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様々な課題解決におけるデザインの潮流〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット20(取り組み・活動・メソッド)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット20(取り組み・活動・メソッド)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit 20 - 取り組み・活動・メソッド ]
担当審査委員(敬称略):
井上 裕太(ユニット20リーダー|プロジェクトマネージャー|KESIKI INC. パートナー / Whatever ディレクター)
川上 典李子(ジャーナリスト|21_21 DESIGN SIGHT アソシエイトディレクター)
ナカムラ ケンタ(実業家 / 編集者|株式会社シゴトヒト 代表取締役)
山出 淳也(アーティスト|NPO法人 BEPPU PROJECT 代表理事)
山阪 佳彦(クリエイティブディレクター|株式会社マック 東京本部 専務取締役)

ユニット20は、どんなものを審査するのか

井上 ユニットの名前にある通り、「取り組み」と「活動」と「メソッド」を審査する部門です。世の中の活動は、ほとんどここに入るような気がします。事業主体も、一般の企業が行っている取り組みから、NPO、財団法人だったり、あるいは個人の活動もありますし、あるいはメソッドという言い方もあります。それから、あるものごとの考え方やあるアプローチを発明した、というものも応募される部門です。
営利活動と紐付いたような取り組みから、非営利の、ある社会課題を解決しようという取り組みまで、すごく幅広いものが応募されてきます。
対象にしているものも、研究や、あるいは開発みたいなこともあれば、街づくりみたいなものもあれば、定義をしづらいような、ありとあらゆる「その他」みたいな言い方をしてもいいくらい、とても審査対象の幅が広いユニットでした。ですので、一様に審査しづらいというところが難しいと感じていました。国や地域をまたいだグローバルな活動や取り組みと、ある個人が持った希望を可視化していくような取り組みを、横に並べて審査していくというような、とても難しくて悩ましく、そういう意味でも、このユニットの審査はとても時間がかかりました。議論を重ねる中で、今年すごく評価したいと思ったものと、感銘を受けたものにいくつか共通点があったと思います。

「POWER OF DESIGN」

一つ目は、「POWER OF DESIGN」
今年も多くの応募が、ある社会課題についてアクションしていこう、解決していこうというものが多かったのですが、その中でも社会課題に対してすごくいいことをやってる活動と、その社会課題の根っこのところをちゃんと掴んで、それを仕組みのデザインや、取り組みの設計で突破していっているなと思えるかどうかというのことの差がすごく出ていたかなと思います。
そういう意味でいうと、デザインの力で社会課題に適切にアプローチしてるかどうかというものが多かったですね。
応援したい取り組みなんだけれども、これだけだとまだ解決し得ないのではないか、とか、このままだと広まっていかないのではないか、あるいは意味のあるインパクトが生まれないんじゃないか、というものは評価されにくかったのかなと思います。

「POWER OF COMMITMENT」

井上 2点目は「コミットメント」という言葉を挙げました。ベスト100に入っているものも、「これは組織全体でトップから現場までみんなが目線合わせてやりきらないとできなかっただろうな」とか「こういう意思決定は生まれなかっただろうな」と思うものがありました。その決意や覚悟みたいなものがにじみ出ているようなものというのは、やっぱり大きなインパクトの土台になっているのではないか。あるいは、社会に大きな影響を与えうるのではないか、ということで「コミットメント」としました。
そういう意味で言うと、例えば PR的、キャンペーン的に行っているものよりも、もう少し長い目線で、地に足をつけてしっかりインパクトを出していこうというもの方が評価されやすかったのではないかなと思います。

「POWER OF SPOTLIGHT」

井上 3つ目は「スポットライト」。日本だけではなく、アジア各国から応募があります。これまでだと、例えば、環境問題はいろんな人が掲げているわけですが、一方で、「そんな問題があるのか」とか「そんな文化の軋轢があったのか」みたいなところを可視化する中で、これまでにないようなアプローチをとったような活動も評価をされたのかなと思います。
そういう意味で、3つの観点を挙げてみましたが、この辺りのポイントを足がかりにしながらも、具体的にどんなものを評価したのというところを、これから見ていこうと思います。

