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2019年度グッドデザイン賞審査報告会レポート[Unit 8 - 住宅設備]

グッドデザイン賞では、毎年10月ころに、その年の審査について、各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「2019年度グッドデザイン賞 審査報告会」を開催しています。本記事では、ユニット8 - 住宅設備の審査報告会をレポートします。
グッドデザイン賞ではカテゴリーごとに、今年は全部で18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査報告会では、ユニットごとに担当の審査委員が出席し、その審査ユニットにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」についてお話しいただきます。

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2019年度グッドデザイン賞審査報告会[Unit 8 - 住宅設備]
日 時: 2019年11月1日(金) 16:00〜17:00
ゲスト: 寳角光伸委員(ユニット8リーダー)、小林マナ委員、寺田尚樹委員

はじめに:素材の適正性を大事にして、審査に臨みました


寳角 まず今年のテーマである「美しさと共振力」というキーワードについては、審査を始めるにあたって特別事前に取り決め等をしていたわけではありませんでしたが、議論を進めていくにあたり、素材の適正性を大事にしようと意識を共有していきました。例えばプラスチックを木目調に見せるというのではなく、プラスチックのままで美しい仕上がりを追求するといったことです。フェイクの素材が良くないということでは決してありませんが、素材は素材なりの使い方がありますよね、という共通認識は早くからありました。このユニットからは、60件がグッドデザイン賞を受賞しましたが、具体的な受賞対象をみながら、評価のポイントをお話していきましょう。

Smart Light [Casper Glow](グッドデザイン・ベスト100)

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寺田 こちらは日本国内では未発売のアメリカのプロダクトです。LEDを使った灯体として一見目新しい感じはしないけれど、複数の灯体が室内で連動する機能が、空間への関与性を高めておりかつ質を向上させていると感じました。製品単体で「美しい照明ですよね?」と単体で完結するものではなく、空間全体に関わっている。素材の話にも通じますが、空間の質が向上する好例だったと思います。

小林 灯体をひっくり返すという行為で照明が消えたり、灯体をタップしたり回転させることで調光ができたり、動作も含めて愛らしく感じられるし、優しく取り扱うというこちら側の行為までデザインされており、好感が持てました。

床置きエアコン [Panasonic CS-Z35UFEAW/409CY2 シリーズ](グッドデザイン・ベスト100)

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寳角 こちらは欧州市場向けの、ラジエーター型のヒーターに置き換えるタイプのエアコンです。シンプルな箱型ですが、徹底的に市場調査が行われたのだなと感じさせる仕上がり、佇まいでした。いわゆる四角い、樹脂成形で作られる箱型エアコンではなく、これは木工家具のようにパネルを組み合わせて筐体が作られています。その隙間の部分を利用して、吸気口やフラップの機能があります。機械的なディテールがほとんどなく、良い意味で機器っぽさ、家電っぽさがなく高評価でした。

寺田 やはり今回のテーマの「共振力」とは、このユニットにおいてはどうやって空間に馴染んでいくか?ということだと思います。プロダクト単体での主張や存在感をどこのレベルで持ってくるのか、という点は審査にあたって非常に議論になりました。その点、この製品は床壁天井、樹脂製品ではあるけれども空間への親和性が非常に高いと感じました。

平形屋根用スレート [グランネクスト シンプル](グッドデザイン・ベスト100)

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小林 こちらは、日本の新築住宅のおよそ30%に採用されていると伺いました。もし日本の新築住宅の屋根がこのようなシンプルな形状になっていけば、屋根のデザインがすごくすっきりします。時間をかけて、若いデザイナーが瓦の模倣ではなく、ヨーロッパの模倣ではなく、日本ならではのシンプル・クオリティを実現しようと努力した過程が見えて好感を持ちました。また、防水などの機能面もしっかり対処されています。

IHクッキングヒーター [リンナイ RHKD321GM1T](グッドデザイン・ベスト100)

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寳角 こちらは、インターフェイスが非常にスッキリと整えられたIHクッキングヒーターです。IHクッキングヒーターにありがちな、鍋の位置を円形で示さずに、シンプルな横線一本で箇所をガイドしています。単体で見るとただのガラスの黒い板に見えるかもしれませんが、こういった住宅設備機器は、実は今は家電と建物の中間に位置していて、どういう立場を取ればいいかが問われているジャンルです。今まではどちらかというと家電寄りのスタンスで、そのものだけで完成させようと色々な機能、説明を盛り込みがちだったけれど、これは空間の中では一部材に収まりながら、しっかりコンロと分からせる、という説得力のある佇まいが共感を集めたと思います。

