目立たなくても重要な、地道なイノベーション〜2021年度グッドデザイン賞 審査ユニット7(産業/医療 機器設備)審査の視点レポート
グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット7(産業/医療 機器設備)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。
今年の審査を振り返って
朝倉 今年は300件近い応募対象がありましたので、最大公約数的に傾向を見いだすというのは難しいのですが、少し視点を変えて、ロングスパンについてお話してみようと思います。
どんな開発でも最初に製品が誕生したときや、大きなイノベーションが生まれたときは話題になりやすいですが、そういう時期と、逆に見た目の変化はあまりないが地道に成長したり、強化したり、普及が進行したりするという、そういう時期があります。大きなイノベーションはジャンプがあるので分かりやすく、評価もされやすいですが、地道な開発は目立たなくても重要なので、そこをしっかり見ていきたいという思いがあります。
今回この審査ユニットからは、大きなジャンプがしばらく前にあって、その後しばらく地道な開発があり、それでまた今年、社会や生活に普及して実績を上げた開発が、医療と産業の分野で見ることができましたので、そちらを紹介したいと思います。
富士フイルムのロングスパン開発
朝倉 まずは医療分野からは富士フイルムです。同社の近年の躍進は周知のとおりですが、まさにロングスパンで計画的に開発を行っています。テーマはいくつもあるのですが、その中の1つとして、今回グッドデザイン・ベスト100を受賞したデジタルX線画像診断装置 [FUJIFILM DR CALNEO Flow]があります。初期型の発売は10年前ですが、今回受賞したものは今年発売されたアップデート版です。これはX線でフィルムを使った装置を10年ほど前にデジタルのパネルに変えたもので、当時は大きなイノベーションがあり、そのときは非常に高く評価されたものです。その後10年の間に、このパネル自体の改良も進んでいましたが、このパネルを使った機器への展開という開発も地道に続けられていました。
今年は、このパネルの改良版と、それからこのパネルを使った機器がいくつか応募されていました。その1つが移動型デジタルX線撮影装置 [FUJIFILM DR CALNEO AQRO (外部画像処理キット搭載)]、それから1つは移動型X線透視撮影装置 [FUJIFILM DR CALNEO CROSS]、それからもう1つは、クリニック向けX線診断システム [CALNEO Compact]ということで、どれも非常に優れた製品でした。このパネルはX線を低線量で利用可能にするという特徴を持ち、患者に優しいということ、消費電力も少なくて済むので小型軽量化でき、それによって実現した製品群ということになります。
10年前のアナログからデジタルという転換も大きなジャンプとして評価されているように、今年はこの高いレベルの普及ステージとして評価したいと思いました。
それからもう1つ医療の分野で、これも富士フイルムの製品ですが、CTやMRIから撮られる2Dのデータを3Dで可視化するシステムで、3次元画像解析システム [SYNAPSE VINCENT Ver.6.1]という製品です。
2Dの断層画像では分かりにくいものを立体に分かりやすくするソフトで、これが2013年に発表されて当時は高く評価されました。その後10年間かけて、これをベースに60以上のアプリケーションに展開することを地道に行っていたということです。
今年はこの基本ソフトのアップデート版と、それからこれを使った放射線治療計画支援ソフトウェア [SYNAPSE Radiotherapy]が応募されました。60のアプリの1つとして見れば、ジャンプとしては小さいかもしれませんが、がん治療の最前線である放射線治療を支援するアプリケーションの実現としては医療にとって大きな貢献で、高いレベルの普及ステージということで評価したいと思いました。
ドローンの進化
朝倉 次に産業機器ですが、ここではドローンに着目しました。ドローンの歴史は意外と古く、2010年ぐらいにおもちゃのドローンが普及したときに話題になりました。その後、話題として少し静かになりましたが、その間にやはり地道な開発が継続され、今年は産業利用の面でいくつか応募がありました。1つは高所の建造物など陸路で物資を運ぶのが難しいところでの利用ということで、物流ドローンのSkyLift。それから、強風や長時間飛行、防水などを考慮した防災用のドローンということで、東光レスキュードローンというものです。3つ目は、映像クリエイター用のドローンで、ソニーのAirpeakです。物流と防災と映像というのは、ドローンの産業利用の3本柱といわれているのですが、それら全てが今年高いレベルで見ることができたということになります。話題から10年ほど経って、社会や生活に貢献する製品に普及したという点で評価されたということになります。
