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2月の読書感想文:リリィの籠/豊島ミホ先生

豊島先生の本は『夜の朝顔』を読んだことがあり、その時もひとりの少女の丁寧で繊細な心理描写に引き込まれたけど、
今回紹介する『リリィの籠』もすっごく良かった!

こちらの本は、女子高がテーマの短編集。

読んでいるとかつて女子高生だった自分が、いつの間にか横にいてるような感覚になる。

体育終わりの更衣室の、みんなの制汗剤が混ざった香りや、
授業後部室に向かうまでの渡り廊下に降り注ぐ柔らかな陽の光や、
部活帰り、駅までみんなで向かってる時の空の暗さや温度が、
まるでその瞬間にタイムスリップしたかのように、鮮明に思い出せるのだ。

短編集にでてくる主人公たちのようなドラマティックな経験はしたことないけど、私は、私なりの青春を過ごしていたんだよなぁと振り返ることができた。

それほどまでに、豊島先生の世界観と心理描写が良かった!
この本を読むことでこんな体験ができるなら女に産まれてきてよかったなぁと思った。

またこちらの本の装丁、ビーズや刺繍で彩られていてとても可愛い!ぜひ実物を見てもらいたい。

今回は短編集のうちのひとつ、「やさしいひと」を紹介したい。
※ここから先はネタバレ含みます※

   ○○○

やさしいひと

学生時代は、似たようなタイプでグループがつくられることが多い。
中学までが特に顕著で高校になるとそういう雰囲気は和らいだけど、それでも暗黙の了解みたいなものはあった。

そのため、理科の実験や調理実習の時間に、いつもと違うグループで作業するときは緊張したものだった。

だけどそんな縛りの中で、グループ以外のクラスメイトと仲が良くなるとワクワクしたものだった。

「やさしいひと」はそんなふたりのお話だ。

バレー部の落川と書道部の木田が、卒業後同窓会の準備のために、卒業式ぶりに会うシーンから物語がスタートする。

同窓会の準備をするなんて、ふたりは仲が良かったのだろうと思うかもしれないが、全くの逆だ。

むしろ主人公の落川は、木田のことが好きじゃなかった。

あたしは秘かに、木田芙見のあらさがしをしていた。ひとつでもおかしいところがあれば騒ぎ立ててやろう、くらいに思っていたかもしれない。それは若かったからじゃなく、あたしは普通な程度には嫌な奴なのだ。木田芙見のように「きれいで欠点のない女」を見ると、どうにかして「欠点」をあばきたくなる。

P165,「リリィの籠」やさしいひと

そんなふたりの距離が縮まったのは、三年生のときに同じクラスになり、二学期末に開かれるクラス対抗の球技大会がきっかけだ。
落川と木田は一緒にバレーの種目に参加することになり、バレー部である落川に木田が練習をお願いするのだ。

この球技大会がどうなったか、またこの試合の終わり方がすごくきれいで、木田の気持ちやそれに対する落川の気持ちを考えると胸がきゅんとなる。

この球技大会がきっかけで、ふたりが仲良くなった…ということはない。

全く接点がなかった状態から、友達未満知り合い以上の関係になるのだ。
だけどお互いが、友達になりたい、仲を深めたいと思ってじりじりしている関係がとてもいい。
この距離感だからこそ生まれる愛や感情がすごくいい…!

例えば、普段は違うグループにお互い所属して話さないのに

ただ、あたしは勝手に木田芙見に何かを感じるようになり、授業中に窓の外を見るついでにふっと横顔を確認してみたり、普段は読まない学級通信の読書カードコーナー(担任が国語教師なのでこんな中学生みたいな企画がある)に木田芙見の名前を見つけると、どんな本読んで何考えてんだろう、と目を通してみたりした。

P168,「リリィの籠」やさしいひと

絶対落川は読書カードなんて、だる〜って思って普段は真面目に本なんて読まないのだろうに、木田の名前を見つけたら興味を持つってところがいい!

仲良くなったら、関係は深くなるけどその分嫌なところも当然見えてくる。だけどそういうところも全部受けとめるからもっと仲良くなりたい。
お互いそう思っているはずなのに、進展しないところの切なさやじれったさがいい。
大人になったら友達ってあまりできないと思うので、こういう感情が懐かしく思えた。

落川の木田と仲良くなりたいと思っているのに、卒業式では木田と話したのかすらもその存在さえも覚えていない残酷さ。
学生時代の視野の狭さゆえに起こるこの感じがリアルで、私もこんな感じで土足で踏み荒らしたことも多くあるんだろうなぁ…と考えた。
もっと大切にしていたら、今では取りこぼしてしまった絆も繋がっていたのかもしれないと後悔もある。
だけどその時はそれくらいのキャパしかなかったのだろうし、こう考えられるのも今までの人生を通じて学んだり経験したことの結果だと思うので、これからはこんなことがないように踏みしめていくしかないと考える。

読み進めていくとますます思うのが、
King Gnuの「白日」が似合うストーリーだなぁということ。

切ない….儚い…ああっ(言葉にならない感情)が繰り返され、最後の終わり方に、豊島先生!これからもついていきやす!となった。

他の短編もハッピーエンドだったり、切なかったり素敵な物語ばかりだった。
ぜひ手にとってよんでみてほしい。




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