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初デートの話

どうも、筒子丸です。


今でこそ彼女ができて変わっちまっただの牙が抜けただの言われている俺だが、17で初めて風俗に行った俺が初めて女の子とデートに行けたのは20を超えてからの事だった。高校の頃好きだった子と多人数でディズニーに行き、スプラッシュマウンテンで隣に座れなくて凹んだみたいなプチイベントはあったにしても、女の子と2人っきり、みたいな甘酸っぱいイベントは俺の中高時代にはなかった。今回はその甘酸っぱくそしてほろ苦い、童貞が初めて女の子と2人っきりで出掛けた時の話をして行こうと思う。


話は俺が留学をする直前、2019年の夏まで遡る。当時大学の英語上級クラスに属しており、これは大学1年から3年までずっと同じメンバーでやって行くクラスだった。週に2回授業があり、授業が昼休み前だったのもあってみんなでご飯を食べる機会も多かった。そうなると自ずとみんな仲良くなって来るものである。男との話し方しか知らない俺は結局居心地のいい方へ流れ、男連中とばかりつるんでいたのだが、そんな俺にも気になっている女の子が居た。ここでは彼女の名前をYとしよう。Yはクラスの他の女子とは一際違うオーラを放っていた。英語のレベルもすごく高いし、何より大学2年とは思えない、少し落ち着いた大人の風格があった。毎回クラスの最初に2人組でテーマを決めて英会話をする流れがあったのだが、気付くと俺はYと話せた日はテンションが高く、話せなかった日は少し凹むようになっていた。
(今度2人でちゃんと話したいな…)
そう思いつつも俺は女の子と2人っきりになった事のない童貞である。クラスが終わった後にみんなで駄弁る中、少しでも彼女と話す機会を増やすのが俺にできる最大限の努力で、LINEも中々続かなかった。そうしてモヤモヤしている中でも悪戯に時は流れていく。俺がアメリカに行ってしまうタイムリミットは刻一刻と迫っていた。

そうした中、クラスのみんなが俺の送り出し会を開いてくれる事になった。場所はすたみな太郎。
もうちょい良い所あっただろ!!高校生じゃないんだしさァ!!とか思っている自分も居たが目的はみんなと話す事であって飯じゃない。俺は幹事のセンスに疑問符を浮かべながら、当日Yと学外で会える事を楽しみにすたみな太郎へと向かった。

「おー!!筒子丸!待ってたよー!」
クラスの女子が迎えてくれる。だが、10人弱いるその場にYの姿はない。
「あれ、Yは?」
「Yちゃんねー、バイト忙しくて来れなかったみたい」
俺は心底凹んだ。このままYと会えずにアメリカに行くのか…その会はそこそこ盛り上がったが、俺はYと会えずにアメリカに飛んでしまうという現実が受け入れ切れず、その会はずっと上の空だった。
終電で帰る間も俺はずっとYの事を考えていた。
そこそこ仲が良いとは思っているがこれは童貞の基準である。浪人していて一個上、しかもあの大人なYの基準で見たら俺はたかが知人Bだろう。
でも俺はYに会いたかった。どうしても。
そこで俺は生まれて初めて、女の子をデートに誘った。

「おつかれ!今日の飲み会来れなくて残念だったね笑」

「ほんとねー、めっちゃ行きたかった…」

「なんかこのままアメリカ行っちゃうのもあれだしさ、良かったらどっかでご飯行かない?」

「いいね!じゃあ来週土曜とかどう?」

「行ける!楽しみにしとくね!」

「うん!」

あっさりと初デートが決まってしまった。意外と言ってみるもんだな。俺はもうルンルンドキドキで、その日は中々寝付けなかったのを覚えている。

当日。普段パーカーとジャージみたいな、ジム上がりのような服装で大学に通っていた俺は革ジャンにスキニーという似合わない格好をし、普段ボサボサの髪もカッチリ決めて渋谷に降り立った。
もう心臓はバクバクである。緊張し過ぎて30分前に着いちゃったし。

