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お花を贈り合う文化はなくならない/ スマート農業と障害者就労をリンクさせた胡蝶蘭づくり:N P O法人Alon Alon

NPO法人Alon Alon(アロンアロン)では障害のある人たちが胡蝶蘭を育てる仕事をして、そのお花を企業に販売することで、“社会ではたらく”支援をおこなっています。(最新の就労率は驚きの100%!)

ところがコロナ禍になり、一時的に取引先だった企業からの購入がピタリと止まりました。

そこで、企業ではなく一般の個人のみなさんにシフトして、共感でつながってもらう新たな取り組みに挑戦。今までライバル関係にあったお花屋さんともタッグを組んでお花を届ける事業も始めました。結果、収益は以前より上がったそう。

先日のオンラインイベントでは代表の那部智史さんにコロナ禍になってからの新たな取り組みやこれからの仕事のお話をお聞きしました。

Q. コロナ禍に入って収益が下がるのではなく、かえって上がった理由はなんですか。

わたしたちは就労継続支援B型事業所を運営していまして、障害のある方に胡蝶蘭を栽培してもらい、それを企業に販売して工賃をだしています。

でも、「胡蝶蘭を買ったことあるかたいらっしゃいますか?」と聞いても、一般のかたはそんなに胡蝶蘭は買わない。

でも、家族や大事なひとのお祝いや記念日にお花を贈るかたはどれくらいいますか?」と聞くとその場に200−300人いたら7割―8割くらいの人が手をあげます。

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温室には各所に様々なセンサーが設置してあり、コンピューターによる太陽光量や空域の流れ、温度、二酸化炭素などをオートメーション制御。福祉業界で長年経験を積んだスタッフが栽培指導を行なっている。 https://alonalon-atelier.com/

そんな方々に、「だったら来年の母の日に一万円のお花を贈ろうとおもうのならば、今年のうちに1000円の苗を10個買ってください」というお話をします。これが現在の活動、“バタフライサポーター”というサポーター制度です。

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胡蝶蘭は半年で出荷できるので、来年の母の日から逆算して半年前にあずかった一万円で10個の胡蝶蘭の苗を買っていただき、私たちの温室でそだてます。それが半年後、母の日の直前には10本の胡蝶蘭になるので1本一万円で売れる。その一万円を母の日に一本立ての胡蝶蘭にしたり、一万円相当の花束にして購入してくださった方のギフトとして贈ります。

そしてのこりの9本を、企業の祝い花としてこちらが販売して、障害のあるかたの工賃にするしくみです。

これが共感をいただき、現在全国で2000人くらいのサポーターさんに苗を供給していただいています。

コロナ禍になって企業に対するお花の販売がピタリと止まったのでですが、バタフライサポーター様のの1本立ての胡蝶蘭の実績がありましたので、個人向けの一本立てのお花に切り替え、それをクラウドファンディングやホームページで緊急販売しました。すると、2500人くらいから注文が入り、すべて廃棄せずに売ることができたというわけです。

Q. 鉢にある花を切って、バラして販売したんでしょうか?

花を切ったのではなく1本立ての鉢物に変更しました。
通常3本立ての鉢物は苗を3つ使います、それをバラして1本立てにしました。
普通だと胡蝶蘭は三本立てが3万円、五本立てが5万円、という形で販売しています。それをすべて一本立てにすることで、「お盆に会えないおばあちゃんにお花を贈ろう」という形で一般の方がどんどん買ってくれたので、むしろお花の売り上げが上がリました。

Q. 値段も少し下げてですか?

そうですね。基本的には1本1万円にするんですけど、緊急販売の時は5000円で売りました。

Q. 新しくはじめられたという代理店の仕組みを教えてください


“お花のラスト・ワンマイル”はお花屋さんに届けてもらう、ということをしています。

Alon Alonに祝い花を注文してくれる企業が全国に大体2000社あリます。この2000社の企業さんが「取引しているA社の社長が交代したから祝い花を届けてくれ」と話があった場合、東京・名古屋・大阪・福岡にあるAlonAlonの物流センターから地元のお花屋さんにお花が渡り、そのお花屋さんがお届してもらう仕組みです。

お花屋さんは通常近くの花き市場で胡蝶蘭を仕入れて売るのですが、花き市場で仕入れる代わりにAlonAlonの胡蝶蘭を仕入れてもらいます。お花屋さんは自分の商売でAlonAlonの胡蝶蘭を使ってもらう代わりにAlonAlonの注文分のお花のお届けを、そのお花屋さんが仕入れてもらったAlonAlonの胡蝶蘭を買い戻し指定先まで届けてもらいます。これにより今までライバル関係であった各地のお花屋さんとタッグを組むことができました。

