見出し画像

──パフォーミングアーツと知的財産権──高島雄一郎 弁護士/登大路総合法律事務所

一般財団法人たんぽぽの家では調査や研究、事業などの成果をより多くの人と共有できるように、書籍シリーズ「障害とアートの相談室」を発行しています。ここでは、2020年に発行した書籍『表現をめぐる知的財産権について考える本』をより多くの方々に知っていただくために、本書にご寄稿いただいた法律家の水野祐さんのコラムを、クリエイティブ・コモンズ< 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 (CC BY-NC-ND 4.0) >の下に、公開いたします。

画像1

表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 (CC BY-NC-ND 4.0)


──パフォーミングアーツと知的財産権──

高島雄一郎 弁護士/登大路総合法律事務所


パフォーミングアーツと著作権

1 パフォーマンスの著作権とは 

 みなさんが「著作権」と聞いて、まずはじめに思いつくものは、小説、絵画、映画などの、言語や映像に関する著作物でしょう。

 しかし、パフォーマンスと呼ばれるものについても、著作物にあたることがあります。

 著作物とは、「思想又は感情を」「創作的に」「表現した」ものを指します (著作権法第2条第1項1号)。ですので、この要件にあたるものであれば、言語や映像等に限られず、著作物といえるのです。例えば、音楽や舞踏(ダンスなど)については、著作権法上も、著作物にあたることが予定されています(著作権法第10条第1項2号、3号) 。

 さて、ここでいう音楽とは、歌詞や楽曲のことを指します。ですので、作詞家や作曲家が音楽の著作権者として保護されることになります。曲が何らかの媒体に固定化されている必要はありませんので、即興音楽の曲も、音楽の著作物に含まれます。

 また、ここでいう舞踏(ダンスなど)とは、踊り譜や振り付けの型のことを指します。ですので、振付師などが  舞踏の著作権者として保護されることになります。音楽と同じく、即興のダンスパフォーマンスの振り付けであっても、舞踏の著作物に含まれます。

 では、音楽における歌手、ダンスにおけるダンサーについてはどのように扱われるのでしょうか。実は、歌手やダンサーは、著作者ではなく(作詞、作曲、振り付けまで行っていれば別ですが)、著作権によって保護されるわけではありません。だからといって、そのパフォーマンスにまったく権利が認められないというのも納得できないでしょう。

 この点については、後述しますが、歌手やダンサーなどのパフォーマー(実演家)については、著作隣接権という権利によって保護されることがあります。

2 どんなパフォーマンスでも保護されるのか?

 著作物として認められるためには「創作的に」表現すること、すなわち独創性があることが必要となります。

 しかし、パフォーマンス(の型)に独創性がめられることは、実は難しいことでもあります。

 例えば、社交ダンスの振り付けに、著作物性を認めなかった裁判例があります(東京地裁平成4年2月28日判決)。その理由としては、まず、社交ダンスの振り付けは、既存のステップの組み合わせであり、各既存のステップは短く、ごくありふれたものにすぎないため、各既存のステップ自体に独創性がないからです。また、新しいステップについても、短い身体の動き自体に著作物性を認めて、特定の者に独占的な権利を与えてしまうと、本来自由であるべき人の身体の動きを過度に制約することになってしまうからです。すなわち、特定の人に対し、ある動作についての独占的な権利を与えてしまうと、他者が自由に身体活動を行えなくなってしまいますし、また、ほかの振付師の活動を過度に制限することにもなってしまうのです。

 そのため、ダンスの振り付けを著作物と認めてもらうためには、振り付けが既存のステップの組み合わせにとどまらず、顕著な特徴を有するといった独創性を備えることまでが必要になるのです。

パフォーマーの権利

1 著作隣接権とは?

 前述のとおり、歌手やダンサーなどのパフォーマー(実演家) には、著作隣接権というものが認められています (著作権法第89条第1項)。著作隣接権を認める意義は、実演家等が、著作物を公衆に伝達する上で重要な役割を果たしているため、実演家等の伝達行為が活発に行われるように、彼らに保護を与えたという点にあります。

 その保護の内容は、実演家の実演(演奏や演技などのパフォーマンス) を、①勝手に録音・録画されない(録音・録画権)、②勝手に放送等されない(放送権・有線放送権) 、③勝手に公衆に信可能な状態にされない (送信可能化権) 、④その録音・録画媒体を勝手に譲渡されない(譲渡権) 、⑤録音・録画媒体を勝手に貸与されない(貸与権)というものです。

 また、実演家の人格的利益を保護するために、⑥実演家の名前の表示・非表示について決める権利(氏名表示権) や、⑦名誉や声望を害するような形で実演の変更・改変等をされない権利(同一性保持権)も認められています(実演家人格権) 。

 これらの権利は、実演を行った時から発生し、その日の属する年の翌年から70年間認められることになります(著作権法第101条第1項、第2項)。

 また、これらの権利が侵害された場合、実演家は、侵害行為の差し止めや、損害賠償を請求することができます (著作権法第112条第1項) 。

2  誰もがパフォーマーの時代  

 近年、インターネットの普及や、動画配信サイト等の流行により、誰もが自身のパフォーマンス(歌唱、演奏、ダンスなど)を、当たり前に公衆に向けて発信することができるようになっています。

 そういった意味では、 誰もがパフォーマーたり得る時代といえるでしょう。

 ですので、自身のパフォーマンスを勝手に使われた、勝手に改変されたなどの問題が、身近に起こる可能性は十分にあるのです。もはや、知的財産権という権利は、みなさんに関係のないものではなく、みなさんの身近に存在している権利といえるでしょう。

 そして、誰もがパフォーマンスを自由に発信できるということは、ほかの誰かの権利を侵害する危険と隣り合わせているのです。既存の楽曲やダンスを実演して、これを動画で撮影し、公衆に向けて配信することで、楽曲の作詞家や作曲家、ダンスの振付師の著作権を侵害する可能性がありますので、十分に気をつける必要があるでしょう。

 誰もがパフォーマーたり得る時代だからこそ、ほかの誰かの気持ちを考え、尊重したうえで、 自身の表現を行う必要があると考えます。

高島雄一郎(たかしま・ゆういちろう) 弁理士との知的財産権に関する勉強会の開催や、知的財産権に関するセミナーにおける講師としての活動に従事。「障害のある人のアートと著作権に関するセミナー」講師(2017年2月18日、同年3月18日、@Good Job! センター香芝)、「障害のある人の知的財産権について考ええるセミナー」 講師2018年3月3日、@たんぽぽの家アートセンターHANA)。


高島雄一郎さんのコラムが掲載されている書籍『表現をめぐる知的財産権について考える本』はたんぽぽの家オンラインサイト「たんぽぽブックストア」、Amazonからもご購入いただけます!

▼Amazon 発売記念割引キャンペーンも開催中! ▼

8/17 ~ 9/17 の期間中、Amazonで『表現をめぐる知的財産権について考える本』をお求めいただくと書籍が25%OFFになるお得なキャンペーンを実施しています!この機会にぜひどうぞ!





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?