2019年度グッドデザイン賞審査報告会レポート[Unit 6 - 家電]
グッドデザイン賞では、毎年10月ころに、その年の審査について、各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「2019年度グッドデザイン賞 審査報告会」を開催しています。本記事では、ユニット6 - 家電の審査報告会をレポートします。
グッドデザイン賞ではカテゴリーごとに、今年は全部で18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査報告会では、ユニットごとに担当の審査委員が出席し、その審査ユニットにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」についてお話しいただきます。
2019年度グッドデザイン賞審査報告会[Unit6 - 家電]
日 時: 2019年11月2日(土) 16:00〜17:00
ゲスト: 鈴木元委員(ユニット6リーダー)
はじめに:空間と時間を軸とした、家電ならではの美しさのあり方
ユニット内では、審査におけるテーマの一つである「美しさ」について、2種類の軸があるという話をしていました。一つ目は空間軸。空間的な美しさ、空間に存在している物として美しいかどうか。造形的な美とも言えます。
もう一つは時間軸。美しく機能するか、製品の背景やリサイクル性を考えられているか、もっと長い目で見た時に、伝統を背負って、未来に繋がる提案ができているかなどです。単に美しさと言ってもいろんなレベルがあるので、その二軸を外さないように審査を行いました
スマート・コーヒーメーカー [ジーナ](グッドデザイン・ベスト100)
今年、ユニット6で特徴的だったのは、ネットワークに接続されるプロダクトが増えたことで、すべての機能をハードウェア側に持つ必要がなくなり、プロダクト自体は軽やかになってきたことです。例えば、このスマート・コーヒーメーカー [ジーナ]も、コーヒードリッパーとしての原型性を取り戻したデザインになっています。このコーヒーメーカーは、台座の部分に計量器とBluetoothが入っていて豆や水の量を測ることができ、アプリと連動して、味の再現が可能です。世界中の人々とレシピの共有もできるようになっています。家電の分野は生活文化や暮らしにある柔らかさと、角張ったテクノロジーをうまく調和させることが大切で、このように洗練された文化を守りながら、適切な分量のテクノロジーを重ねていくことが、これからの家電の進む道を表していると高く評価されました。
Washer and Dryer [Mi Front-Load Washer and Dryer Pro](グッドデザイン・ベスト100)
このXiaomiの洗濯機も、カスタマイズなど込み入った操作はアプリ側に依存することで、洗濯機自体は、中央上部にある丸いダイヤルに全て集約された簡潔なインターフェイスを実現しています。同社製品は、ブレンダーやホットプレートなど様々な分野の製品が、同じインターフェイスを有しているので、買う人も一度慣れたら他も揃えようと思わせます。
別のユニットで受賞もしている「Mi Home」というXiaomiの他の製品全てをまとめたアプリのプラットホームもあります。世界でも類を見ないほどプロダクト、アプリのデザインが統一されているのが印象的でした。
家庭用冷凍ゴミ箱 [CLEAN BOX](グッドデザイン・ベスト100)
この家庭用冷凍ゴミ箱は、生ゴミや乳幼児、高齢者の汚物などを捨てることができます。デザインとしてもすっきり静かにまとまっています。高齢化社会に向けて在宅看護なども多くなり、ゴミの悪臭なども懸念される中、介護する側だけでなく、される側の心理的な負担も大きい。そのような人の尊厳も含めて考えられているプロダクトである点が高評価に繋がりました。
空気清浄機 [日立空気清浄機 EP-PF120C/90C EP-PF120J/90J](グッドデザイン・ベスト100)
こちらの空気清浄機は、中国市場向けの商品です。中国は大気汚染の問題が深刻で、空気清浄機が日本のものより大型になっています。審査委員一同、プロダクト・デザインとしての完成度の高さに感嘆しました。
全面ルーバのデザインと共に、背面が45度で、部屋の隅などデッドスペースにはまるようになっており、大きさを感じさせない。電源のつき方なども含め、細部に至るまで隙がないデザインです。
Electronic Piggy Bank [Little Can](グッドデザイン・ベスト100)
こちらも中国で審査したキャッシュレス貯金箱です。プロダクトのクオリティ自体は改善の余地がありますが、特に中国の審査委員から良い反応がありました。中国はキャッシュレス化が進んでおり、実際に暮らしているの方がより強く必要性を実感できることが背景にあります。本来、物理的に触ることができない電子マネーに対して、貯金箱を押し込む・回転させるなどの手触りを与えるプロダクトです。お金と物理的な感覚を結びつけるための、2019年の一つの答えとして理にかなっていると思いました。
この対象は、ベスト100にも選ばれましたが、ベスト100は、後で振り返った時に2019年を象徴するものなので、今の過渡期を表すにふさわしいものが選ばれた気がします。
空気清浄機 [バルミューダ ザ・ピュア]
こちらの空気清浄機は、ただ空気や匂いを綺麗にするというだけでなく、空間を気持ち良く変える力のあるプロダクトです。操作系はわずか3つに絞られていて、操作音も気持ち良く、光も効果的に使われている。下から空気が入って上から出ていくという流路自体を発光させているので、まるで光の筒で空気が洗浄されているような、清涼感を感じます。
ブレッドオーブン [三菱ブレッドオーブン TO-ST1]
こちらは、一枚用のパン焼き器。ニッチな商品に思われるかもしれませんが、日本の食生活をみていくとお米の消費よりパンにかけているお金の方が高くなっているという統計もあります。素晴らしい炊飯器を作っている会社が、その技術をパンに応用した商品です。フレンチトーストができたり、卵と一緒に焼いたりもできる。ダイニングでパンを調理する幸せな風景が目に浮かびます。三菱のような大企業が保守的にならず、高い技術力を活かして尖ったコンセプトの商品を作る姿勢を応援したくなります。
まとめ:ネットワークを中心とした新しい家電のあり方に期待
今年、ユニット6における日本からの応募は、全体の3割程度しかありませんでした。この家電ユニットでは、39件が受賞しました。
BtoCに注力していた日本の企業がBtoBに軸足を移している流れがあるように感じました。
一方、今までBtoBのみをやっていた会社がBtoCに参入してきたり、スタートアップからも面白い商品が出てきたりしています。
洗濯機やコーヒーメーカーに代表されるような、ネットワークを中心にした新しい家電のあり方に注目していますが、日本からもどんどん面白い商品が出てくることを期待したいと思います。
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