音楽CDのIPクリーニングについて

最近、オーディオに関する情報はもっぱらYouTubeで入手している。昔はオーディオ専門誌や評論家の唱える論評を頼りにしていたが、今では、いわゆるオーディオマニアが、これまでの知見を展開しているのは、とても新鮮で、興味深く、何よりも楽しい。エンドユーザーが様々な発信ができる良い時代になったものだ。

ここ数週間、喜古英男さんという方の動画を見ることが多い。ご年齢は70歳代だろうか?とあるオーディオ専門店に長く勤め、店長をされていたそうだ。単にオーディオ機器の良し悪しを話すのかと思いきや、業界の通説から一線を画すような考え方や、オーディオ誌や評論家に対する批判など、踏み込んだ話をなさるので、毎回楽しみに視聴している。

「喜古英男の美創り(びっくり)サウンド」というタイトルで、様々な切り口で話をなさるのだが、個人的に一番「びっくり」したのが、同氏がIPクリーニングと呼ぶCDのクリーニング方法である。街の薬局で売っている消毒用エタノールIPをCDの再生面に吹きかけ、指で面全体に液を馴染ませ、ティッシュペーパーで拭き取るだけ。動画の中でも実践していて、スマホの音声からもその微妙な違いがわかるのだが、早速自分で実践してみることにした。

仕事帰りに、ドラッグストアで、消毒用エタノールIPを購入。500mlで921円。これ一本で何枚クリーニングできるのだろう。普段、レイカのビスコというレコードクリーナー(30枚で1,000円くらいする!)を使っている身には、安い投資だ。

まずはCDライブラリーの中から、製造後30年以上経過していて、仮にダメになっても惜しくないものを選ぶ。一枚一枚、クリーニング前、クリーニング後で試聴してみた。はたして「びっくり」は起きるのか?

ちなみに私すえきちの再生機器は以下の通り。

CDプレーヤー:マランツCD5001。購入後18年経過。当時2万円前後だったと思う。
DAC:Amazonで2,000円くらいで購入したPROZORという中華製。ボリュームが付いていて便利。
同軸ケーブル:Amazonで購入したFosPowerというブランドのもの。1,000円くらい。
ヘッドホン:サトレックスDH297。実売価格10,000円前後。

オーディオマニアからみたら鼻で笑われそうなチープな機器たちであるが、実験結果は正にびっくりだった。

「CDの音が良くなる」のではなく、「CDに記録されていた本来の音が聴こえる」のが正しい。CD盤面に付着していた異物が払拭されて、ピックアップに正しい情報が伝達されるせいだと思う。

キンキン聴こえていたピアノの音がまろやかになり、音に芯があるのがわかる。ヴァイオリンの音も太くなり、弓と弦が擦れる細やかな感触が伝わる。楽器の中で最も印象が変わったのはチェンバロ。チャラチャラと耳障り演奏に感じていたのが、甘美な音になり、長い時間聴けるようになった。もちろん、オーケストラも解像度が上がり、各楽器の音が明瞭になる。写真でいえば、ピントが合い、輪郭がはっきりする。これまでホールの残響音と思っていたのが、余計な付帯音だったと判明した。

これまで聴いてきた音は何だったのか?と悔しい気持ち半分、今知って良かったと思う気持ち半分といったところか。

あくまでも個人的な感想である。人によっては、眉唾に感じる人もいるだろうし、大切なコレクションにエタノールを吹きかけることに抵抗がある人もいるだろう。

しかし、これによって自分の大切な音楽鑑賞の時間が豊かになったことは間違いない。今日は、シュターツカペレ・ドレスデンのブルックナーを再生。ふくよかで深い音に聴き入ってしまった。

所有するディスクの全てをIPクリーニングするか否かは決めかねているが、仮にダメになっても買い直せるタイトルを中心に試してみたい。

喜古英男さんには、本当に感謝しかない。

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