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「さよなら絵梨」考察 なぜ爆発するのか


この作品を読んで感じる疑問について考えてみる。

①母はなぜ中学生の息子優太に自分が死にゆく姿を撮らせようとしたのか。

②なぜ優太は母の死にゆくドキュメンタリー作品のラストを爆発させたのか。

③なぜ本作品のラストは爆発するのか。

※あくまで感想であり、「さよなら絵梨」(藤本タツキ)作品の感じ方は人それぞれです。皆様の読後の感想もコメントしていただけると幸いです。

もちろんネタバレを含みます。未読の方はブラウザバックをお願いします。筆者も先ほど漫画を読んで徒然に感想を書いているので文章としておかしい部分、漫画から読み取れていない部分があります。









①母はなぜ中学生の息子優太に自分が死にゆく姿を撮らせようとしたのか。

について、母は「動画ならお母さんの声も動きも見返せるから・・・そうすればお母さんいなくなっても思い出せるでしょ?」と冒頭で言うが、

後半のドキュメンタリー映像化されていない部分で

「病気治ったら自分の闘病生活をドキュメンタリーの番組にするつもりで・・・」

と言う。どちらも真かもしれないが、少なくとも母は優太に対し、美しい自分を残してほしいと願い、優太はその意向に従った。綺麗な母というある種フィクションとも取れる『作品化された母』を映画化した。

少なくとも、母の死後、優太による作品化された母が本物の母として同級生や教師等の周囲に記憶される。さらに、母の悪い部分も知っている優太や優太の父の記憶も、良い作品化された母の記憶が上書きしてしまうだろう。


②なぜ優太は母の死にゆくドキュメンタリー作品のラストを爆発させたのか。

理由は一つには絞ることはできないと思う。ただ、母の死を直視するという事自体幼い少年にとっては辛すぎる事である。

⑴病弱な母という思い出だけが残る病院を爆破する事で病院に関連する悪い記憶との決別を図ったから。母の死因を爆死とすることで病気や病弱な母という記憶も薄める事ができるから。

⑵映像作品として最後に病院を爆発させることで現実を"フィクション化(作品化)"し、優太自身が心のバランスをとったから。母の死から逃げ出した自分、という構図も変えることができるから。

かもしれない。そして、優太の父の回想から、そもそも優太が作品に対して何かフィクションを入れたい人間であるという性格も読み取れる。

文化祭にて教師が「人の死を最高とはなんだあア!」と言い、生徒から「倫理観疑うわ」「糞映画」と言われる。その反応に対して優太も、絵梨も非常に悲しみ、悔しがっていた。私を含め読者も優太や絵梨と同じ気持ちになったのではないか。それは、教師や生徒が『作品化された母』しか知らずに勝手に知った気になり勝手に病院を爆発させた優太の意図を理解せず批評するからではないか。優太の父が「創作って受け手が抱えている問題に踏み込んで、笑わせたり泣かせたりする。作り手も傷つかないとフェアじゃない。」と言う。

作り手がこれだけ傷ついて作った作品に対し、聴衆が何一つ傷ついていない環境は悔しいだろう。何も知らないくせに糞映画とか倫理観疑うとか言いやがって、と。


③なぜ本作品のラストは爆発するのか。

本作品のラストにて、絵梨との思い出の地である廃校、そして絵梨が爆発する。日に日に死にゆく母の思い出の地である病院ならまだしも、なぜ絵梨との楽しい思い出が詰まった地である廃校、そして絵梨が爆発する必要があったのか。

優太には「人をどんな風に思い出すか自分で決める力」がある。そして、記憶をなくして蘇った吸血鬼である絵梨は、過去の作品化された絵梨を見る事でその作品化された絵梨となった。

家族を事故で亡くし「思い出の場所で死ぬ」と自殺しようとした優太の前に絵梨が現れる。

ここではメガネと矯正をし、自己中で友達も少なかった思い出の絵梨が、美化された偽物の絵梨として上書きされて優太の前に立っている。

実際のところ絵梨は吸血鬼ではなく、ただ亡くなった恋人と考えてみる。優太の前に絵梨が現れたという事は、つまり優太は昔の作品化される前のありのままの絵梨のことは覚えていないということではないか。その理由は、優太が絵梨の死後何度も映画を再編集していたことからも伺い知れる。そして、優太は絵梨と映画を観賞するためにソファーに座る事すらできなくなってしまった。

優太は「思い出の場所で死ぬ」と言ったが、今の優太にとって過去の絵梨も思い出の場所の記憶もはっきりと思い出せない。

それはもう「作品化される前の絵梨の記憶と、思い出の場所が死んでいる」とほぼ同義ではないか。

であれば優太の自殺に「ファンタジーをひとつまみ足す」と、絵梨と思い出の場所の爆発となるだろう。


今回は絵梨が吸血鬼でない、という前提のもと考えてみましたが、本当は絵梨は吸血鬼である、という前提のもと考察するとまた違った捉え方ができそうです。


以上

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