことが非常に残念でした。

本来であれば彼らの中で数か国は強豪を打ち負かすことが出来たはずですし、歴史の中ではそれが起こってきました。

今大会であまりそういうシーンが見られなかったのは、彼らが準備不足だったのかなと思わざる得ません。

【強豪国の戦い】

はっきりいいますが、スペイン・ドイツ以外は大変残念な出来でした。
ポルトガルは及第点でも良いと思いますが、その他のチームは期待外れです。

【マイナー国の戦い】で後述すると書きましたが、端的に言います。

強豪国が"弱者の戦い方"を選び、この大会の面白さに水を差しました。

グループリーグ第一節を終えて下記のような総評を書きました。

ここからどうなるか楽しみにしていましたが、残念ながら上位に挙げた2チームと他の強豪国との差は開くばかりに見えました。

フランスは後方と前線を繋ぐことのできるグリーズマンをベンチに追いやり、守備やリスク管理に重きを置き、攻撃はエムバペのアイデアに依存(デンベレはあまりキレがなかった…)。

イングランドはゴール前でのアイデア不足を露呈し、何のためにパーマーやゴードンを選んだのでしょう。サカを左SBに置いて何をしたかったんでしょう。
シュートを打たれまくって守る時間帯など、本来はあってはいけない様相でした。
そして、大会後半になるにつれてパーマーやワトキンスなど、今期好調だったタレントが短時間で結果を残したのは何とも皮肉で示唆的な出来事でした。
(起用が当たり結果が出たことはよかったですが、ここでは内容を振り返ることに意味があると考えています)

オランダは強力なCB陣を生かすのはいいものの、攻撃はガクポのアイデア頼み。
ラインデルスが気を利かせたプレーを見せ中盤にリズムをもたらしたこともありましたが、一人では維持できず、フレンキーの不在を感じました。

イタリアも前回から踏襲した良さはあったものの、殻を突き破れず、全体的に小粒になった印象です。

クロアチアやベルギーに至っては一時代の終焉を感じさせるほどの内容、結果でした。
見るからに体が重く、散発的な個人の能力で勝ち抜けるほどトーナメントは甘くありません。

2強以外の多くの国は、守備的な振る舞い、中盤を省略したカウンター、個人頼みというまるで弱者のような戦いぶりです。

トーナメントなので勝てればいいというのもわかりますが、あまりにもフットボール的な楽しみが削がれていました。

こうなった理由には過密日程や選手のアスリート化という避けられないトレンドが影響しているのかもしれません。

asの副編集長が書いたこの総評には心底同意します。

【大会総評】

強豪国の戦いでふれたとおり、強豪国の低調なパフォーマンスが今大会の大きなトピックと感じました。

私は2004年からEUROを見てきましたが、残念ながらワーストともいえる内容だったと思います(今大会で初めてEUROを観た方、お気持ちを害すような表現で申し訳ないです。でも私の本心です)。

ただ、そんな中で開催国のドイツがアグレッシブな戦い方で復権の予兆を見せたこと、そして優勝したスペインがフットボール的な面白さと選手の個性、アスリート的な良さを総合的に生かして完勝というべき優勝を手にしたことは多くのフットボールファンが救われたことを意味しているとも思っています。

選手のアスリート化というのは今後も止まらないですし、それに面白さを感じる人もいると思います。

このgoroってやつは何を言ってんだ?

そう思う方もいるでしょう。

ただ、フットボールはボールとともにあります。

陸上選手のようなプレーヤーの迫力もすごいですが、ボールを止めること、運ぶこと、蹴ることの3原則と"ボールと人が動くこと"というトータルフットボールの理念がフットボールを美しく、面白くしています。

次は北中米ワールドカップです。

どうかフットボールの古臭さが消えないことを願っています。


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