デザイン教育プログラム Design Movement on Campus

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井上 この受賞対象は、日本の文部科学省にあたる台湾の行政機関と、Design Research Instituteというデザイン組織が一緒に組んで行った取り組みで、学校の校舎のリノベーションするための教育的なプログラムです。
そこにデザイナーや建築家に入ってもらっています。普通だと彼らが受注すると、彼らが設計して納品するわけですが、そこに先生や生徒を巻き込んで行ったものです。なぜ、こういうことをしているかと言うと、台湾全体として、彼らは「美学」や「美的」という言葉を使っていましたが、そういう教育をより広めていこうとしているからなのです。
その一環として、実際に自分たちが教育を受ける環境や、場そのものをリ・デザインするプロセスに、先生や生徒たちが実際に参画する。実際に、そのプログラムが進んでいく中で、デザインや美的な感性を磨く場にもなり、結果として、美的なものを学ぶために最適な環境になっていくという、そんなプロジェクトでした。

川上 これは私たち審査委員の中でも本当に意見が一致して、高く評価しました。それくらいのインパクトがありました。美を学ぶ、美学というところに焦点を絞って、現場の皆さんの気持ちが本当に響き合っている、その動きが素晴らしいと思いました。
それからスピード感もありましたね。1年間でのプロジェクトの実現数が多かったこと、そして今後もっと幅広く学校に導入していこうというビジョンがある、という点で、非常に勇気づけられるプロジェクトでした。
日本でも、生徒が主体的に学んだり提案をして、みんなで共同作業で学んでいこうという教育方針は、義務教育の中でも出てきているようですが、そこにもヒントになるものがあるのかなという気がしました。
これからこの活動を全国に広げていくとのことですが、それはものすごい数だと思います。ですが、それをすでに掲げて取り組んでいるそうです。ですので、今回取り上げられたケースは、特例ではなくて、これをスタンダードにしていこうという、高いビジョンが掲げられている、というのも素晴らしいと思いました。

ナカムラ 僕は求人サイトを運営しているので、若い人が影響を受けることや、どんな仕事・職業に着きたいかというのは、身近な話題に感じています。そういう意味で言うと、教育現場の段階で、身近に接するものというのはとっても大きい影響があります。
なおかつ、それを自分たちが見聞きするだけでなくて、実践をして体験をするところまで、このプロジェクトを通してやることになるわけですから、自ずとデザインに対する関心や力が高まってくるのではないかと感心しました。

山阪 これは言ってみたら国をあげてのプロジェクトで、その大きさにも驚きました。小さくコンパクトにやっているわけではなくて、地域全体を動かしていて、その仕組みのデザインも良かったと思います。このプロジェクトを実行するまでのスピード感や仕組みなど、日本にも学べるものがあるんじゃないか、と審査会でも話題になっていました。
日本でも、この取り組みに近いことをやっているところはあるかもしれませんが、どうしても社会実験的な、模擬〇〇みたいな感じになりがちです。本当にリアルに、自分たちが学ぶ学校をどう作っていくかという題材も含めて、自分の生活に非常に密着していること、自分で考えて作ってみるという点は高く評価したいと思いました。

山出 行政が主体となって展開していく素晴らしい例だと思いました。しかもそれを、アートやデザインという「分野」の教育ではなくて、物事の課題を見つけるための手段・思考力として大切に考えながら、水平展開をしていくこと、予算はあまり多くかけずに、スピードアップして横展開するという点など、日本でも本当に学ぶべき点が多いと感じています。
今回、日本の中でもたくさんいろんな好例が出来ましたが、この取り組みも含めて、台湾からの例が多く目立った印象でした。

井上 この審査ユニットからもいくつか受賞が出ていますが、台湾からの応募は他のカテゴリーでも目立っていました。
あとは、コストカットについても、少子高齢化で予算が足りない、今までみたいにフルに外注だとお金がないという中で、どうやって現場のニーズに合わせてより良いものを作るか、そしてコストを下げながら、しかも、それを教育の狙いに変えていくみたいなところも、まさにデザインの力が仕組みに活きている好例でしたね。

アートフェスティバル [Romantic Route 3 Art Festival]

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井上 こちらも台湾の受賞例ですが、先ほどの「スポットライト」という話に近い部分があるかなと思います。客家という少数民族がいて、その言語は公用語に使われないなどの差別的な扱いをされてきたことがあって、徐々に若者から客家人というようなアイデンティティが失われてきているような問題意識がありました。普通だとそういう状況は、シリアスな、もう少し真面目に小規模にやるような取り組みになりやすいと思うのですが、それを巨大なアートフェスティバルに仕立て上げて、経済的にも大成功して、まさにcoolなものとして、もう一度受容されるような形に転換したというアートフェスティバルの例です。