最後になりますが、ちょっと強引にまとめるとすれば、医療と産業分野において、今年はジャンプの年というよりも普及の年だったと言えるのではないでしょうか。審査としても、大きなイノベーションや話題性というのは評価しやすいのですが、実質的な社会実装というのもきちんと評価していきたいと思っております。
HOTOの工具シリーズ
村田 中国から応募されたHOTOの工具を紹介したいと思います。見てのとおりシンプルで、見慣れている電動工具のイメージが全くありません。むしろホームコンシューマー向けの、おもちゃのようなデザインです。シンプルなデザインで収納性を考えたインテリア対応になっている点も見て取れます。この動きは、中国から世界各国、特に欧米向けに輸出するというニーズがあり、インテリア志向の欧米のコンシューマーをターゲットにしているからだと言えるでしょう。
日本では、工具というものはしっかりガッチリしていて、男っぽい世界のものが良いという発想になっていますので、そういった意味では少し遅れを取ったのかなと思わされました。いわゆる、ホームコンシューマーという世界、女性がメインとなって使う工具という視点で見直していくべき時ではないかと考えさせられた商品であります。
林 私がこのユニットの審査を担当させていただいて印象に残っていることは、朝倉さんもおっしゃったように、ドローンが本格的に産業に運用される時代になったということでした。写真ではちょっと分かりづらいかもしれませんが、大きさも様々です。SkyLiftは非常に大きいサイズで、これは産業用として、ヘリコプターに置き換えて、このドローンを使って物資を運ぶという物流の仕組みとして役立てようとしているものです。その次の東光レスキュードローン。こちらは防災用で、誰かが山の中で遭難したときに助けに行くという目的だったり、あるいはソニーのドローンAirpeakは映像を撮るということに特化しています。数年前に初めてドローンが出てきたときは実験用のものが大半でしたが、技術も進化し、目的が多様化して実装される時代になったんだなということを強く感じました。
それから、富士フイルムの開発姿勢も非常に印象的でした。単純に画像としてすごいということだけはなく、AIをどのように仕組みに取り入れるのかということを良く研究しています。例えば大量の画像を見ることはAIに任せて、その過程でAIがアラートを上げたものに対して人間が判断する、というように、AIと人間の領域を分担する方法がいい形で実現されていると感じました。
ここで感じたのは、医療の領域では、もはやモノだけのデザインではなく、体験のデザインが重要だということです。どこをAIがやって、どこを人間がやり、そしてそれをどう伝え、患者に対してどうフィードバックされるのかというような、その一連の体験の中で、AIと人間がうまく協調するということがとても印象的でした。
注射針付シリンジ(ワクチン接種用) [FNシリンジ]
林 そして最後に、コロナへの素早い対応ということで、例えばこのテルモの注射針です。アメリカでは、1バイアルあたり5回分の薬液が取れる仕様でコロナ・ワクチンが流通していましたが、日本では効率よく薬液を使えるようにして、このシリンジでは7回分まで取れるようになっています。ワクチンは何億という回数打たれるので、1バイアルあたり2回分増えると20%ぐらい効率が上がる、あるいは価格が下がるということになります。そういった細やかな改善は日本企業が得意とするところで、かつ、それを素早く実装したということがとても印象に残りました。
LiDAR Sensor [LS Series]
村上 私は技術系が専門ですので、この審査ユニットの中での役割としては、応募対象について技術的に正当な評価をすることに留意して見ています。一見地味だけど実は技術的にすごい、という点をしっかり見つけられるように心がけて審査に臨みました。
このLiDAR Sensor [LS Series]はセンサーですが、これは周囲270度に人や物などの障害物がないかをセンシングするデバイスです。周囲を270度センシングするという機能を、まさに円形の形で表してシンプルにまとめていて、機能的にもデザイン的にも優れていると思いました。
