見出し画像

少し長い時間軸のデザイン〜2021年度グッドデザイン賞 審査ユニット5(家電)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット5(家電)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2021年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit05 - 家電]
担当審査委員(敬称略):
三宅 一成(ユニット5リーダー|デザイナー)
鈴木 元(プロダクトデザイナー)
玉井 美由紀(CMFデザイナー)
安井 重哉(UIデザイン研究者)

今年の審査を振り返って

三宅 今回の審査は、世の中が大きく変わっていく中で、環境に関する問題もいよいよ待ったなしという状況になり、それに対応していかなければならないというような、考慮すべき事象が多くありました。正解がない中で、何がグッドデザインなのか?ということが、年々難しくなってきていると感じました。この家電というカテゴリーでも、この先どうあるべきか?ということを非常に考えさせられる審査でした。
今年の審査では、4人の担当審査委員の意見があまり分かれることがなく、意見がうまくまとまった印象がありました。応募される製品には多様性が出てきたにもかかわらず、そのように意見がまとまったというのは、ものづくりの姿勢がしっかりしているものがきちんと評価された結果なのではないかと思います。何のためにものを作っているか、こういう体験をユーザーにしてほしい、という作り手の意識が明確な核になって、それを大事にしながら、そこから何かにじみ出てくるようなデザインがされているものが、高く評価されたという気がします。

玉井 「何がグッドデザインか」ということで言うと、次の時代の新たな価値の兆しを今回の審査では感じました。ただ、まだ次の兆しが見え始めた、という感じで、ガラリと新しい価値に向けてシフトしているというところまでではありませんでした。ですが、そこに対して審査する側の気持ちが向かっているということと、応募された製品もそういう方向に向かおうとしていると感じられたものが、やはり高い評価を得られたような気がしました。

安井 環境負荷軽減のお話など、どういうアプローチで実現していくかというのは、今回の応募者の皆さんもいろいろ考えられていたと感じました。例えば再生材を使用するというだけではなく、持続可能性をエンハンスするような製品の提案だったり、ユーザーがすでに持っている機材にフィットするように作られているなど、そういうものがあると、審査委員みんなで「これはいいね」となった印象です。

鈴木 環境負荷軽減の話は、今までになく出ていた気がします。社会に与える環境問題のインパクトというのは、その「内容×量」とも言えるのではないかと思います。大量生産品では、ここが変わらないと大きなインパクトを与えることができません。例えば再生材を使うとか、塗装をやめるとか、本当に小さな一歩だとしても、それが何百万台という数になれば大きなインパクトが生まれます。だから家電というと、あまり環境問題に関係ない気がしてしまう部分もあるかもしれませんが、実は大きな役割を担っているということをあらためて感じました。

玉井 考え方を大きくチェンジしていかないといけないタイミングなのではないかと思います。例えば、性能のいいものをどんどん作るということではなく、作らずにどうやってそれを解決するか。ものを増やさずに、もしくはものが役割を終えるとき、どういうふうにもの自体を終わらせていくかといったところが大事で、そこがまだまだだなと感じました。

鈴木 作り手側の意識の問題もあると思いますが、グッドデザイン賞というところで審査をする側としても、そういう視点を持っているんだ、ということを、もっと働きかけていく必要があるかもしれないですね。
環境負荷軽減というのは、目の前のビジネスの話でもあるので、例えば環境的に見ると良いけれど、コストは高くなる、というジレンマの中で皆さん仕事をされていると思います。その中で1つのモチベーションになるきっかけをグッドデザイン賞が与えられればいいですね。

玉井 難しいなと思った点は、製品を使用する文化的な背景についてです。日本と海外の製品では目指しているところや価値観が違うということがあって、とくに家電のように生活に密接している製品だと、何を目指しているのかというところで、出てくる製品は全然違ってきます。異なる価値観があるということが分かった上で、なにがいいのかということを見ていかなければならない点が難しいなと感じました。
具体的に言うと、今年は中国からの応募がたくさんありましたが、中国の商品は家電でもファッション性が高いデザインが多い傾向にあります。例えば色はトレンドのカラーだったり、質感もおしゃれ感を出すことが多く見られるのですが、一方で日本の潮流としては、ベーシックなアピアランスで、機能性能などの価値を追求して、シンプルにまとまっているものが多い。そこは、どちらが良い悪いという議論ではないのですが、その部分ではあまり比較ができないなと思って見ていました。

