存在しない夜
ドロドロのジャージ上下で酒屋の前に立ち尽くす男に缶ドロップの薄荷をあげたのは、3日前に祖父が死んだからだ。
行動と理由に直接的な関係はなかった。
ただ地球上に存在するすべてのバランスを整えようと、私は一粒のそれを手渡した。
男は無言で受け取り、しばらく舐めた後ペッと吐き出した。
「薄荷きらいやねん」
「最初から言えや」
「こっちは毒や思たから受け取ったんや」
「なんや、死にたいんか」
「まあな」
「ほな尚更吐き出すなや」
「うっさ、こっちはな不治の病なんじゃ」
「藤野? 聞いたことないなあ」
「不治の病ちゅーとんじゃ」
「山井? それを言うならKAWAIやろ。YAMAHAとごっちゃなってんで」
「なんで聞き取られへんねん、こいつ」
誰からも愛されたことがない二人が惹かれ合うのに時間はかからなかった。
「いや、展開はや」
「巻こうとすな」
「思いつきで書くな」
「言葉の羅列で天才肌ぶんな」
「小説のなり損ないを詩と定義すな」
「入れ子構造でそれっぽくすんな」
無数についた傷は手首を超えて腕に上り詰め、男が下げたビニール袋に夜露が光る。
「中身なんなん?」
「遺骨」
「誰の」
「俺の」
「また言うとんで」
「言わされとんねん」
遺骨。墓穴。鎖骨。恥骨。
「そういえば昔な、鍼灸師に恥骨めっちゃ触られたことあったんやん。あれってセクハラなんかな。そういう治療やって言うてはってんけど」
「そんなやつを敬うな。言うてはって、って言うな」
「強くなりたい、私。ガガ様があこがれやねん」
「ガガ様って、ガガガspのこと?」
「……もう、そういうことでええわ」
「諦めんなよ」
「笑うことを?」
「せや」
「お前もな」
「やかましわ」
ジャンジャガジャガジャガ、ジャンジャガジャガジャガ、ジャッ、ジャッ、ジャ。
苦悩は永久に続く。
純粋にならずに済んだのがせめてもの救いか。
ハマショーの『MONEY』がすきです。