チクリ魔

全てのデータが吹っ飛んだ夜に、垂れ流していたテレビから銃声と笑い声が聞こえた。
青みがかった色つき眼鏡の向こう、鋭い眼光でこちら側に銃口を突きつける男。
気にせずマッチを売る少女(実際はオバサン)。
ネットで頼んだ媚薬を眺めてほくそ笑んでいた同居人が、「のたまのブレイン、相方見つかったんだね」と言った。
「のたまって何?」
「あー、あんたは知らんか。のどごし生卵。ライブシーンじゃカリスマだったんだよ」
「へぇ。解散しちゃったの?」
「うん、まあね」
「何で?」
「知らないよ、あたしに聞かんで」
これ以上触れるな、と言いたげな雰囲気を読み取り、私はおとなしくテレビ画面に視線を戻した。

『マッチ、買いませんか?』
『俺が見えるのか?』
『はい』
『怖く……ないのか?』
『はい』
『ここはどこだ』
『19世紀フランス7月革命前夜です』
『ナニッ⁉︎⁉︎』

「これおもしろいの?」
「おもしろいとかおもしろくないとかじゃないから」
「はあ……」
おもしろさ抜きにして、どうやってお笑いについて語れと言うのか。
マッチを繋げて指揮棒にし踊り狂う少女(実際はかなりオバサン)と、どでかいマシンガンでリズムをとる男。
大音量でゴリエのペコリナイトが流れ、やがて暗転した。

「相方変わっても頭ン中変わってないよ、この人」
「ふうん」
嬉しいのか哀しいのか見分けのつかない表情で呟く同居人の傍ら、ゴリエの懐かしさに思わず息をのむ私であった。

ハマショーの『MONEY』がすきです。