三宅 僕はプロダクトデザイナーなので、その視点からお話すると、もちろん文化的な違いや、生活の仕方の違いなどはあるのですが、人間の生活の根本的なあり方というのは、国や文化が変わっても、そんなに変わらないのではないかという気がします。だからそこまで深く潜って考えれば、評価軸はあまり変わらないのかなという気はします。

鈴木 食はダイレクトに文化に関わってくるものなので、確かに評価が難しいですよね。文化的な文脈の中でどう見えるかというところもありますし、おっしゃるとおりだと思います。フォローしておくと、中国人の審査委員の方も1次審査には入っていただいるので、そういう文化的な視点も加味した上で審査はされています。

Panasonic 炊飯器 SR-UNX101

Panasonic 炊飯器 SR-UNX101(パナソニック株式会社)

三宅 炊飯器が、今どのように使われているかということを理解した上で、炊飯器の役割はこれからどうなっていけばいいのかということを、深く考えられた製品だと思いました。例えば、ご飯は週末にまとめて炊いて、それを冷凍保存する。平日はこの炊飯器を使っておかずを作って、冷凍したご飯を解凍してそれと一緒に食べる、といったようなライフスタイルが想定されています。狭いキッチンにいろいろなものを置かなくても、これ1つあれば十分という考え方にさせてくれるような炊飯器だと思います。炊飯器という名前に留めているのがもったいないぐらい、面白い考え方の炊飯器だと思いました。

鈴木 これまでの炊飯器は「●●炊き」というようなスペックを競い合うような世界で、いろいろなスペックをとにかく盛り込みましょうという傾向にありました。それは炊飯器に限らず、家電全般そういうところがあったと思うのですが、この炊飯器では、IoTによってハード側にそれほど多くの機能を持たせず、ハードとソフトで機能を分けて行き来できるようにしてある点が、これからのもののあり方を示している感じがしました。プロダクトとしては軽やかな存在であって、ものの原型みたいなものは留めておいて、内側を変えていきましょうという考え方です。もののあり方として静かなのですが、未来を感じさせるプロダクトだなと思いました。

三宅 スマホのアプリ連携の仕方も、スマホになったからこそこういう使い方ができる、ということを再定義している印象がありました。原点に立ち返って、スマホありきの使い方ならどうしたら素直に使えるだろう、ということを、非常に考えられている感じがしました。

安井 ユーザーの生活スタイルがきちんと製品に反映されていて、ユーザー・エクスペリエンスまで深く考えられて作られている印象を持ちました。デザインするときに、生活のワークフローをよく見て、そこにフィットする形は何だろうということで、アプリやハードウエアのデザインがある、この炊飯器に関してはそういう見え方がしていて、リアリティがあると思いました。

玉井 スペック競争になってしまうと、それぞれの機能に特化した製品がたくさん出てきます。炊飯器、何とかクッカー、ホットプレート、フライヤーとキッチンにアイテムが増えていくということを考えると、この炊飯器のあり方は合理的で未来的だと感じました。これ1台あれば十分だというあり方は、ものを増やさないで環境負荷を軽減するという意味でもとてもいいなと思います。

Panasonic 重量検知プレート NY-PZE1/NY-PZE1B1

Panasonic 重量検知プレート NY-PZE1/NY-PZE1B1(パナソニック株式会社)

三宅 これも同じくパナソニックの製品ですが、環境負荷軽減という点では、今回の応募の中でこれが一番考えられたアイテムだという気がしました。フードロスをなくすということももちろんですが、パッケージの印刷が少なくされていたり、そもそも大きな冷蔵庫の必要性を問い直すことの現れなのかという気がしました。オプションパーツを充実させていくことで、個々のニーズに合わせた冷蔵庫を作っていくということをしています。箱は箱、モノはモノ、オプションはオプションという考え方で、それぞれのニーズに合わせていくという、とてもいい製品だなと思いました。