山出 美術・アートの進歩を目的とする展覧会があったり、地域の方が関係するような芸術祭があったり、今幅広くアートを体験する機会は増えたと思います。構造としては、アートや芸術祭という形を借りながら、いかに民族やコミュニティとしてのアイデンティティを大きく広げていくかということだと思うんですね。
入り口がアートであっても、大きな目的は自分たちを取り戻したり、またそれをしっかり知ってもらうための機会を作るということだと思うんですね。
ともすると、こういうものは教育的な感じになりがちですが、これは見る限り、国際的にも評価の高いアーティストから、若手の方などいろんなタイプのアーティストが参加していて、大変興味を持ちました。日本ではほとんど知られていませんが、台湾では70万人が訪れたということで、大きなことだと思います。アートフェスティバルという枠を超えて、僕らも学べることが多いと感じた取り組みでした。

山阪 日本のアートフェスティバルというと、どうしても地方創生や地域の活性化など、そこに訪れる機会を作る、みたいなことが多いのですが、参加するアーティストの中には、色々な社会課題に意識を向けようとしている人もいて、そういう啓発を行っているアーティストもたくさんいると思います。これは、その中で個人の活動としてやってるんじゃなくて、フェスティバルとしてそれを課題として掲げて、それに賛同するアーティストを集めるというタイプのアートフェスティバルだったのですが、今まであまり焦点が当たらなかった部分をクローズアップするというのは、何か他のことでも十分使える手法だと思いました。日本でもこういうものが増えていくといいなと思いました。

ナカムラ こういう文脈のものって結構難しいと思うんです。多分、環境が違うところもあるのでしょうが、先入観なしに体験できるという部分が素晴らしいなと思いました。ストレートに、社会にインパクトを残すものも大切なのかもしれないですが、これは、最初の敷居を下げていることで、より多くの人に届いているという点や、参加した人が、気づいたらよく理解できていた、ということも、まさにデザインなんじゃないかと思いました。

川上 このプロジェクトに関わった皆さんが、台湾の客家文化や土地の人々を大切にしていて、そこに根差しながら実際に行われていることは国際的な課題に言及するという、そこが私たちの心に響いたところだと思うんですね。
とてもほどよいバランスというか、台湾からは他にも素晴らしいプロジェクトがありましたが、社会が変わりつつあるんだということも、私たちが実感したところでした。
例えば、工事現場をミュージアムにするというものもありましたが、大切なものをどうやって私たちの文化的な状況からこぼれ落ちないようにしていくのか?という、その熱意が非常に丁寧だなという実感を持ちました。

井上 先ほどの「Design Movement on Campus」の例もそうなんですが、この事例も、中央の行政機関と地方自治体と実際に応募主体になっている人々で、それぞれ違う役割を担いながら、でもそれぞれがコントロールしあったりするのではなくて、適切な役割を担っているという点に、台湾におけるデザインの社会への浸透度合いを感じました。
このフェスティバルを作るにあたり、過去の他の芸術祭を参考にしたかどうか聞いてみたら、「瀬戸内国際芸術祭」や越後吾妻の「大地の芸術祭」に言及されていて、日本の芸術祭ともリンクするところがあるんだなと印象に残りました。

農産物 [日本一の干し大根と大根やぐら]

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井上 これは、まさにこの写真がすべてをもの語っていると思います。本当に美しい景色です。印象に残ったのは、現地の人からすると、当たり前のもので特に美しいと思ってなかったけれども、いろんな人が訪れて「これはすごい」とか「感動する」「美しい」と言ってくれて、そういうことであればちゃんと残していきたいということで、「日本一の干し大根と大根やぐら」と名前を付けて、これまで日常の農作業の風景だったところを一つの対象として「味わう」と対象とすることで、1つの転換を成し得た事例です。
この地域はすぐに世代転換にも成功していて、40歳以下の若い農作業従事者が多い地域になっているんです。そのあたりも誇りにつながっているのではないかという話もありました。日本のいろんな地域が学べるところがあるんじゃないかと思う好事例でした。

