見出し画像

愛聴盤(8)ブルックナー5番 ケンペ/ミュンヘン・フィル

ルドルフ・ケンペ指揮ミュンヘン・フィルハーモニーによる交響曲第5番。1975年5月にBASFによってセッション録音された名演奏だ。これが私にとって、最初に聴いた第5交響曲であるが、とても幸福な出会いだった。大学生の頃、これを聴いて、ようやくブルックナーの真髄に触れた。

1990年前後、都内のショップで、テイチク・レコードが販売する国内盤CDを見つけた。二枚組3,600円。帯には明朝体でこのように書かれている。

「巨匠ケンペの大いなる遺産、永久保存の決定的名盤。」

装丁からして、グラモフォンのようなメジャーなレーベルと一味違う雰囲気を醸し出していて、生まれながらのマニア心をくすぐられ衝動買いしてしまったのだが、結果として、大正解だった。

この国内盤には、宇野功芳氏による10ページにわたる解説書が入っている。宇野氏は、音楽評論家の中でも、個人的な好き嫌いがはっきりしていて痛快なので、特定の信者がいた。この方のブルックナー愛は濃厚。このケンペの演奏に関する評論は、いま読んでも実に的を射ていると思う。

ケンペの音楽は彫りが深い。とてもダイナミックで、筋肉質なものだ。その音楽性が、ややゴツゴツした第5交響曲によく合っているし、そして巨大な構築物の如きこの曲のフォルムを見事に表現してみせる。いたずらにスケール感を求めないところに共感する。

荘重に始まる弦の深い音色のピッチカートに続き、管楽器のコラールが奏される。転調を繰り返しても、音程がビシッと決まるのが実に心地よい。ソリッドな音質のミュンヘン・フィルも大健闘。仄暗い音色の管楽器や弦楽器はブルックナーに良く合う。

先に触れた宇野氏が、解説の最後に、「この次は『第八』を是非録音してほしい」と書いているが、残念ながら実現しなかった。

名指揮者ルドルフ・ケンペは、この録音の約一年後に逝去。享年65。ミュンヘン・フィルとのブル8の録音は叶わなかった。ブルックナー信徒にとって、痛恨の極みである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?