測色機 [SD-10]
村田 セイコーエプソンの測色機は今回グッドデザイン・ベスト100を受賞しました。今までは色校正など、本当の色を測定するということは非常に難しいことでした。色を測定する機械というのはそれ自体が非常に大きく、ハンディに持ち出せないものだったからです。また、それらの機器は非常に高価でありながら、精度はそこまで上がらないということもありました。ですが、これはコアとなる技術がMEMSファブリ・ペローチューナブルフィルタというもので、この技術を使うことによって、ファブリックや塗装した色、あるいは印刷色、そういったものに直接機器を当てて測定することができます。それをPantoneやDICなどといった汎用的に利用されている色見本と連携を取って、Pantoneのこの色に近いだとか、DICのこの色に近いという候補を挙げてくれる仕組みになっています。候補の挙げ方も、この色とこの色の中間くらいであるというものをデータ化して、それがそのままオンデマンドのデジタル・デバイスに反映されるので、間違いのない出力ができるということが大きな特徴になっています。
例えば、これまでファブリックなどを大量に色染めをするときにエラーが出ると、大量に廃棄せざるをえないという問題があったそうですが、それが少なくなるということで、環境問題にも貢献があります。あるいは現場で太陽光が強く、本当の色がよく分からないという状況もあります。室内だと色温度によって色が変わることもあります。そういった場合にも非常に効果を発揮するということで、画期的な商品だと思っております。
パワーショベル3次元コントロールシステム [X-53x 3D-MG GNSSショベル]
村上 このパワーショベル3次元コントロールシステム [X-53x 3D-MG GNSSショベル]は、いわゆるパワーショベル、建設機械に後付けすることで、その建設機械が自動化建機に変わるというものです。普通の建設機械というのは当然人間が乗って機械を操縦するわけですが、これは機能を後付けすることによって、人間のやる作業を効率化して身体的負担を減らしたりといったことが可能となり、仕上がりの精度もよくなります。
初めから自動化建機を造ることもできるわけですが、そうすると当然価格も高価になることが一つのネックになり得ます。それに対して、既存の建設機械に後付けすることでそういうアイコンストラクションができるのであれば、その技術の普及に非常に有効です。そういった点が高く評価されました。
デジタル捺染プリンター [MONNA LISA ML-64000]
村上 こちらは非常に大型の業務用デジタルプリンターです。デジタル捺染プリンター [MONNA LISA ML-64000]といいまして、洋服など衣料の繊維に印刷をするインクジェットプリンターです。これまでは例えば、生産地で生地に印刷をしたら、その生地のロールを消費地に物理的に運ぶことが必要でした。それから、予備的に余分の生地を製造しなければいけないということもあったそうです。それが、この機器を消費地に置くことによって、印刷データは通信によって送り、現地で生地を調達して、必要になった枚数だけ印刷すれば、物理的に物を運ぶ必要がなくなるわけです。それによって、生地やインクなどの資源も節約でき、運搬のためのエネルギーやコストも節約できるということで、SDGs的に貢献し得るデザインということで高く評価されました。
ロボットハンド [ASPINA Plexmotion ADVANCE 電動3爪ロボットハンド ARH350A]
村上 こちらのロボットハンド [ASPINA Plexmotion ADVANCE 電動3爪ロボットハンド ARH350A]は、いわゆるロボットハンドで、指が3本あるのが特徴です。他のシンプルなロボットハンドですと、指が2本のものがありますが、それだと「掴む」というより「挟む」だけになります。つまり、掴めるものの対象や形状が限定されます。もちろん技術的に一番高度なのは、人間の手と同じように5本の指を自在に操るようなロボットハンドで、そういうものも研究されているのですが、当然それは複雑で高価になるわけです。
そこで、2本ではなく3本にすると、実は2本と3本の間には大きな差が生まれます。1本加えるだけで、挟むだけではなくて掴むことができるようになるのです。非常に工学的にセンスがいいというか、効率的です。停電したときには、このハンドは物を掴んだままダウンしてくれるので、物を落とすような危険もないということで、工学的によく考えられた製品となっています。デザイン的にもきれいにまとまっているということで高い評価を得ました。