山阪 誇りの話がありましたが、シビックプライドのような、そのエリアのプライドを持つことは大事だと思います。この取り組みは、今まであまり自信が持てなかった地域のものに対して、これはひょっとしたら世の中に対して、社会に対して、他の地域に対して自慢できるんじゃないかと、改めて気が付いたところから始まっています。外の人から言われてということもあるのですが、気がつくことで誇りを持つことができ、ちょっと広げていこうというときに、自治体や地域の農家の方たちが一緒になって取り組むときについたその自信が次の後継者を育てることに繋がってるんじゃないかと感じました。単純に、この1枚の写真を見るだけで、僕らもここに行ってみたいねという話を審査のときにもしましたが、そういうことだけではなくて、その背景にある、この地域の農業がどういう風に育っていくかというところまでデザインしたのではないかという、その辺りも含めて評価しました。

山出 この風景が当たり前にあるところに住んでいる人々が、あるとき、この風景をきちんと見直していこうと気がついた、少し外側の視点というのがやっぱりあったのではないかと思います。そこが今、地方にはすごく必要ではないかと感じました。
当たり前のものをちゃんと俯瞰してみる、観光資源として使えるということも一つあるし、商品がECサイトで全国に発送できることももちろんあります。
今の日本の農業従事者は高年齢化していて、ボリュームゾーンが60代後半から70代になっているそうです。そのように日本の農業というのは全体的にみると極めて厳しい状況ですが、この地域はかなり年齢層が低く、全国平均から見ても20歳くらい低い。兼業農家だけではなく専業農家も多い。これが、他の地域と大きく異なっているところです。このあたりも含めて、観光や6次化、移住定住なども含めて、今後この地域の動向を注目していきたいと思いました。

ナカムラ 僕も仕事柄いろんな地方に行くことがあります。東京から行くと、その地域の皆さんが「食事はこういうところがいいんじゃないか」など気を遣っていただくのですが、だいたい東京にあるような店に連れて行かれるんです。でも、皆さんがいつも召し上がっているようなランチを食べたいんです、と最初に言っておくと、そこでしか食べれないような食事を食べられる。そういう意味で言うと、この場所って、皆さんもおっしゃってましたけど、ある種、見立てなのかなと思いました。すでにあったものを、実はこういう素晴らしいものなんだよとやっているわけですよね。これをどんどんやっていかないと、本当に均質な風景が日本中を覆ってしまうという危惧があります。そういう意味で、この事例がベスト100を受賞したということは、他の事例もどんどん残ってほしいという思いを託しています。

川上 これは、やぐらも素晴らしいですが、品種改良の話も出ていましたね。これもとても大きな視点で、持続するために関係者が汗をかかれている、そういうものの蓄積を、ベスト100プレゼンテーション時に素晴らしい映像で見せてくださって、みんなの誇りや自信に確実になってるんだなというのが感じられて、こちらもとても嬉しかったですね。これはこの地域にしかない風景で、それぞれ全国だったりあるいは世界の各地だったりにあるということに改めて気づかせてくれる、そういう非常に良いプロジェクトだったと実感しました。

井上 見立てという話がありましたけれど、別にいつもの風景だと思っていたら、何かちょっと条件が変わったりしたら、やめちゃえ、他の方法に切り替えちゃえということも起こり得る話だと思います。それが均一化していってしまう理由だと思うのですが、これが我々の誇りなんだとか、財産なんだと思えると、そこから起点にした新しいビジネスや新しい仕事が生まれていくような、そんな見立ての力を感じましたね。

「噛む」を計り、気づき、行動を変える活動 [SHARP バイトスキャン]

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井上 これは、企業のコミットメントを感じた事例でもあります。「噛む」ということを測ろうという取り組みで、もともとこの計測器自体は既に開発されていたものだそうですが、そこから研究活動につなげ、実際に、例えば糖尿病のような病気との関連性や、生活習慣病との関連性などを、大学と組んで研究をしているとのことでした。
さらにいうと、子供の時から習慣化することが大事だということで、子ども向けのアプリケーションも開発して、今回はそれも含めた全体の活動としての受賞でした。
家庭の中で「噛む」ことが大事だというのは、なんとなく知っているけれども、誰も自分の噛み方を知らない。それを実際に可視化されることもなかなかない、という中で、そういう意味では、ポイントに挙げた「スポットライト」の側面でもあったのかなと思います。

