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#8 桃始咲の日記(3/10~3/14)

3/13

ふっと目がさめたら春の土曜日の朝だ。自転車に乗って、パン屋へ向かう。この街には不動産屋と学習塾と美容室とパン屋がとにかくたくさんあるけれど、これまではどれにも見向きもしていなかった。いまはべつだ。もともとごはん派だったわたしに、友人が先日パンのおいしさを教えてくれたのだった。ミツコジジャムという、イギリスでマーマレードの賞をもらった方がつくっていて、すぐに売り切れてしまうという幻のジャムを運良く手に入れたことからパン食べ食べ委員会という、その名の通りパンをたくさん食べる会を開催したのがわたしのパンデビューの日だ。いくつかのパンをためしてみたけれど、スーパーの近く、住宅街にひっそりたたずむちいさなパン屋が気に入った。売り場面積は2畳ほどで、ショーウィンドウに並ぶパンの種類は20もないんだけど、「どっちり」という形容が似合うしっかりした生地がとてもおいしい。もっちりした白い生地に、チョコレートとオレンジピールが練り込まれた週末限定のパンが特にお気に入り。朝9時にそれが焼き上がることをえんぴつ手書きのチラシで知って、それを買いにきたのだった。3本、と伝えると店員さんが3本、とすこし驚くように聞き返すので、これが好きなんですけど先週は売り切れていたから、と言い訳をすると、ありがとうございます、とひとつずつ袋に分けてエコバッグに入れてくれる。パンを前かごに載せて、駅前整骨院へ。この堅太りのお兄さんは、力加減を気にしてくれるけれど、ぎゅううと圧をかけられている状態で質問されてもうまく答えられない。

整骨院を出て、また花を見やる。駅前に佇む立派なお屋敷の立派な2本のモクレンが改札を出る人の目を楽しませる。濃い紅色と白色の大きな花は、この季節にこの駅に降りた人が最初に目にすれば、それだけでこの街がいい街だとわかるくらいに印象的で魅力的だ。モクレンは哺乳類みたいなつぼみもこのうえなく愛しいけれど、今年はそれをほとんど見る間も無くて、うつりにけりないたずらに、だなあ。モクレンは北朝鮮の国花だそうで、モクレンのうつくしさにほれぼれ見とれるたび、いつも北朝鮮の人たちの花を愛する心にも想いをはせてしまう。火曜日の生け花のお稽古に遅刻していったので、だいすきなモクレンを選べなかったなとねちこくおもいかえす。

駅前のスーパーで、ジュースとワインも購入する。最近気に入っている大好きな飲み物は、トロピカーナの100%マンゴージュース、コノスルのオーガニックワインシャルドネ、明治ブルガリア飲むヨーグルト、ティーポンド・アールグレイブルーバードのアイスティー、それから冷たいそば茶。銘柄指定でこれだ。今日なんて、このうち4種開栓されてる。贅沢な冷蔵庫だ。ハマるとそればかりになる人は、うつになりやすい傾向だと聞いたのをおもいだしてどきりとする。鶏肉も買う。これをせいろで蒸すとごちそうになる。元町中華街の問屋みたいなところで安く買ったせいろだけど、今年買ってよかったものランキングに入るかもしれないアイテムだ。白菜の甘みもこれで知った。

キャンドゥで、祈りを込めて18センチのケーキクーラーを買った。焼き菓子の粗熱をとるための台みたいなもの。思ったとおり、片手鍋とせいろの直径差を埋めてくれるのにシンデレラフィットしてくれたのでうれしくなる。これでますます蒸しがはかどるね。

サウナへ。えーえんとくちから。休憩室の本棚に見かけてヒカルの碁が読みたくなる、というのも、主題歌のGet Overをカラオケでいつも歌ってしまうからだね。

美容室へ。

夜、最寄駅を出た瞬間、人肌の夜に溶けこんだ春の香りがふっと鼻をくすぐって、あ、春がきたのだと知った。いつもタクシーが止まっている駅前のちいさなロータリーの花壇が目にも鮮やかにさきほころんでいる。

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