医療用ロボットステーション [Zero-Contact Medical Station, Robotic technology for COVID testing]
村上 こちらの医療用ロボットステーションは台湾からの応募です。PCR検査では、鼻の奥にスワブと呼ばれる細い綿棒のようなものを差し込んで検体を採取します。通常、検体を取った後の分析は機械的に行われますが、検体を採取するところは人間が行います。それに対してこれはロボットハンドを使って検体を採取することができます。それによって被検者と医療関係者の接触をほぼゼロにすることができるという画期的なものです。
ただ、もし鼻の奥にこれを突っ込まれているときにロボットが暴走したらどうなるのかという安全面が心配になるのですが、このロボット技術は脳神経外科用のロボットシステムを流用しているそうです。つまり、既にある程度の実績があるシステムで、脳神経外科用ロボットというのは非常に高精度が要求されますので、その点での心配は無用となります。他の分野で使われていた技術を応用することによって、短い開発期間でこのようなコロナ対応を実現しているということで、高く評価されました。
小型自動体外式除細動器 AED-M100シリーズ
村田 こちらは皆さんもご存知のAEDです。今までのAEDと大きく異なるところは大きさと重さです。体積比で既存のものより75%小さくなり、重さでいうと56%軽減されています。こういったものが出てきた背景として、心臓発作を起こしたり倒れた方がいても、実際にAEDを活用する事例は5.1%しかないというデータがありました。いざというときに、AEDがどこにあるか分からないということが問題となることが多いそうです。
そこで、特に事故が起こりやすいマラソンなどスポーツ選手が活躍する場で、人が肩からショルダーバッグのように下げて、定点的に観察することができるようにしました。それによって、いざというときには駆け付けてすぐ処置できます。さらに、これはふたを開けるとガイダンスがあって、音声に従って順番にやっていけばいいということになっています。ですから慣れない方でも使えるように考えてデザインされている点も高く評価しました。
パルスチェッカー PLS-1100
村田 これもさきほどのAEDと同じメーカー、日本光電工業のパルスチェッカーです。倒れている人が、そもそも心肺停止しているのか、あるいは心臓を圧迫すれば蘇生するのか、その一番初めの部分がよく分からないことが多いそうです。むやみに胸を圧迫していいのだろうかという不安を解消するために、まず脳波を測る。そうすることで、次に指示が出てきます。「胸骨を圧迫して蘇生のモードで入ってください」あるいは「AEDを使って蘇生を試みてください」というような指示のできる機械です。たとえば施設などの警備員が腰にこれを装着するなどして、常に携帯することを目指しています。これも一つの進化だと思います。
セラミック素材 [YiBrick]
村田 こちらは中国の商品ですが、中国の景徳鎮は世界的に有名なセラミックの産地です。ここでは大量のセラミックの廃棄物が出てきます。SDGsの観点からこれを有効利用できないかということで、いったん陶器の破片を細かく砕いて、そこにバインダーを加えます。バインダーとセラミック粒はどちらもリサイクルで作られたものなので、約93%がリサイクルでできて、新しく加えるものが7%だけということになります。
それでできたものがこちらの、土木や建築、内装用に使えるブロックです。これが水を加えると水はけがいいという多孔質になっています。ですから、これを使ってさまざまな社会実装が可能になるという点も評価ポイントになりました。
まとめ
林 この審査ユニットには、農具や工具、衣料もあったり、さまざまな領域の製品が審査対象となりますが、デザインという、人のためにどうやるのかということが、これから5年ぐらいは注目されるところなのではないかと思っています。
今まで医療分野では、どちらかというとデザインはあまり考慮されておらず、それよりも安全であることが最重要視されていました。医師などの専門家が安全だと思うことももちろん重要ですが、患者の意識も重視されてきています。その中で、患者と医師などのケアする側が一体になって、どういうサービスを提供することができるのかという、広い意味でのデザインの世界に入ってきたんだなということを非常に感じさせられる審査だったと思います。