山阪 これは審査で実際に体験してみました。例えば、一口で30回ぐらい噛みなさいと言われたりしますが、実はそれには根拠がなかったということに驚いたりしました。どういうふうに噛むか、どういう力の入れ方で噛むか、そういうことは感覚的に自然に覚えていったことでしかないですよね。それをどうやれば正しいのか、いい健康状態に繋がっていくのか、ということは、ありそうでなかった、そこに目をつけたというのが大きいと思いました。これが日本人、世界中の人たちの食習慣に与える影響は、大きなインパクトがあるんのではないかと感じました。

ナカムラ 習慣化するということはとても大切なことなのですが、これはゲーム的な面白さがあって、自分が子供だっだ時を想像してみると、そういえば楽しく学んだことは、すんなり自然に身についているなと思いました。すんなり自分のものにすることができるというのは、本当に良いデザインだなと思います。

川上 計測機器を耳にかけるというのが、きちんとデータがとれるための形状になったというお話もありましたが、その科学的なエビデンスを集約して、それを社会に役立てていこうという社会貢献の視点も素晴らしいと思いました。企業が自分たちのこの取り組みで、自分たちの利益だけではなく、社会的な問題に対し、今後さまざまな領域で生かしていけるということを認識していて、その活動を既に始めている、そして、それが子供たちの楽しい表情にもつながるというのは本当に感銘を受けました。
スタートは遡ると2014年ということでしたが、継続していく中で収集できたデータも非常に多くなっていると思うんですね。それが介護の領域や食品の開発など、さまざまな分野で生かされていくという今後が楽しみです。

山出 こういうプロジェクトは、健康寿命の延伸や健康科学を探索していくことでもあると思います。開発者の驚きや疑問から、どういうアプローチで市場に広げていくのか、次の未来につなげていくのか、ということが、社会を前進させる一つの大きなきっかけになるんだなということを感じました。今後の成長を期待したいと思ってます。

井上 これは続けているところも素晴らしい点です。おそらく、すぐに売れるものではないので、通常の企業活動ではやめてしまうことにもなり得ると思います。大学等と研究活動を続け、実証しデータを貯めていくことで、そこから徐々にBtoBに領域を拡大し、最終的に一般に広めていきたいというお話が印象的でした。病気予防という文脈で、今まで見過ごされていた点に目をつけた上で、長い時間をかけてその課題を解いていくんだという、その姿勢を含めて、感銘を受けたプロジェクトでした。

サントリーグループ 「プラスチック基本方針」

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井上 「方針」も、このユニットの審査の対象でしたが、これはまさに企業としてのコミットメントを内外に示すというものです。
審査の中で、「方針」は成果ではないし、評価しうるのかという議論もありましたが、むしろ企業として、これだけ高い目標を社内に掲げるのは大変だったんじゃないかという点で、これを宣言する姿勢は評価させていただきたいということになりました。長い時間をかけて社内を説得をしながら掲げることで、ほかの企業がそれを参考にしたり、社会を変えるきっかけになるんだということが示されていると思います。
もう一つ面白い要素としては、日本ではペットボトルのリサイクル率は高く、国内でのインパクトはそれほどないのでは?という話もあるのですが、彼らはもちろん世界に事業を展開しているので、例えばまだまだリサイクル率が高くない国でも、国の機関と提携をしながら、この方針を実現していくんだということでした。社会にインパクトを与えるという目的で出された社内のコミットメントとその発表というところ、その裏にある仕組みづくりや、チャレンジングな要素というところも含めて評価した事例です。

山出 「POWER OF COMMITMENT」の典型的なものだなと思います。サントリーのような企業がこのような宣言をしていくことは、想像するに相当社内でも大変だったんじゃないかなと思います。それでも今、これをやらなくてはいけないんだというコミットメントが素晴らしいなと思いました。
もう一つは、完成形ではなくても、今できることで前に進むんだという姿勢、それが多くの人を巻き込んでコミットメントを促していくことになるんだというその意思に共感したというふうに感じています。