「おまたせー、ごめん待った?」

「ううん、今来たとこ」

ずっと言ってみたかったセリフを口にして俺は少し浮き足立っていた。やたら見た目は決めて来た癖に、俺はデートの勝手がわからず店も決めずに渋谷に来てしまった。デートプランもクソもない。
(やべえ、こっからどうしよう…)
膝が笑い出しそうなぐらい俺はガクガクだった。

「どうする?何食べる?」

半ばパニックの内面を必死に隠しながら、落ち着き払った(少なくとも当時の俺はそうできていると思っている)表情でYに聞いた。

「んー、何でもいいな、ぶらぶらしながら探そっか!」

100点の返事だろこれ。渋谷に数回しか来たことのない俺はそのまま僅かに知っているセンター街の方へと向かった。

「あ、ここいいじゃん!」

Yが選んだのはサムギョプサルの店だった。
(サムギョプサルって何…?)
チェーン居酒屋以外何も知らない西東京の田舎もんである。でもここでそんな恥を晒しちゃあいけねえ。

「お、いいねサムギョプサル。行こっか!」

知ったかぶりをして2人で店に入った。そこからYから初めて聞く話を沢山聞いた。自分で学費を払っている事や、バイトを3本掛け持ちしている事、バーテンダーをやっている事、将来は海外援助をやりたいという事。普段は他愛もない話しかできないのに、2人になればこういう話もできるのか…!デートすげえ…!色んな話をして食べ終わったあたりでお会計である。
(来た…!)
初デートは男が出した方がいい、当時Twitter男女論のだも知らなかった俺だがこれぐらいは知っていた。相手がトイレに行ったタイミングを見計らって会計を済ます。

「おまたせー、んじゃ行こっか。あれ、伝票は?」

「あ、いいよ俺払っといたから。俺が無理言って来てもらった訳だし。」

「えー悪いよー!んじゃちょっと次行きたいとこあるんだけど」

「う、うんわかった」
ちゃんと払えはしたけど行きたいとこってどこだ?え?もしかして?20の精子が詰まった脳で一瞬邪な考えが脳裏をよぎったが俺はそんな訳ないとそれを掻き消した。俺が連れて行かれたのはドンキだった。
(だ、だよな、良かった…)
半ば安堵、半ばがっかりの複雑な感情だった。

「アメリカ行くんだしさ、必要な物ちょっと買ってってあげる!」

「え、マジ?ありがてぇ〜(やさしい、すき)」

そこから大量のインスタント味噌汁だのあたりめだの、俺の好きなアメリカになさそうな食品を結構な量カゴに入れ、レジに向かう途中で何の気なしに寄ったスマホアクセサリー売り場でYは足を止めた。

「え、これかわいいー!かわいくない?」
Yが目をつけたのはスマホリングだった。

「かわいいな、俺めっちゃスマホ落とすしいいかもw」

「え、じゃあお揃いの買おうよ!私の事忘れないようにw」

「忘れないってww1年もないんだぞww」

「wwww」
普通に話してはいるが俺の内心はデンジ君だった。


「んじゃこれ買うね!」

「あざっす!」
黒と金のシンプルな、「お揃いの」スマホリングを買ってもらった。
(絶対この子俺の事好きじゃん……)
童貞の俺はそう思い、アメリカに行かなければならない事が悔しくて仕方なかった。

「ありがと!今日すごく楽しかった!アメリカでも頑張ってね!」

「おう!Yも頑張れよ!」

別れた後、俺はYにLINEした。
「今日来てくれてありがと!帰って来たらまた行こうな!」

「うん!私も帰り待ってるね☺️」

(帰り待ってる…?これ帰って来たら絶対付き合える奴じゃん!!)

いやお前、童貞すぎ。手すら繋いでねーんだぞ。

そうして数日後、俺はアメリカへと飛び立った。
これから何が待ち受けているかも知らずに。

続く

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