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『目と葉なのさ』木談 最終回【マンガ】【小説】

いつも通り登校するためにバスに乗っただけなのに、居眠りしたらいつの間にか見知らぬバスに乗っていた。降りるとそこは声も音も匂いも知らない見知らぬ土地。気づくと制服もカバンも身体も変わっていて、私は誰かになってしまった・・・。
昭和26年にタイムトラベルをした女子高生。彼女はどうしてここにいるの?

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 右側からバサリと何かが落ちる音がした。そちらを振り向くと、そこに老人が立っていた。
 私の全身が反応した。全身に鳥肌が立って、全ての毛穴からおさげが結えるような長毛が生えるかのような勢いだった。
「あ・・・・・・・・・・・!」
 私には老人が誰なのかすぐに分かった。
「お赤飯?シジミの味噌汁?煮っころがし?デパート?ワンピース?お嬢さん、今そう言ったのかい?」
 やっぱりやっぱりそうだ!!!!!!私には分かる!!!!!!!!!!そこに立っている老人はシゲだ!!!!!どう見ても私のカワイイ弟だ!!!!!!
 私は返事の代わりにシゲに抱きついた。ビックリしたシゲは腰が抜けそうになる。私は血液全てを出さんばかりに熱く大泣きして、年上のシゲを労わることができない。
 年上の弟シゲは姉様で年下の私たちを労わって、神殿側のベンチに連れて行ってくれた。
「お嬢さん具合が悪いのかい?」
 私はまだシゲの腕にしがみついて泣き続ける。シゲの服が赤く染まりそうなくらいの大泣きだ。何せ二人分だからしょうがない。
「お嬢さん大丈夫?何か辛いことがあったのかな?」
 私はシゲの手を握った。ビックリするシゲ。ああ、シゲの手が大きい。温かい。シゲは私より大きくなった。指の節くれが、浮いた血管が、しわがれた声がたまらなくカワイイ。見てよ、シゲのシミやしわ。愛しくてたまらない。ところでシゲ、あんた髪の毛どこに落としてきたの!
 私たちが泣き疲れて落ちつくとシゲはお茶を買ってくれた。
「ありがとうございます。いただきます」
 ああ全身に染み渡る。今の私の血液はきっと緑色に違いない。
「お嬢さんどうした?こんなジジに抱き付いて大泣きするなんて、おじさんびっくりしたよ」
 おじいさんなのにおじさんというところが何となくシゲらしい。私たちが笑顔をシゲに向けると、シゲも笑顔を返してくれた。ああ、シゲの笑顔。なんて愛くるしい笑顔なの!!だから私たちはシゲにもっと笑顔を向けた。
「私ね、あそこで悲しいことがあったの」
 シゲの顔色が変わった。
 だから私はシゲの後襟を掴んでやった。
「あ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「何しけた顔してんの!あんたはもう年寄りだから、今日は投げてやらないよ」
 シゲが少年のような目を震わせてこちらを向く。私たち3人は目が合った。
「お赤飯もシジミの味噌汁も煮っころがしもデパートも食堂もゴメンね。一緒に食べたかったし、行きたかった。でも前の日に一緒にみんなで卵入りカレー食べられて嬉しかった。最後の朝ごはん、とっても楽しかったし美味しかった」
 シゲが声にならない声で何かを言う。何かわからないけれど、私は姉として笑顔で頷き、シゲの頭を撫でた。
「シゲ、色々ありがとう。姉様のようにちゃんと勉強しなさいよ。それじゃ私は行くね」

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 それから私は市営墓地へ行った。増田家のお墓を探そうとすると、不思議と花の香りが漂ってきた。私はその香りを追い、着いた先は増田家の墓だった。
「ああ、私の名前」
墓碑に由良の名前がある。由良も祖母も父も母も共に眠っている。
「ごめんね。お花もお線香も供えたかったけど、色々面倒があったら困るから」
 私は代わりに墓石を抱きしめた。父と母と祖母と由良を抱きしめるように墓石を抱きしめた。
「・・・ごめんね。本当にゴメン。お父さんお母さんおばあちゃん本当にゴメンナサイ。・・・・・・・・・・・・・ありがとう」
 私はその夜、カレー屋に行った。このカレー屋さんは銀のステンレス皿で、柴漬けと福神漬けが食べ放題。1皿目は普通に、2皿目は卵を追加した。
「由良、お父さん、お母さん、おばあちゃん、シゲ、これが私の理想だよ」
 2皿目は卵だけでなく福神漬けもカレーにまぜた。私は6人で食べるようにゆっくり味わって食べた。だから私にはとてもとても足りなくて計3皿平らげた。デザートにあの板チョコを買ってホテルへ戻った。
 私は板チョコを齧りながら次の目標を決めた。
「バイトして、お金貯めて、チョコ食べながらイイ席で相撲を見よう」
 翌日、空港へ向かう前に由良の村へ寄ろうとバスに乗ったのだが、気分が悪くなってバス停を通過してしまった。そうだよね、由良。家の辺りに行くってことは、あの犯人の側に行くってことだもんね。そんなの嫌だよね。お墓に行けば十分だよね。シゲにも会えたもんね。私はお土産を沢山買って実家へ帰省した。
「お母さん、お赤飯食べたい。小豆の方!」
「え?小豆?甘納豆じゃなくて?」
 私は母にお赤飯をおねだりした。
「あと、煮っころがしとシジミのお味噌汁。お父さん、いいでしょ」
 私は父に煮っころがしとシジミの味噌汁をおねだりした。
「いいけど、随分年寄りみたいなメニューだな」
そしてリクエストの夕飯を食べながら、みんなでデパートに行って外食することをおねだりした。父は珍しく了承した。
母「子供っぽい子が大学に行ったら大人びたんじゃなくて年寄りじみたなんて、何があったの」
父「なんかの作戦じゃないか?何か欲しいものがあるんだろ。言ってごらん」
 私はワンピースが欲しいと言った。
その週末、家族4人でデパートに行った。姉はこの年で家族4人でデパートなんて!と恥ずかしそうにしながらも同行してくれた。そうだよね、こんなこと私が小学5年生以来だもんね。私達随分大きくなった。
 デパートで由良好みのワンピースを買ってもらった。小花と虹柄のワンピース。姉もワンピースを買ってもらって、私よりもはしゃいでいた。
 デパートでの外食。父はたまにはこんなこともイイなと満足気。娘が大きくなってから気づくなんて遅いよお父さん!私と姉が自立する前に、また4人でデパートに行こうよ。外食しようよ。人生、いつ何が起きるかなんて分からないんだからさ。

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皆様本当にありがとうございました(*^-^*)☆

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