山阪 きっと、これ以外の手はないと判断したんだと思いました。社内外を含めて、意思を統一することはとても難しかったと思います。今年のグッドデザイン賞のテーマである「交感」のようなことが行われて、どこかからどこかへの指示で動くのではなくて、それは大事だよねという交感が企業内外の人たちに広まって、決まったような感じがしました。そして、それをきちんと外側に発表したということが素晴らしい。
今の時代これをきちんと対外的に発表することで、いろんな企業が気づいて、社会全体が変わっていくという、ある意味「道」を示したことが大きいかったのではないかと思います。

ナカムラ ここ数年のグッドデザイン賞を見ていると、スモールビジネスや個人がどんどん評価を上げてきている傾向が見られました。技術やインターネットの進化もあって、個人でもすぐにいろんなものができる世の中で、この事例は、大企業がどうあるべきなのかという一つの模範になっていると思います。企業の社会的責任を真っ先に実践しているような印象を受けます。今後の大企業の「グッドデザイン」のあり方の大きい方向を一つ示したのではないでしょうか。

川上 非常に明快なメッセージですよね。それがまず大切だと思います。ただ、サントリーの方もおっしゃっていましたが、1社では無理です、と。もちろん当然のことなのですが、その上でステークホルダーの皆さんと一緒にやりましょうと、非常に明快な段階がいくつもあって、だからこそ、色々広がって伝わっていく可能性を大きく秘めているんじゃないかと思います。

次世代EVへの取り組み [VISION-S]

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井上 これは一見、クルマそのものの応募にも見えるんですけれども、どちらかというとソニーとしてこれからのEVのあり方にどんなインパクトをもたらせるかということで、まさにはビジョンを提示したということで、この取り組みのユニットに応募されたものです。

山阪 審査で試乗もさせてもらいましたが、コンセプトカーではなくてプロトタイプだと言い切っていましたね。企業のビジョンというところもちろんあるんですけれども、それを実際にプロトタイプとして世の中に出して、他の車との競争の中で、世の中への市場で測ろうということが大きいと感じました。ソニーが何か考えているぞ、ということではなくて、実際にその市場に入っていくという心意気がいいなと思います。

井上 審査の議論の中でも、この時代に本当にこの形の、この車のあり方がいいのだろうか?という話もありました。例えばセンサリングや、エンターテイメントなど、あるいはその他の AI×通行データのような取り組みだったり、保険だったり、そういう取り組みも全部かけ合わせてやっていく可能性があるところに、一つの大きなビジョンを示していこうというソニーのコミットメントになる感じがしたというところは評価の対象かなと思います。

産官学連携による宇宙開発技術研究手法 [南極移動基地ユニットを用いた研究プラットフォーム]

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井上 これは、ある意味、プレハブみたいなことを突き詰めていくと南極にも行けるしその先に宇宙が見えてくるんだという、非常に印象に残ったものでした。南極においての居住環境だったりとか建築手を突き詰めることで、宇宙やより極地空間でも居住空間の建築だったり、あり方というものを見い出していくという研究手法でした。

川上 まさに工業化住宅の特色を生かしている研究の状況ですけど、これも継続されていますね。あとは住宅業界の今の担い手の問題だったり、大きな視点からの環境問題だったりも、目的の中に入れられているということなので、様々な今の現状と社会的な課題に向かっている、その事例の一つなんですね。その上でこの南極と宇宙という、南極で実現できれば宇宙にもこれは可能なのではないかと、まずそれを掲げてやっていかないと様々なことは動いていかないと思いますが、それを研究機関と一緒に、他の方々と一緒に進めていらっしゃるという、本当に熱量を感じたプロジェクトでした。

ユニット20の審査のまとめと今後に向けて

山阪 審査を通じて感じたのは、受賞しているものは、「ゴールがブレていない」という感じがしました。例えば、企業の取り組みだったら、他の企業を巻き込んだり、いろんな人を巻き込んで、自分のところだけ、一つだけではできないことに対して、いろんな人にその「交感」してもらいながらプロジェクトを進めていたり、取り組みをやっていったみたいな方が多かった、という印象がありました。今までは、自分のところだけよければいい、自分の物が売ればいい、ということが多かったと思うんですけど、それでは色んなものが立ち行かなくなっているということに気付いてきたのだと思います。それを実際どんどんやり始めたものが多く印象に残りました。来年度以降もそういう取り組みがどんどん増えるといいなと思います。