鈴木 そうやってモジュール化していると考えると面白いですよね。そうすると自由度が広がって、冷蔵庫自体が長く使えるということもあるかもしれない。冷蔵庫の中だけではなく、お米やお茶といった食品の管理にも使えそうですし、機能を分離させたことによって逆に自由度が高まる感じが、確かにあります。そういうスタートアップ的な動きに、パナソニックのような大企業が取り組むというのも面白いと思いました。

安井 これからユーザーがどういう使い方をするのかが楽しみです。ハッキングというか、こういうやり方をするのか!みたいなアイディアが、ひょっとしたら出てくるかもしれないですね。まさにユーザーエクスペリエンス・ドリブンなデザインの企画という感じがします。

調理家電シリーズ [Block series]

調理家電シリーズ [Block series](Guangdong Midea Consumer Electric Manufacturing Co., Ltd)

三宅 世の中の生活が多様化して、いろいろなゴールやグッドがあるという感じになってきていると思うのですが、今、世に出ている製品は似ているのではないかという気もします。似ていることが悪いのではないのですが、もっといろいろなゴールがあってもいいのではないかと思います。こういうものを作りたいんだという理想を掲げたときに、みんながみんな同じ答えにはならないと思います。ですので、会社ごとにそれぞれの考え方があって、それぞれのゴールがあると考えたときに、もっといろいろな見え方の製品があっていいという気がします。
そう考えると、キッチンで料理するということを楽しくするのが、この製品のゴールなのかなという印象を持ちました。こういうデザインはおもちゃのようになりがちなのですが、これに関してはたたずまいもしっかりしているし、楽しく料理できるということがうまく表現されているなと思いました。

玉井 その意見にとても共感します。全部同じになってもおかしいと思うし、何となく白にしておけば安心という感じで、だんだん同じところにいってしまうのもおかしな気がします。似たものがたくさんあると、何がいいのかわからなくなってきますが、こうやってお料理が楽しくなるという気分は、グッズやギアで変えられるところでもあって、大事だと思います。なかなか冒険しにくいところなのに、クオリティも高く作られているというのは、私も面白いなと思いました。

鈴木 プロダクトデザイナーとしての力量を感じます。コンセプチュアルなことを破綻せずに製品レベルまでやり切るというのは、なかなか難しい。この会社のものづくりがきちんとしているから、フォローアップできているのだと思います。

Panasonic オーブントースタービストロ NT-D700

Panasonic オーブントースタービストロ NT-D700(パナソニック株式会社)

安井 私はユーザーインターフェース・デザインが専門なのですが、でもこれはハードウエアとしていいなと思いました。ハード面のお話は、ほかの審査委員の方からもお伺いできるとうれしいのですが、見てのとおりカタマリ感がある造形で、ノイズが少なくて力強い造形でまとめられています。操作系の部分も緊張感のある隙がない配置になっていて、とてもバランスが良い印象を持ちました。
UIの視点で見ると、液晶の部分の下にちょっと四角いエリアがあるのですが、いわゆるフルドット液晶で、きちっと全体の中でなじむ色になっていたり、出てくる文字も文字が白くて背景が黒いというところで統一されています。反転液晶を使うと視認性が課題になることが多いのですが、それもきちんとクリアされています。液晶画面で使われているフォントも、大きさのバランスや、ボールドフォントの使い方など、そういったルールも分かりやすくシンプルにまとめられています。

三宅 外観もしっかりまとめられていて、細かいディテールまで頑張って作り込んだということが伝わってきます。商品をパッと見たとき、通常はディテールまであまり目に入らないのですが、ちゃんとしたディテールが集まってくると、一個一個を見なくてもそれだけでパワーを発するという気がします。そういう、ディテールの集まりのパワーの強さを感じました。

