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これからの自転車店

先日、旧ジャイアントストア東広島店を閉店しました。
このストアはgiantの自転車を専門に取り扱うフランチャイズ店の第1号として2014年にグッドスピードが運営する形でスタートしました。当時は自転車ブームが盛り上がりはじめた時期、しまなみ海道が注目を集め始めた頃でもありました。広島・愛媛からジャイアントストアを全国に展開しようと目論むジャイアントジャパンと当社の思いが一致したことで実現したモデル店でした。
ジャイアントストアというフォーマットを速やかに日本全国150店舗敷き詰めて、どこで購入しても…どこをサイクリングしていても最寄りのジャイアントストアに立ち寄ることができるという構想は、整備工場やモータースではなく、メーカーの看板のあるディーラーが主体となっている自動車やオートバイ業界に習っているもので、決してとんでもない発想ではなかったのです。
目指したお店は、自転車をブームではなく文化に育てるお店。プロショップが一部のマニアのためのものでなく、はじめての方でも入店しやすい雰囲気。わかりやすく、手軽にサイクリングができるよう工夫した接客とレイアウトを意識しました。
商品展開はオンロード、オフロード、クロスに分け、レベルをエントリー、レベルアップ、シリアスレースと全部で9つのカテゴリーで表現する。それぞれに十分な商品を展開するgiantブランドだからこそ実現した理想の自転車店でした。
giantの主力商品と言えばクロスバイクのESCAPE R3。一般車から乗り換えても違和感なく運転でき、それでいてスポーティな走りを味わえることで爆発的なヒットを生み出しました。私達はこのESCAPE R3のオーナーにもっと自転車のポテンシャルを楽しんでもらい、サイクリングを楽しんでもらうためにいつでも点検を無料で行い、ジャイアントオーナーが集うイベントを開催。もっと自転車を楽しんでもらおうと取り組んできました。
その甲斐もあって、クロスバイクからロードバイクに乗り換えるお客様も増え、ストア所属のサイクリングチームで島をサイクリングしたり近場のイベントに参加したりしました。
ジャイアントストアのもう一つの役割として、giantのミドル-ハイクラスの魅力を伝えることがあります。giantのバイクはワールドクラスのチームが使用する世界トップレベルの技術と品質を持ち合わせています。中には100万円を超えるバイクもあります。これらのバイクを憧れで終わらせず、是非ご自身のガレージに納めてもらいたい。そしてその性能、機能美を堪能してもらいたいと考えました。
実際にはジャイアントストアの展開はうまく進みませんでした。10年経った今でも店舗はほとんど増えておらず、都道府県に1店舗ずつはありません。2年で150店舗というのは目標ではなく私たちが生き残る必要条件だったのです。先発した広島県内は4店舗にまで増えましたが、今ではOnomichi U2内にある尾道店と香川店長率いる宇品店のみであり、ジャイアントストアと言う付加価値を持たないまま孤軍奮闘している状態です。
悲観的なことを言ってるのではなく、時代が変わりストアの役割が終わっただけなのです。
10年前はメーカーやショップのホームページやブログが情報源(その前はホームページのみ、もっと前はサイクル雑誌が情報源)だったのに対し今はSNSの時代。ストアが情報を発信する必要がなくなったのです。
同じタイミングでコロナ禍に突入したことも時代の進みに拍車をかけました。フィジカルでなくオンラインで情報収集ができ、そのままオンラインでパーツを手に入れる時代になったのです。便利なようで、昔の「誰も正しいことを教えてくれない(自分で調べろ!)」の時代に戻ったのです。
お店やメーカー側にも大いに問題あります。ディスクブレーキや電動変速システムなどの知識や技術習得を怠るお店や、最新情報をショップより先にインフルエンサーに漏らすメーカー。ストアの価値がどんどん下がっています。リコール情報ですらストアに落ちてこないような自転車業界で、店舗に出向いても…そこに正しい情報がない。店舗に行く意味などないと思われても仕方がないのです。
それでも自転車店を存続する意味について何年も考え続けました。
2006年に開業した時、当時のサイクリストの印象は「ちゃんとした自転車を持ってるのに、遊び方を知らない人が多い。せっかくのバイクを速く走らせる乗り方を教えてもらえず、サイズやポジションの合わせ方や専門的な整備を知らないお店がよくわからないまま競技用バイクを売りさばき、お客様もわからず我慢しながら乗っている。最低限のことをしっかり伝えられるお店が必要」その思いから「初心者のための練習会」をはじめて17年になります。
2024年、改めて思うことは「自転車のことはよく調べてとても詳しいのに…なんだかんだネガティブな情報が集まりすぎて手に入れることを恐れている。知識と誰かの経験談を動画や投稿で見て経験した気になって満足してはいないか」実際には動画では伝わらない感動があり、リアルでは身体の周りを流れる空気の温度や硬さは常に変化しており、誰と一緒に走るかで楽しさがぜんぜん違う。同じ場所を同じように走れることなどほとんどなく、周回路でも10周すれば10通りのフィーリングが得られるものです。
出先で出会う景色は自分だけのもので、何度も写真に収めようとしたけど、そこにいた人以外には到底伝わらない。そんな経験を共有したい。
つまりバイクは何を選んでも構わないのです。売場なんて要らない。一緒に経験できる仲間と、仲間ができる入口(仕組)があれば良いのです。今のところそのカタチはグッドスピード井原自転車店の中にあります。ついでにバイク選びやメンテナンス、カスタムなどお手伝いをさせていただければ幸いですが、今後それも必要なければ…あっけなく街から自転車店はなくなるでしょう。けど、今のところ自転車そのものの物体的魅力はとても大きく、物欲を信仰するわれわれ世代には止められない衝動なのです。
どうしても自分名義で自転車が欲しい。
シェアやレンタルでは満足できない世代が生きている限り、グッドスピードは縮小しながらでも、より濃く深く存在していこうと思っています。

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