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使用時の美しさ・使い手にとっての心地よさ〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット11(住宅設備)審査の視点

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット11(住宅設備)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。
2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit11 - 住宅設備]
担当審査委員(敬称略):
橋田 規子(ユニット11リーダー|プロダクトデザイナー|芝浦工業大学 教授)
安積 伸(プロダクトデザイナー|法政大学デザイン工学部システムデザイン学科 教授 / A Studio Design 代表)
小林 マナ(インテリアデザイナー|設計事務所イマ)
小林 幹也(デザイナー / クリエイティブディレクター|小林幹也スタジオ 代表取締役)

生活の場を安全に過ごしやすくするデザイン

橋田 本審査ユニットは、生活の場を過ごしやすく安全にするための、住宅設備や建材の分野です。ざっくり言うと、空気や光、水をコントロールするものです。中には壁の中に隠れてしまうものや、長年使わないとその利点が分からないものなどもあります。性能の評価が最も重要ですが、物理的に存在する以上、良い意匠や良い収まりがグッドデザイン賞としては必須であると考えています。今年の審査のおおまかな印象としては、使っている時も使ってない時も「バランスの良い」デザインが選ばれている、という点が第一にあがります。また、住宅の内壁材、外壁材には人の手が加わった、ハンドメイド調のものが多かった印象があります。人が心地よく感じられることを重視する傾向が感じられました。最後は、フル機能からの脱却です。本当に必要な機能をピックアップし、より人にとって使いやすいものを提供しようという試みが行われていると感じました。

外構舗装仕上材 [ドライテック]

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安積 まずこちらの透水性コンクリートですが、まるで自然の土のように水を通し、水を地中に浸透させるその機能性に目を奪われました。審査においても実際にコンクリートが水を浸透させるデモンストレーションがあり、高い透水性にユニット外の審査委員からも注目を集めていました。打設場所によっては、ヒートアイランド現象や、近年多発するゲリラ豪雨からの洪水、地下水源の確保など幅広い課題に対処できる可能性を秘めています。既に都市部に施行されている事例がかなり多く、数年にわたる耐久性が保証されている点もポイントでした。こういった技術は新しい技術であればいいということではなく、ある程度の時間を経てその使用に問題がないかということを証明する必要がありますが、その点にもしっかりと答えるものになっていました。打設にかかる時間も非常に短く、建築現場にとっても非常にありがたい素材だと感じました。新たな都市環境を形作る素材として、総合的に高く評価しました。

ノンスリップ|階段滑り止め [Previo T]

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小林(幹) 住環境に限らず商環境の中でも、必ずと言ってもいいぐらい使われる階段の滑り止めですね。実際に私たちの身体に触れるタイミングでは足元にあるので視角に入らないものですが、階段なので自分の視線の高さにも入ってくるものでもあります。この滑り止めは、現代の空間に合うようにミニマルにまとめられ、最低限の要素でデザインされたという点に評価が集まりました。一見、滑り止めと言うと地味な製品として感じる方も多いと思いますが、丁寧にデザインされたディテールがよく見て取れました。設計者の方が真摯に開発を進めたんだろうな、というその過程をプロダクトを通じて感じることができた良い製品だと感じました。

Sink Mixer Collection with SmartControl [SmartControl Kitchen]

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橋田 キッチンがリビングと一体化し、インテリア性が求めらるようになってきている中で、キッチン水栓は機能的にもデザイン的にも目に留まる存在です。キッチン水栓と言うと、やはりあのシングルレバーで温度や水量を調整・操作するような形状が長年スタンダードになっていますが、この製品では大前提としてその「あたりまえ」を無くしているところに驚きました。皆がこれで正解だと思っているスタンダードな操作方法を切り替えて、全く別のものにしてしまうというのは非常に勇気のいるところですが、この製品は開発過程でユーザーデータの研究、観察を重ねてこれを実現しています。温度の調整機能は、実は水栓の使用中にはあまり触られていないという事実を見出し、分離することで非常にシンプルで美しいボディを導き出したという点が素晴らしいと思います。

ストーブ [ロケットストーブ KP-1]

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小林(マ) こちらは写真で見るだけだと、なかなかどういったものなのか分かりにくいかもしれませんね。既製品の角パイプを使用して、それを組み合わせることで形成されているロケットストーブです。つや消しの塗料で全体が吹いてあり、無骨でありながら愛らしい佇まいが目を引きました。このロケットストーブは力が強く、どんなものをパワフルに燃やしてしまうということで、湿った木材やペレットなど高級な薪を使わなくても済む点も評価しました。薪ストーブは使用にあたってハードルの高いものかもしれませんが、燃やす薪のクオリティを選ばず一般家庭や事務所の中でも使えること、愛らしく、どこかロボット的な形に好感を持てました。

スマートロック [マンションセキュリティシステム F-ics(フィクス)]

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宅配ロッカー [マスクOK!顔認証操作宅配ロッカー]

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輸送・物流システム [館内物流対応フルタイムロッカー]

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安積 賃貸マンションの宅配周りのシステムをいくつかご紹介します。現在、コロナの影響で宅配サービスを使用する機会が増え、家の前への置き配なども注目されています。一方で、セキュリティの悪さの懸念や、逆に建物のセキュリティが厳しすぎるが故の問題も顕著になっています。このあたりの課題をきめ細かく分析して、様々な視点から解決する方法を提案されており、例えば商業施設の館内物流の考え方をマンションに取り入れるなど、既に実装されている事例も含めて面白いなと感じました。変化が大きくまだまだ未開拓な分野だからこそ、新たな「困りごと解決」の方法を引き続き期待したいです。