鈴木 空間になじむというのは簡単そうですが、とても難しい。例えば、黒ければなじむとか、白ければなじむとか、全くそんなことはなくて、ディテールのちょっとした引っかかりみたいなものが、そのなじみを全部なくしてしまうことも結構あります。さきほどのフォントの話もそうかもしれないし、インタラクションの音や光り方もそうかもしれないし、それが全部納得するところに落ち着いているからこそなじむというか、自然に見えてくるのだと思います。どこかが際立って優れているというよりは、全体がうまく調和を作り出しているプロダクトだという気がしました。
機能的にも、たとえば冷凍パンの解凍にもフィーチャーしています。さきほどの炊飯器のお話にもありましたが、ライフスタイルの変化に伴って、パンを多めに買ってきて冷凍しておくことが増えてきているので、そういう部分もケアされていて、形だけではないところも含めてレベルが高いという気がしました。

ドラム式洗濯乾燥機 [Panasonic ななめドラム NA-LX129A シリーズ]

ドラム式洗濯乾燥機 [Panasonic ななめドラム NA-LX129A シリーズ](パナソニック株式会社)

鈴木 こちらは審査会でも高い評価を得ていたプロダクトですが、パナソニックのななめドラムという洗濯機です。約8年ぶりのフルモデルチェンジですが、どこで切り取ってもレベルの高いプロダクトだという気がしました。
ハードウエアという視点で見ても、現行モデルと比べると、凹凸が少なくなっていて、継ぎ目も少なくなっています。素材感も白いマットになって、空間になじむようなハードウエアがうまく作られています。蓋を開けてみると、内側のグラフィックも分かりやすく作られていて、モダンだけれども温かみや優しさもあるようなグラフィックになっています。アプリのデザインともうまく連携していたり、どこから切り取ってもうまく作られていました。
これは、よくあるデザイン家電の反対にある製品だと思います。デザイン家電は、ある際立ちポイントを作って、ここが面白いと言えるのですが、この洗濯機のデザインは「ここがすごくいい」と言いにくいデザインなんです。バランスが良くて、全部いいからなのですが、圧倒的に高いシェアをもっている日本の洗濯機のど真ん中みたいなところで、こういうレベルの高いものがあるというのは、すごくいいなと見ていました。全てのディテールがうまく整理されていて、ものとしての心地良さを生んでいます。

安井 このUIは、丁寧に、しかも整合性をもって作られていると思いました。ただ単に丁寧に作られているだけではなく、ちょっと大胆な視点でメニューが作られていて、レベルが高いなと感じます。

三宅 今までの操作部を、そのままただ電子的な表示にしましたというのではなく、電子的な表示になったからこそ、どうすればいいのかということに立ち返ってデザインされているような気がします。

玉井 洗濯というのは、洗剤や洗濯機のタイプではなく、洗濯モードで変わると言われています。洗濯モードを適切に選んで、適切な洗濯をすると衣類にも優しい。ですが、そういうのは分かっていても意外と面倒くさくてできなかったり、ボタンがたくさんあると複雑でよく分からないから、結局いつもお任せモードになってしまう、ということがよくあります。この製品では洗濯履歴が記録されたり、おすすめを教えてくれたりして、ユーザーにとって非常に分かりやすくなっています。どんなにハード側が便利な機能を用意してくれても、意外とユーザーはそれを使わないという、その事実をスマートに解決している点もいいなと思いました。

安井 こういう全体のユーザーエクスペリエンスのデザインを、どういうプロセスでデザイナーたちが考えて作ってきたのかというのに、すごく興味があります。

空気清浄機 [ブルーエア ダストマグネット]

空気清浄機 [ブルーエア ダストマグネット](セールス・オンデマンド株式会社)

玉井 空気清浄機はたくさんの種類があって、今までもたくさん見てきましたが、まず物体として大きいという共通点があります。部屋の中でかなりの存在感を出してしまう。空気清浄機は置きたいけれど存在感がありすぎて気になるという方も多いと思います。よく「インテリアになじむようにしました」と言うのですが、何が「なじむ」ということなのか?ということをずっと考えていました。でも、これを見たときに「あ、なるほど」と腑に落ちました。上面の操作面が一段落ちたところにあって、トップ面はテーブルになっているので、小物を置いたりできるようになっています。これだけ大きいものなので、そこに存在していても、空気を清浄するだけではなくて、インテリアとしての機能を持っていたら、確かにより「なじむ」のでいいなと思いました。たたずまいというか存在感が、部屋にあっても違和感がないところがいいと思います。インテリアになじむということはどういうことかというのを、あらためて考え直して、ちょっと発想を変えれば、ほかの製品でも作れるのではないかと感じました。