仕入れてもらっているお花屋さんを代理店として、うちの胡蝶蘭を届けてもらい、その配送の手間賃をこちらが支払う仕組みです。そういう配送網を全国に広げております。

Q. お花屋さんに在庫で管理してもらう時に、枯れたりしないんでしょうか?

胡蝶蘭は基本的に三ヶ月くらい持つのですが、うちの場合、お花屋さんがうちの花を使っていってもらえる。要は、事業として注文を受け付けてどんどん使ってもらっているわけで、そこにうちの花の注文が入れば在庫が不足するので補充する、という形です。基本的にはうちの花が入ってから出荷まで一週間くらいで出ていっちゃいます。

回転しているということですね。


はい。そうすると、今までお花屋さんにとって、Alon Alonはお花屋さんの注文をとってしまうコンペティター(競争相手)と思われていたのが、今度は新たな仕事を振り向けるありがたい存在になるわけです。今までの仕事の他にAlon Alonの花を配送するという仕事が増えるので。

Q. その提携するお花屋さんはどうやって見つけていったんですか?

基本的には我々が「ここは!」と思うお花屋さんにお話をもっていっています。

Q. ここは!と思う基準はなんですか?

基本的には配送とか評判ですね。そのお花屋さんの対応の良さとかを判断して、お願いに行っています。

Q. その代理店がいま全国にいくつくらい有りますか?


まだそんなに増えていないです。基本的に主要都市、東京、横浜、名古屋、大阪、福岡の各主要エリアを配送するお花屋さんです。残念ながら主要都市以外に関しては宅配便を使っています。

B型の事業所は就労率が低い(*)けれどもAlon Alonさんのところではもうすでに就労率70%を超えていると聞きました。

(*障害のある利用者の方に職業訓練としての機会を提供する福祉事務所にはA型とB型の2種類があり、B型はA型と比較するとより就労が困難な方が利用しています。

ちなみに2年前のデータではAlon Alonと同じ就労継続支援B型の全国の月間の賃金は約16000円、平均就労率は1.5%!

Alon Alonの70%という数字がどれくらい凄いかわかリます。直近ではなんと100%を達成しました)

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晴れて企業から内定を頂き巣立っていったスタッフさん。(帝人グループの子会社に就職)

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辞令を胸に新たな生活が始まります。

はい。70%超えています。先ほどの「バタフライサポーター」の話で、バタフライサポーターさんが約2000人いるんですが、約14%の方が、うちのカタログを勤め先の社長さんや部長さん、取引先に配ってもらえる。これによって半年で100社ずつくらいうちの花を買いたい、という企業さんが増え続けています。

その100社のうちの1、2社がものすごくお花を注文してくれる会社さん。その会社の社長さんに対して私が直接「そんなにお花を使うんだったら、お花を買うのやめましょう。」

と言います。

(えっ?)

「うちのB型の利用者は胡蝶蘭の職人なので、あなたの会社の社員にしませんか? うちの農園の一部をあなたの会社にお貸ししますから自分たちのお花を自分たちで作りませんか?」

というご提案をいたします。

これによっていま約10社の会社がうちの利用者の方々を社員にして今まで買っていたのが自社で栽培するという形に切り替わっている。なので、うちはどんどん就職ができている、ということです。

それは企業の側からしてみると、障害のある人の雇用率を上げることができるというメリットがあるんですね。

それだけじゃないです。お花の経費の削減と障害者雇用が同時にできる。今まで使っていたお金を削減できるし、障害者雇用もできます。

Q. そもそも、胡蝶蘭というところに目をつけたきっかけみたいなものは那部さんの中で、どういうことだったんでしょうか?

29歳(2000年)の時に、渋谷の恵比寿でITの会社を作ったんですね。それが3名で立ち上げた会社で、10年経って社員が100名以上の会社になって、売上規模が400億くらいになったのですが。その企業が成長する過程において、3人だった会社が10人、20人、50人となる度に、事務所が変わっていくわけです。

事務所が変わっていくごとに、取引先から山のように胡蝶蘭が届くわけです。
当時の秘書が「A社さんは3万円、B社さんは5万円、C社さんはどうやらインターネットの安いので5000円か6000円ですね」と報告書で上がってくるんです。笑

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かつては渋谷でIT関連のベンチャー企業の社長だったという異色の経歴をお持ちの那部さん…! 

基本的に我々も送っていただいた企業さんにたいして、お返しに、事務所の移転や社長さんの交代があった時に同じ価格くらいの胡蝶蘭を送っていたわけです。

とうぜん安いものを贈るのは恥ずかしいのでディスカウントして贈る、ということはなかったんですが「こんなおいしい商売ないな」と思ったんです。

本当ですね!