橋田 マスクをつけたままの顔認証システムは差別化になりますよね。今後もこの分野では、先進的な取り組みがどんどん出てくるのではないかと思います。

絨毯 [ラグカーペット 泡雪「RUG-101~103」]

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小林(幹) こちらのラグですが、単純に「気持ちよかった」です(笑)。仕事柄いろんな種類のラグやカーペットに触れることがあるのですが、実際審査会場で触ったときに驚きました。私だけではなく、審査員全員が「これいいね!」と顔をあわせた記憶があります。こういった製品は、柔軟性と弾力性の両立が非常に難しいのです。簡単に実現できそうに感じますが、柔軟さを出そうとするとその分ハリがなくなり、弾力性を持たせようとすると硬さが出てきてしまいます。この相反する二つの要素をうまく両立させた点に評価が集まりました。肌触りが本当に気持ち良かったので、是非皆さんもお試し頂きたいな、と感じました。

橋田 すごくしっとり感がありましたよね?乾いているけどしっとりしている、という不思議な感触でした。

Waterless Toilet [An integrated squatting/sitting duel use toilet and waterless disposal system for rural area]

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橋田 海外の農村地帯などで最も多いタイプの、しゃがみ式のトイレの上に載せて使用する便器です。この写真の下に、しゃがみ式トイレのくぼみがある構造になります。しゃがみ式のトイレだと高齢者が使いづらかったり、汚れがつきやすく目立ちやすかったりする問題点がありますが、こちらは被せるだけでしゃがみ式トイレが腰掛けトイレとして使用できるようになります。純粋に、スタイリングも良いです。この製品はこのトイレの部分だけではなく、中の汚物槽で水を使わず汚物を分解する機能も備えています。デザイン、機能とトータルで考えられているところがこの製品の良い点かなと思います。

住宅用外装用品 [軒ゼロ通気システム]

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小林(マ) こちらは狭い敷地内で隣接する住宅向けに開発された、通気部材システムです。全く軒がないので一見通気孔がないように見えるのですが、雨樋と屋根のひさしがかかっている部分の間に機能を持たせています。通常こういった製品は住宅メーカーが供給するものですが、今回は住宅メーカーと板金会社が共同開発し、さらにプロダクトデザイナーも加わっての開発となったそうです。ここにデザイナーの視点を入れ込むことで、非常に美しい完成度を実現していますよね。現在の住宅はかなりロングライフになってきていますので、こういった設備まできちんと配慮されているということは重要です。今後も独自の部材の開発を継続していく予定とのことですので、応援していきたいです。素晴らしい姿勢、取り組みだなと思っています。

安積 収まりが素晴らしく美しいですよね。こういった建築部材の細部は荒っぽいことが多く、ディティールまで美しく収まっているというのは意外に少ない気がします。こういったところまで気を使われている建築は、素晴らしい完成度になるだろうと想像できますので高く評価させていただきました。 

今年の審査を振り返って

安積 一次審査、二次審査と作品を拝見し、応募写真や特定のアングルから見ると美しいけれども、実際に触ったり使ったりするシーンになると残念に感じてしまうものもありました。我々が見ているのは「住まう」という長い時間です。この我々の生活の中で、使っていて気持ちいいな、快適だなと感じられるようなもののあり方、提案を評価していきたいです。今後もそういった取り組みを期待しています。

小林(マ) 昨年から住宅設備のユニットを担当しています。このユニットは海外向けの製品、特に途上国に向けたエアコンやシャワーヘッドの応募も多いので、機能が絞られたもの、単機能のものが増えている印象を受けました。冒頭でも、橋田さんがおっしゃっていましたね。今まで、日本の電化製品などフル機能が当たり前の風潮でしたが、それが少しづつ変わってきているように思います。多機能であることが優れているのではなく、必要な機能がしっかりと検討されたデザインが評価され、それを見てまた新しいデザインが生まれる。そんなちょっと良い循環が、生まれている気配を感じます。

橋田 冒頭でも述べましたが、外壁・内壁材やキッチン、洗面台面材周りで天然の素材感を出しながらも工業製品として成り立つような、工夫がなされた製品が多かったなと思います。昨年からもそういった傾向がありましたが、温かみを感じられる建材は心地いいものです。正直なところ、昨今の印刷技術は非常に高くなってきていますので、プリントでそれなりの見栄えのものは生産可能です。しかし、人間は心地よくないところを無意識に感じ取ってしまうのも事実です。エモーショナルな、五感で心地よさを感じられるような素材の開発・提案を期待しています。

小林(幹) 今日は受賞作についてお話してきましたが、残念ながら受賞に至らなかった応募の中にも面白いアイデアや、ユニークな着眼点のものがたくさんありました。しかし、安積さんが先ほどおっしゃっていましたが、生活空間の中で使われている姿がうまくイメージできず、空間に対しての佇まいが適しているかどうかという部分を細かく検討した時に、少し違和感を覚えてしまうものもありました。そういったことを解消するにあたり、デザイナーに相談したり、ユーザーテストを実施してフィードバックを集めたりすることも有効だと思います。

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