屋内壁掛蓄電システム [パワーイレ・ヘヤ](グッドデザイン・ベスト100)

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寳角 こちらは、壁付けでウォークイン・クローゼットや玄関上部などに設置できる非常用の蓄電池です。人の視線が意識されていて、装置の下部がシンプルにまとまっています。従来の作り方ではプラスチックの箱でも良かったかもしれないけれど、日常の空間の中ではどう見られるかというところまで考えられています。吸気も壁と本体との隙間から行い、上部から排熱をする機能部を目につかないところに置くことで、まるで、建築部材のようにも見えます。

寺田 床置きエアコン、コンロ、この蓄電池も、インテリアの空間に置かれる中の一つの要素であって、単体で見られるものではありません。全体の中の見え方は非常に気にして見ていました。いかに空間と関わるか、その時に必要なものだけ目に入ってきて逆にうるさくないか、というのは一つのポイントだと思っています。

マンションインターホンシステム [マンションHAシステム Iシリーズ Clouge(クラウジュ)]

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寳角 こちらは、マンションエントランスと、各戸のモニターです。応対した段階で、子供が留守番しているとか老人がいるとか屋内の状態がわかってしまうのを、自動音声で対応する事で防犯性をより高めています。戸内のインターフェースも、今まではエアコンのような白いボックスが付いていたのですが、こちらはスマートフォンの影響もあるためか、大きな液晶部分と壁と同化するようにスッキリと下部を見せています。UIの今後の行き先を示唆していると感じました。

置き配バッグ [OKIPPA]

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小林 こちらは、置き配用のセキュリティ機能がついたバッグ、いわば簡易版の宅配ボックスです。アパートや宅配ボックスがない家でも使える、アプリとの連動で再配達をなくすようなシステムを提供しています。バッグ+アプリのシステム、これがそもそも住宅設備のこのユニットでの審査対象なのか?という議論はありました。が、宅配BOXのかわりということでこちらのユニットに残しました。バッグ自体も宅配業者がプリントデザインをするデザインの余地があるし、システム・プロダクトとも単純明快でわかりやすく、好感が持てました。

庭用水栓 [庭用水栓ウォーターワークス]

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寺田 これまではいかに空間に馴染むか、の話をしてきましたが、庭用水栓 [庭用水栓ウォーターワークス]を取り上げたいと思います。機能的に似たような製品は色々あるのですが、空間に馴染むといいつつもなぜか気になってしまう、二度見してしまうような個性、キャラクターがあるということが好ましいと感じました。今までの話と矛盾していますが(笑)、使い方は一目瞭然、用もないのにハンドルを回してみたくなってしまうような愛らしさがあります。

寳角 えてして、こういった製品は「よくある形でそれでいい」となるところを、少し違うものを考えてもいいじゃない?というものづくりへの取り組み、企業の姿勢も評価したいと思っています。

まとめ:目指す空間や住環境がまずあって、そこに向かっていく素材やプロダクト

寳角 今回の報告会では馴染むというお話がたくさん出ました。例えば、青い空に黒い点を落としたら周辺をぼかして馴染ませる、これは空間の視点。逆に、例えば建築では「おさまりが悪い」という言葉で表すように、この機器が馴染まないから周囲に合うように変えていこう、これはモノの視点だと思います。目指す空間や住環境がまずあって、そこに向かって素材やプロダクトを検討していく。この視点を念頭に置いて、ものづくりをしていただくと良いのではないかと思います。

寺田 任意参加ではありますが、対話型審査の時間の使い方は非常に重要です。既に審査シートに書いてある事をなぞるだけになってしまったり、ポイントが伝わって来ないことも多いです。極端な話、お話を伺って評価が下がってしまうようなこともある。これは他のユニットの審査委員からも聞きます。あとは、ポイントを伺っても自社製品の前モデルと比較してこれだけよくなったという自社軸であったりと、こちらとしては判断が難しいし、客観的に機能の小さなアップデートなどはコメントし難い部分はありました。ポイントを的確に伝えていただければ、評価もしやすくなると思いました。

小林 グッドデザイン大賞をとった結核迅速診断キットでも感じましたが、作る側の「思い」は重要だなと感じました。プロダクト的に、思いをモノに変換しづらい部分もありますが、企業人でも思いがあったら変えられることがあると思います。今年は審査を通じて、若い人の頑張りを見ることが出来、刺激を受けました。色々な課題をデザインの力で鮮やかに解決していっていただけたらと期待してます。

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