三宅 家電一般に言えることですが、家電の顔をしているとあまり生活になじまないですよね。空気清浄機から始まってデザインすると、家電になってしまう。だから、たとえばベッドの横や部屋の隅に置くもの、というところから始めたら、あまり違和感がないものになっていく気がします。そこを出発していくと、インテリアになじむアイテムが出てくるのかなという気がします。

鈴木 家電は一般的に言うと、その「機能」を買っています。空気清浄機だったら空気を清浄する機能が欲しいのであって、別にそのものとしてはいらないという大前提からスタートしているような気がします。確かにこれまでテーブルという発想はあまりなかったと思いますし、テーブルにすることによって、擬似的に存在が消える部分もあるので、面白いアプローチだと思いました。

玉井 機能性だけで勝負すれば、もしかしたら空気清浄機能がいいものは他にあるのかもしれないですが、そういうのもバランスなのかなと思います。今までこういうアプローチはなかったし、サイドテーブルと一体になっていると考えたら、2つのものを1つにできて、ものを増やさないでいられるという意味でも、評価軸として大切な部分だと感じました。

まとめ

三宅 はじめにグッドデザインとは何だろうということをお話ししましたが、毎年非常に考えさせられます。方程式はないので、どういう考え方でものが作られているのか、というところが、グッドデザインかどうかの「とっかかり」ではある気がします。
審査というのは、上から目線で見ているのではなくて、応募されたものの中から、審査委員が考えるグッドデザインというのは、こういうことなのではないかと思います、ということを言っている気がしています。逆に言うと、審査する側もすごく試されていると思います。「グッドデザインとは?」に対する回答は一つではないので、今年の受賞されたものを見て、こういうものがグッドデザインなのかな、ということを感じていただければと思いました。

安井 偶然にも今日お話した中にはパナソニックの製品が多かったのですが、大企業だから選んでいたわけでは全然なくて、生活のあり方をきちんと見つめて、そこにユニークなアプローチが入って、きちんと形になっている、というところが評価されていました。そういったデザイン・アプローチが同社の中で浸透しているということかもしれません。

三宅 パナソニックは、ユーザーの声を掬い上げることを昔から大事にされていたイメージがあります。僕は直接関わりがないので、はたから見てそんな感じがするのですが、それが今、歯車が噛み合って、うまく回り始めたという印象を受けました。

玉井 家電というのは、非常に進化を遂げてきたジャンルだと思います。ただ、商品数も増え、コモディティ化しているタイミングの中で、便利・安い・楽・格好いい、など以外の軸を誰もが探しているのではないでしょうか。私たち自身もデザイナーとしてそれを探していて、何が目指すべき道なのかと考えていますので、一緒に考えながら答えを見つけていくことができたらいいなと思います。一緒に考えながら、いいものをシェアしていくという発想でグッドデザインを見ていけたらいいなと思いました。

鈴木 今ここで話したことを振り返ると、生活になじむとか環境問題の話というのは、形や便利さや効率というよりは、もう少し時間軸が長い話だなという気がしました。昔はきれいだとか、便利だとかという話だったのですが、環境とのつながりでどうか、廃棄はどうするのか、といった軸や視点がどんどん長くなっている感じがあると思って見ていました。
デザインというのは、今までバラバラだったものをつないでいくところに長けている気がします。そういうものをつなぎ合わせる力がある職業というかスキルだと思います。答えは一つではないので、グッドデザイン賞のような場所で一同にいろいろなプロダクトを見て、今の時代のグッドデザインとは何なんだろう、ということを話し合うというのは、すごくいい機会だと思います。これは違うのではないか?という意見もどんどん聞きたいですし、そういう議論ができる場がある、というのはすごくいいなと改めて思いました。

↓ こちらもどうぞ
2021年度グッドデザイン賞 ユニット5 - 家電 審査講評