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プロショップが持ち込みを嫌がるワケ

今どき、インターネットを使えばいろいろな情報が手に入り、海外の機材もわりと簡単に手に入るようなりました。買うだけでなく個人でも出品することができるようになりとても便利です。

そんな時代だからこそ、われわれ店舗型のプロショップは重要な役割を担って、なくてはならない存在だと考えています。その理由をいくつかご紹介しますのでインターネットで買い物をする際の注意点やプロショップと付き合うメリットを理解した上で、安心・安全なサイクリングライフを送って頂ければと思います。

まず大前提に

工業製品はすべてが良品とは限らない

「6σ」「公差」という言葉をご存じですか?工場で働いていた時によく使っていた言葉です。

6σ・・・不良率の話です。100万個作ったうち不良は3~4個くらいに抑えようという活動です。あくまで目標なので実際にはもっとたくさんの不良品が流出しています。

公差・・・製品にはバラツキがあります。このバラツキの中で許される(性能に影響しない)範囲のことを公差と言います。例えばホイールのフレは0.1㎜くらいでしょうか。0.1㎜のフレは目視で確認できますが「良し」としようというわけです。

住宅建材メーカーで品質関係の仕事をしていた時、工場出荷時の不良を減らす活動について、また不良発生のメカニズムについてたくさん勉強しました。同時に現場の大工さんが巧みな技術で加工してくれたり、カスタマイズしてくれるところを目の当たりにしました。

私たちプロショップは目利きの役割もあります。届いた製品が正しく製造されているかチェックし、返品することもありますし、加工を加えることもあります。

手元に届いた商品が良品か?不良品か?判断することができなければ個人売買や海外通販はしない方がよいです。

余談ですがイタリア製クロモリフレームを組む時は各種リーマー、やすり、ノギス、マスキングテープは必須アイテムですが、これはそういうものです。精度が低いのではなくメーカーと販売店の作業の境目が違うだけです。(精度出しは販売店の仕事と考えるイタリアンブランド)もちろん高度な技術と専門工具が必要なので個人では無理です。

メーカーと販売店は強いパートナーシップで結ばれた関係を築いています

正しく組み上げ、メーカーの狙い通りのパフォーマンスを発揮させるためには必ず「強いパートナーシップで結ばれたメーカーとの関係が必要」です。気になることがあれば都度、メーカーのテクニカルセンターに確認しながら作業を進めていきます。ですから当店ではテクニカルセンターを設けていないブランドや製品知識の浅い輸入代理店とは契約しません。

当店に限らず、ショップごとに得意としているブランドやパーツがありますので気に入った自転車があれば、それを専門に扱うプロショップへ行ってみるとよいです。

大事なのは素材ではなくエンジニアが思い描く理想と表現力

フレームをカタログで比べるなら、まずデザイン。そして重さ。素材などでしょうか。何はともあれ、ホイール・コンポーネントを組み込み、走らせたときに気持ちよければ問題ないのですが、同じようなスペックに見えてもバイクによって性能の差はかなり大きいのです。カタログデータから読み取ることはほぼ不可能。重さは一番わかりやすい指標かもしれませんが、同じ重さのバイクでも「加速がよいバイク」と「高速で伸びるバイク」「軽く感じるバイク」いろいろあります。軽ければ速いとは限らないのです。

素材についても同じです。カーボン繊維にはグレードがあり、同じ繊維でも何種類ものシートがあり、使い方によってまったく違う乗り物になってしまいます。堅さが必要な場所には堅くなる素材。剛性が必要なところにはそこに適した素材。弾性が必要なところには・・・ただ高級な素材を使えばよいフレームになるわけではないのです。無数にあるカーボンを組み合わせ、できるだけ少ない素材で強度・剛性・振動吸収性を達成させなくてはなりません。料理で言えば、高級な食材を使えば誰が調理しても美味しくなるわけではないのと同じ。その素材をどのように組み合わせ・・・最後は料理長のセンス・さじ加減。そして料理長と美食家の好みのマッチング。メーカーのチーフエンジニアが思い描く理想のバイクスペックがどれだけ突き抜けているか。そしてどれだけそれをバイクで表現できたか。ということになります。

バラせばわかる造りの善し悪し

機械工学を学ぶ過程で必ず履修するCAD。パソコンを使って図面を描く技能。描くこと自体は難しくないのですが、強度計算して板厚を設定したり組み立てる手順を想像しながらボルトの位置を決めていく。「仕様はこれでいいけど、どうやって組み立てるつもり?このナットにどうやってレンチをかけるか考えた?組み立てられないでしょう」という指摘を受けたことを思い出します。自転車でもよくあります。ハンドル周りのケーブルが内装になってきた頃からなかなかうまく収まらないバイクが多いのです。ボルト一つ締めるのに20分くらい格闘することもありますし、ハンドルを切りすぎるとケーブルが折れて調子が悪くなったり。自転車の乗り方は人それぞれです。レーシングバイクであっても輪行したり車載することもあります。出先でステムを調整したくなることもあります。完成した状態でケーブルや配線にストレスがかかっていないか。リセッティングする際、工具のアプローチは簡単か。本当にオススメしたいバイクはそのような観点からチェックしても優れているバイクなのです。それ以外の自転車が全て悪いわけではありませんが、そのショップが得意とするメーカーと機種を選ぶことは安全で確かな自転車選びと言えます。

保証については大きな問題

持ち込まれた車体は(特に当店で扱っていないメーカー)は初期不良があっても返品することはできません。それなりに工夫して乗れるようにしますが、メーカーが提供するベストなパフォーマンスが得られないことがあります。

完成車になってしまうと個人でメーカーへ訴えても責任がメーカーにあるのかショップにあるのか所有者にあるのかわからなくなります。何より初期不良に気づかずに乗っている方が多く、結局ユーザー様が損することになりますのでまずは購入したショップで組み立ててもらうことをオススメします。

「好きなモノを買ったんだし」「安く買ったんだし」と割り切ってもらえるのなら当店でも持ち込み作業を承ります。

すべての部品は消耗品

中古部品はもっとシビアです。よく持ち込まれるアイテムの一つにホイールがあります。高級ホイールでも1万kmも乗ればそれなりに問題が出てきます。見た目がきれいでもどのように使われたかわからないものには手を出さない方がよいです。命にかかわりますからね。すべてのロードバイクはレース用機材なので扱いによっては一瞬で破損するデリケートな代物ということをお忘れなく

で、、、なぜプロショップが持ち込みを嫌がるか

プロとしてお客様の期待に応えられず、損をさせてしまうからです。

お客様には自信をもって勧められる商品を、最高の状態で使って頂きたい。

そう考えるのはどこのショップも同じです。


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