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肩関節周囲炎(五十肩)

肩関節周囲炎、四十肩、五十肩、凍結肩(以後は凍結肩で統一)という用語は, 自動的および他動的な可動制限を主症状とする状態を言います。

一般的に見られる筋、筋膜、靭帯の緊張による可動制限、俗に言われる「体が硬い」とは異なり、線維性の癒着によって可動制限が起きています。

線維性癒着は慢性炎症により生じます。炎症が起きると組織を修復するために、免疫細胞が働き線維芽細胞が刺激されコラーゲンが大量に作られます。そのコラーゲンが大量に沈着する、もしくは大量のコラーゲンが削除されないことで本来離れている構造物同士が癒着します。つまり凍結肩は肩関節内でコラーゲンの代謝が円滑でない状態だということになります。

分類

本症状は「続発性」と「原発性」の二種に分類することができます。

続発性は何らかの形で肩関節の可動制限に影響を与える原因があって生じたものです。例えば肩の脱臼、腱断裂、手術、日常生活の反復動作による微小損傷などが先行し、凍結肩に移行するケースに該当します。統計上では左右差なく起こるとされています。

しかし個人的な見解ですが、近年では左肩に多く見られるように思います。左手でスマートフォンやタブレット端末を長時間保持することが起因となり、肩関節内部の微小な筋腱損傷を蓄積している可能性があります。

原発性は他の原因となるきっかけ無しに生じるものを言います。免疫応答や遺伝、代謝性疾患が病因となって起きていると示唆されることがありますが、現時点で原因は明らかになっていません。

議論されているものとして、ヒト白血球抗原 HLA-B27(強直性脊椎炎の関連因子)の発現率増大、タンパク質を分解する酵素を活性化するメタロプロテアーゼ MMP-14 の不足、その他にも甲状腺機能、自己免疫、ホルモン、遺伝的要素など様々な要因が検討されています。

また糖尿病を合併するケースが多いため、糖尿病との関連も研究されています。臨床的にも原発性の凍結肩の場合、食生活の乱れ、運動不足、喫煙などの生活習慣の乱れが大きい方によく見られるように思います。

原発性凍結肩の経過

凍結肩の経過は第Ⅰ~Ⅲ期に分けることができます。各期によって治療方針が変わるため注意が必要です。また患者さんにとっては、どのような経過をたどるのか理解しておくことで不安が和らぎます。

第Ⅰ期(凝固期)では関節に炎症が起きている時期であり、痛みを主症状とします。安静にしていても、寝ていても痛みが出現することがあります。動かすことで痛みが増すため、可動域制限が出ます。この時期に肩の可動域を回復しようとエクササイズを行うと、炎症がより強くなり症状は悪化し、改善を遅らせることになります。

痛み止め薬(非ステロイド性抗炎症薬)の利用、また疼痛が強い場合には関節内へのステロイド投与(注射)により痛みを管理していくことが基本的な治療となります。

次の第Ⅱ期では、動かした時の硬さや痛みは継続しますが、安静にしていて、寝ていて強い痛みが出るという症状は軽減されます。関節内部での炎症状態から脱し、癒着が形成される段階です。

線維芽細胞と筋線維芽細胞の増殖を伴う関包の線維化へ進行します。主症状は「疼痛」から「動かない」になり、この時期からエクササイズの開始になります。ただしエクササイズの強度が強すぎると炎症を起こす場合があるので、調整が必要になります。

第Ⅲ期では、関節包の線維化はほぼ完全に元通り溶解し、可動性が元の状態に改善します。硬さは改善し, 可動性の再獲得と制限の改善が緩徐に起こっていきます。原則として自然軽快しますが、6~18ヶ月の期間がかかります。

続発性凍結肩の経過

続発性凍結肩では原発性凍結肩のような経過はたどりません。原発性凍結肩のⅠ期、Ⅲ期がなく、Ⅱ期だけの状態と分類することができます。炎症による痛みも、「刺激すれば痛むが安静にそっとしていれば痛くない」というものです。疼痛や炎症の状態が比較的軽度であれば初期から可動性回復のエクササイズを行うこともできます。

続発性凍結肩は肩関節内の損傷がきっかけとなり、凍結肩に移行しています。ですからきっかけとなった肩の外傷、アライメント不良(筋骨格系統の歪み)、感染などの治療が必要です。


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