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今夜も召し上がれ 第6.5夜

親子のようなもの丼


 さて、昨日鶏モモ肉のパリパリ1枚焼きをしたわけだが、なにせ貧乏性の俺はそれを1枚贅沢に食べるということが出来ないのである。
 冷蔵庫のなかに鎮座する、昨晩残した二切れの鶏モモ肉。 
「びんぼーしょー……」
 左手で腹の空き具合を量る。朝は安売りになっていたチョコレートのコーンフレークでささっと済ませたので、昼だが今日は腹に溜まるものが食べたい。
 こういう時は、どんぶりだな。
 朝さぼった洗い物をちゃちゃっと済ませ、軽く水気をはらってから五徳にフライパンを乗せる。
 卵をふたつ、マグカップのふちで割り、どんぶりのなかで数回かき混ぜておいた。
「昔、親子丼の作り方も調べたような気がするんだけどなあ……覚えてねえなあ」
 この間残しておいた半玉の玉ねぎを一枚ずつ剥いて、細切りを作る。どんぶり一杯にモヤシ一袋は多いから、半分だな。ボウル代わりにしているなべて軽く洗ってから、小口切りにした長ネギと一緒にフライパンに入れて、蓋をする。
 モヤシの水分で、弱火のまま蒸し焼きにするという寸法だ。ちょっと汁っぽい方が親子丼らしさがあるような気がするのは俺だけだろうか。
 フライパンのなかが沸騰するまでの間に、昨日の鶏モモ肉をひと口サイズに切り直す。
 鶏肉は皮がいちばん美味しいと思う。
 玉ねぎにある程度火が通って透明になったのを見計らい、中央に肉を投入する。鍋肌にめんつゆを入れて、もうひと煮立ちするのを待つのだ。
 このコンロは弱火が苦手らしく、気付くと消えていることもあるのだが、モヤシも玉ねぎも、クタクタになるまで煮るのが俺の好みだ。弱火を覚えてもらいたい。
 ぐつぐつと、半身浴のモヤシが踊り始めた頃に、一気に溶き卵を入れて火を消した。間髪入れず蓋を閉め、卵が半熟になるのを待つ。
 水ですすいだどんぶりにご飯をよそい、ガーっと物をどかしたローテーブルの真ん中に置いた。麦茶を注いだマグカップを置いてから、フライパンに載せた蓋を開ける。
 半透明に変色した白身と、つやのあるままの黄身。
「うん、完璧」
 これをどんぶりご飯の上に載せようとして、俺は気付く。
 このフライパン、どんぶりより大きいな?
 卵とじにした具が乗り切らずにこぼれるのはよろしくない。
 鍋掴みと鍋敷きを兼業しているキルトのミトンをどんぶりの隣において、その上にフライパンを置く。別にどんぶりに乗ってないといけないなんて法はないしな。
 めんつゆと肉のいい匂いがする。
 大ぶりなスプーンを用意して、あぐらをかいて座る。
「そんじゃ、いただきます」

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