村上 全ての事例ではないですが、堅実で効率的で、悪い意味での贅沢をしない事例が多く見られました。紹介した事例でいいますと、パワーショベルの3次元コントロールシステムは、まさに従来の建機を無駄にせず、機能を後付けすることでそれを知能化建機に変えてしまうものでした。ロボットハンドも、2本指を3本にするだけで、そこに大きな飛躍があるといったようにうまくまとめています。PCR検査についても、既存の技術を援用することによって、研究費も節約でき、コロナ対応のための時間の節約もできるということで、非常に効率的なアプローチでした。
それから最後のデジタルプリンターも、無駄なものは作らない・無駄なものは運ばない、ということを可能にする技術であるということで、繰り返しになりますが、非常に堅実で効率的で、悪い意味での贅沢がないアプローチというものが見られたかなというのが私の全体の感想です。
村田 まずは産業機器について、これまではヒューマンエラーが付き物でしたが、こうしたところをIoT化していくものが今回は多かったと思います。例えばロジスティクスで繰り返し行われる搬入、搬出、管理などが統計的に、しかも着実に行われるという事例が多く見られました。中国からの応募の中には、自動で配送する自動車も出てきました。
医療分野では、コロナ禍の影響もあったと思いますが、大きく変わってきたのは陰圧空間に目が行っていたという点です。ウイルスを拡大させないために、空気の圧力を低くして、内側に引き込むという状態の空間も今回応募がありました。そこにHEPAフィルターを絡めて空気除菌を行うというものです。それから、コンテナのようなものの中を陰圧空間にして、そこで緊急時対応ができるように、トレーラーで運べるものもありました。
それから、分析機器です。簡単に分析ができるような、再生医療やIPSといった新しい流れに向けた分析機器もかなり真価を発揮してきたと思います。私も医工連携に関わった仕事を手がけていますが、今回の審査では私も非常に勉強になりました。
朝倉 今年の傾向については最初にお話しましたので、ここでは社会の変化と、グッドデザイン賞の評価基準についてお話したいと思います。
グッドデザイン賞は流れを簡単に言うと、創設当初は粗悪なコピー商品の防止目的から始まって、それから悪くない製品のお墨付き、それから賞としての位置付けになり、その流れの中でプロダクトだけではなく、住宅や施設などが審査対象に加えられてきました。最近では、形のない取り組みやシステムも加わるようになっています。つまり、グッドデザイン賞も変化し続けていて、そうすると評価基準も変わっていかざるを得ないということです。
そもそも、デザインというのは社会との関係でできているので、社会が変わればデザインも変わります。デザインが変われば評価基準も変わっていくと考えていただければ良いのではないでしょうか。
具体的に言うと、かつてはプロダクトに関しては、機能や使い勝手と美しさが融合されているのが優れたデザインといわれていました。そうするとアピアランス・外見を見ることで、ある程度製品を評価することができたということです。近年は社会が変わり、デザインの領域が広くなって、単にユーザーと物との関係だけではデザインを評価できなくなってきています。
グッドデザイン賞のホームページに「審査の視点」という項目が掲載されていて、その中に人間的視点という項目があります。そこはユーザーと物との関係ということですが、それに加えて産業、社会、時間という視点が入っています。このように、デザインの領域が広くなってきているので、評価基準も変わってきていると思っていただければいいと思います。
ときどき「もうアピアランスが評価されなくなったのか」というコメントをいただくことがあるのですが、それは違いますと言っておきます。なぜかと言うと、どんな製品の開発でも、先ほど言ったように、社会や産業、生活に対してという開発理念があって、そのベースの上で機能と使い勝手を満たす美しい形というのがあるわけです。ですから、そのアピアランスは、考え方など、そういう要素を全部含んだ上での最後の出口だと考えてもらえればいいと思います。ベースにある考え方は必ずアピアランスににじみ出てくるという、そんな感じです。優れた製品というのは考え方も美しくて、それから人と物、物と物との関係性も美しくて、それでアピアランスも美しいという、そんなふうに捉えてもらえればいいかなと思っています。
最後になりますが、これらの評価基準は、製品開発におけるチェックリストとしても使っていただけるということです。グッドデザイン賞を受賞するためだけではなくて、社会・産業・生活に貢献する製品を開発するための参考にしていただけるといいのではないかと思います。
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