レイシストとぶつかった日

イギリスのブライトンは、比較的リベラルな街だとは思うが、Brexitが決まった後は、今までに体験したことがない路上でのレイシズムを体験することが多くなった。その体験の中の一つを書こうと思う。


ある日の夕方、家の近くの住宅地を歩いていたら、白人の中年男性が、すれ違いざまに、'Go Back to China.'と言葉を投げつけてきた。私はすぐには反応できなかった。今のって俺相手の言葉なのか?と考えてしまったのである。外見的には似ているので、一緒くたにされる可能性があることは分かっていても、自分を日本人と捉えているからだ。言葉を放った相手は、まるでこちらがもう存在しないかのように先を歩き続けていた。

アメリカの黒人のスタンダップ・コメディアンのDave Chappelleは、本気のレイシズムを体験したときは、怒りというより、驚きが先に立つというジョークを言っていたが、それに近いかもしれない。そのせいか、この事件はそんなに心に引っかかる事はなく、冗談として友達に話した位である。

一ヶ月後。同じく、家の近くのバス停のそばを歩いていたら、恐らく、前と同じ白人の中年男性が「I don't think this is China」と言葉を投げつけてきた。前と同じように、言い放った後は、こちらの存在を気にもかけないように先に進んでいく。

今回の自分の反応は違った。去っていく相手に対し、自分は'Are you talking to me?'と声をかけ、引き留めた。男性は立ち止まり、振り返ったが、何も言わずに歩き始めようとする。まだ、こちらの気持ちは収まらない。

’ Hey, I am not from China, Ok?!’ 

彼は立ち止まり、振り返ったが、また無言だった。そして立ち去ろうとした彼を観て、全身を怒りが走り抜けた。どこまでもやる覚悟とはああいうことかもしれない。

’Hey Apologize!' 

私は彼に向かって怒鳴っていた。彼は立ち止まり、私を見て、何かをモゴモゴと言った。距離があったせいで聞き取れなかった。ひょっとしたら謝ったのかもしれない。そして、彼はこちらに背を向け、立ち去り、私はそれ以上何も言わなかった。殴り倒せば良かったかもしれないと後悔しながら。

もちろん、自分は中国人だと間違えられたから怒ったのではない。まるで娯楽かのように人に対してレイシストな言動を振る舞っていいとする、その無知さ、傲慢さが我慢ならなかったのである。

後日、Facebookにこのエピソードを公開したら、多くの友達が励ましてくれたが、自分は、あれで良かったんだろうかという思いがあった。メキシコ人の友達は、「殴らなくて正解だったよ。」と言ってくれた。今、振り返ってみると、殴らないことが正解だったというより、自分の行動はあれで十分だったのだと思う。

あの男性がその後、言動が変わったのかどうか、自分には分からない。でも、あの瞬間、彼は他者を体験しただろう。

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