ナカムラ 審査は、最初にお話もあったように、とっても大変でした。僕はこの領域の審査を行うのは今年で4回目ですが、今年は今までに比べると圧倒的に大変でした。
来年度以降の話かもしれませんが、ぜひ、最初に井上さんがおっしゃっていた3つのポイントを押さえながら応募していただければと思います。
また、こういう領域もあるんだなとご存知になった方には、その部分をまず端的にちゃんとプレゼンしていただいて、難しいからこそ、わかりやすくしていただけると、より良いデザインというのが社会全体に届けることができるんじゃないかなと思います。そういうふうにどんどん広がっていっていただければなと思いました。

山出 審査の大変さというのは、今、社会全体に、課題とどう向き合うか、それをデザインという考え方で幅広くなって、社会と関わり始めたということだと感じました。そういう意味では、デザインの果たした役割があるのかなとありがたく思っています。
新しい何かを全くゼロからつくっていくという難しい状況の中で、既存の技術でプロトタイプを出しながら、同時に走っていくということが大事なんだなと今回もすごく感じました。
今後応募を検討される方にぜひ気をつけていただければと思うのは、それが社会の中でどういうふうにスケールしているのか?、どんな影響を与えているのか?という客観的な事実を見せていただけると、すごく評価の観点が変わってくると思います。
(1) どんなパッションを持って誰が始めて行っていて、(2) 誰に対して課題を解決していくのか、(3) それがどんな結果を出していって、(4) それを今後どんなふうに成長させようとしているのか。この4段階をしっかり入れて資料をいただけると、もっともっと審査でもいいものを発見できると思います。

川上 私は、今年この部門の審査に初めて参加しましたが、これだけ多くのプロジェクトが集まっているということが、まずは嬉しいことだなと思いました。プロジェクトの一つ一つが、全て一つ一つの想いがあって、似たものがないということが、最終的にベスト100にも選ばれたりグッドデザイン賞に選ばれていると感じました。
企業なり個人、自治体なり、それぞれの立場で自分たちが、何ができるのかということを考えることが、とても重要なんじゃないかと思いました。
過去の受賞のものから何かヒントを得て、その形式をただ追いかけるということではない、それこそがこの活動なんじゃないかなと思っています。
今年のベスト100のように、本当に自分たちが何をしたいのかを突き詰めて明快にしていくというのがやはり重要なのかなと思います。
来年度に向けて、今、私たちの世の中が本当に変わってきています。安全性のことだったり本当に急務としていろんなことが行われています。そういう応募が増えてくるのかなと推測しますが、ではこれから、デザインというところからどういうふうに社会に浸透できるのか、あるいは今後継続的にどういう発展ができるのかという、そうった今の状況からさらに私たちの現状から普遍的なものも踏まえながら解決策を提案していただけるものが応募に入ってくることも期待しています。

井上 すごく印象に残ったのは、起点そのものはモノを作ろうとか、特殊な壁を解こうというところから、気づいたらどこにも入らない取り組みになっていたというものがすごく多いのかなと思いました。
一方で同時に思ったのは、今回評価しにくかった部分もそうなんですが、例えば、あるものを作ったんだけれども取り組みっぽくした方がいいのかなとか、SDGsとつけておいたほうがいいかなとか、そういうものってこれだけの数があるとすごくよく分かります。
そこは、やはり実際に最終ゴールがどこにあって、その手段として、この取り組み・活動・メソットのあり方なんだ、となるところが、とても大事だったんだろうなと思います。
審査の中で印象に残っていた言葉が、もはや何か人間に審査できないようなものも出てきて、増えてきているねという話がありました。
30年後、50年後、100年後、あるいはもっと先の環境が判断してくれるみたいなものすら増えてきてるなと思います。続けることで生まれる価値だったり、続けるための視点がちゃんとあるものだったり、あるいは長い目で振り返ったときに本当に意味のある活動となったり、そういうことの価値がより増してくるのかなという気もしています。
今後応募される際も、なんでこれを続けることに価値があるのかとか、こういうふうに続けていくことをしっかりデザインしているよとか、あるいは、続けた先にこういった未来が切り開けるとか、そういうところを示していただけると、審査というだけではなくて、より交感が、よりインパクトが生まれていくのかなと思いました。そういったところを意識していただけると、このユニットからより良い未来が望まれていくんじゃないかなと思いました。

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