あと、値崩れしないのが一つ胡蝶蘭のいいところかな、と。あと、私自身の息子が当事者だったので、「息子のような人がそういった仕事ができるようになればいいな」というのが胡蝶蘭を選んだ一つのきっかけですね。

なるほど。すごくよくわかりました。あと障害のある人が胡蝶蘭を育てる、ということ自体がある種の難しさや技術がいるんじゃないかなと思うのですが、どうクリアされましたか。

現状は、「スマートアグリ」というコンピュータ制御で全ての室温管理、湿度管理、CO2濃度、風の量、光の量、全てコンピュータで管理するというシステムがあって、実はその農法ができるという確信を持てたので、胡蝶蘭ができるな、と思ったんです。

現状Alon AlonというのはNPO法人なんですが、今月、産業用ロボットの会社とスマートアグリを、システム開発をして企業に販売する、という事業体も立ち上げました。

今は帝人(繊維の大手企業)さんに提供して、帝人さんでは障害者雇用で胡蝶蘭を作り始めました。実は一昨日、滋賀県のある会社も胡蝶蘭を作りたい、ということで総額5000万円の胡蝶蘭農園のシステムの受注してきまして、これから建築が始まるところです。

まさに風上に立っている、という感じですね。

基本的にうちはハードとソフトを全て提供できるような事業体にしています。

今月立ち上げた、産業ロボットの会社との事業体というのは、胡蝶蘭だけでなくいろんな農作物がスマートアグリでできるような研究開発をする会社で、まずとっ掛かりとしてはマンゴーの農園を一つ作って、そこを産業用ロボットの会社と全自動で環境整備ができるようなシステム構築を今からやる、という形です。


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● 台風で停電になったあと苗が全部枯れてしまったり、コロナ禍でお祝いごとが激減したり…。障害のある人に出すお給料を胡蝶蘭、1種類だけに頼っていることに危機感を感じて初めたというスマートアグリによる新規農作物づくり。Alon Alon では、最初の一歩としてマンゴー農園をつくった。

*スマートアグリ:
スマート農家とも呼ばれ、農家が抱える課題をAI. IoT,ビッグデータなどICTを活用して解決していこうとする農業のこと。

すごいですね。かなり広がりがある、というのがわかりました。そのスマートアグリの中で障害のある人がどういう風に関わるんですか?

今まで農業をやろうとしている人たち、例えば、温室で何かを栽培するときの熟練度がどこで必要かというと、実は温度管理と環境管理なんです。

胡蝶蘭は温度管理、環境管理を整備しておけば勝手に花が咲きます。あとは実作業だけなんです。

これはある意味修練の積み上げで技術は上がっていくので、環境整備をしっかりと全自動でやることで、いかなる作物も作れるのではないかと思っています。

Q. そぼくな疑問なんですが…。 企業がまだまだコロナで落ち着かなく、今後もテレワークの文化が続くだろうなという中で胡蝶蘭の需要についてどのように見込んでおられますか?

今、胡蝶蘭マーケットは日本で380億円ほどあります。その380億円のうちのおそらく3割〜4割が、大企業間で贈り合っているような胡蝶蘭、ここが基本的には我々のメインターゲットで、ディスカウントしないマーケットです。それ以外の胡蝶蘭マーケットというのは少しディスカウントして質の低い胡蝶蘭をインターネットで売っています。

その我々がターゲットにしているのは、全く値引きをしない、例えば大企業が大企業に贈り合っているような部分で。そこというのは実はコロナであろうとなんであろうと変わらない。

去年の緊急事態宣言のときになぜ注文が途絶えたかというと、注文者がオフィスにいなかっただけなんです。

なので、発注しなかっただけで、緊急事態宣言が終わったと同時に山のように注文が来ました。基本的には需要がなくなったのではなく、注文が遅れただけだとわかりました。

大企業の役員の昇進や社長の交代はコロナであろうが何であろうが定期的に変わらず行われているので、そこに対する胡蝶蘭の需要は消えないと考えています。

Q. 胡蝶蘭を贈り合う文化というのは日本だけなんですか?他の外国では胡蝶蘭以外の花を贈りあうのでしょうか?そもそもお花を贈りあわない?

そうですね。基本的にはこの文化は日本だけです。
胡蝶蘭のマーケットは北米とヨーロッパと日本がメインで、あとアジアでも多少あるんですが、基本的に、企業同士で贈りあっているお祝い花というのは日本だけだと思います。

あと、アジア諸国。台湾とか香港とかでは開店祝いに多少見たことがありますが。でもそんなにはないと思います。

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今日は色々と勉強になりました。
那部さん、お話ありがとうございました。

(当日聞き手:後安美紀&事務局、構成 Uga)

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*この記事は、4月17日に行われたオンラインでの「コロナ禍における障害のある人の仕事づくり」の情報交換会でのお話をまとめています。

コロナ 禍の中、全国の福祉系団体さんが新しい未来を見すえて、どんなことに挑戦したのか、シリーズでお届けしています↓


* 本事業は休眠預金を活用した事業です *

「コロナ禍を契機とした障害のある人との新しい仕事づくり」は休眠預金等活用法に基づき、公益社団法人日本サードセクター経営者協会 [JACEVO]から助成を受けて実施しています。

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