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愛聴盤(12)ジュリアス・カッチェンのブラームスの協奏曲

タワーレコードの自主企画シリーズはよほどのクラシックファンが携わっているのか、良質な演奏を商品化したものが多い。

ピエール・モントゥーのシリーズの中で、ジュリアス・カッチェンのブラームスの協奏曲二曲が収められた二枚組CDをあらためて聴いた。オケはロンドン交響楽団、指揮は1番がモントゥー、2番がフェレンチーク・ヤーノシュ。2番もモントゥーが振る予定だったのだろうか。高齢ゆえフェレンチークは代役だった可能性がある。

まず第一に驚くのが音質の良さだ。リマスターした音源とはいえ、録音が1959年、1960年とあり、あまり期待せずに聴き始めたが、その明瞭な音に驚いた。さすがはデッカ。この頃から他のレーベルより一つ頭抜けた技術だったようだ。

第1番。第一楽章、モントゥーのブラームスは誠に雄渾。カッチェンのピアノから実に美しい音が鳴り始め、期待が膨らむ。ピアノとオケとが次第に融合していき、ライブのように白熱する。第二楽章の美しさ、穏やかさは至極の音楽。充実した音色に心奪われる。第三楽章はカッチェンの見事なピアニズムが聴ける。テンポ速いのはもちろん、音楽が引き締まっている。32歳と若いピアニストと思えない落ち着きと、疾走する音楽のバランスが素晴らしい。ロンドン交響楽団もこれに呼応するようにメラメラと燃えていく。モントゥーはこの時83歳だが、弛緩することなく、とても若々しい音楽だ。

第2番。第一楽章、カッチェンはゆったりと始めるが、次第に速まっていく。その流れがとても自然で、年齢を感じさせない落ち着きなのだ。ここでも解像度の高いデッカ録音。楽器の数が少ない時は良いものの、間接音が少ないため、トゥッティでスカスカに聴こえることがある。これはリマスターのせいかもしれない。展開部の細やかな表情、オーケストラの柔らかい表現もいい。第二楽章、フェレンチークの指揮が冴えている。とくに中間部は実に直截な表現もいい。しかし、カッチェンのピアノを邪魔せず、実に豊かな音楽を作りだしている。第三楽章のカッチェンの音楽の素晴らしさを何と表現したら良いだろう。確かなテクニック、音色の美しさ、造型の深さ、スケールの大きさ、望むものを全て持ち合わせたピアニストだ。ロンドン響もいい。第四楽章もカッチェンがフェレンチークというベテラン指揮者の見事なサポートの下で、見事なピアニズムを発揮している。リズムも正確無比、音楽性の高さを見せる。

ジュリアス・カッチェンは、この録音の約10年後、惜しくもがんで42歳で亡くなる。これだけのピアニストならば、アナログ録音全盛期の70年代、デジタル録音の始まった80年代にも素晴らしいレコードを残してくれたに違いない。

あまりにも惜しい。

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