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移動の意味を問い直すデザイン〜2021年度グッドデザイン賞 審査ユニット10(モビリティ)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット10(モビリティ)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2021年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit10 - モビリティ]
担当審査委員(敬称略):
根津 孝太(ユニット10リーダー|クリエイティブコミュニケーター)
内田 まほろ(キュレーター)
森川 高行(モビリティデザイナー)
森口 将之(モビリティジャーナリスト)

今年の審査を振り返って

根津 今年のグッドデザイン賞の全体のテーマは「希求と交動」というキーワードでした。希求は、いろいろ求める気持ちです。交動は、普通の「行動」と違って、「交わって」「動く」という意味が込められています。
それに対して、この審査ユニットの受賞対象は、このテーマに対して様々な角度からきちんと応えているものだったと思います。
乗り物というのは、20世紀からずっとモータリゼーションの流れで、一方向的に進化してきたようなところがあり、間違いなく人の生活を豊かにしてきましたが、環境問題や労働問題といった課題があったり、最近では新型コロナウイルスの問題で移動するということが改めて問われる時代となっています。この大きな変換期に、グッドデザイン賞にご応募くださった皆さんがそれぞれの角度からいろいろな提案をしていただいたことが感じられる審査だったと思います。
例えば、古いものやまだ使えるものを大事に使っていくにはどうしたらいいのか、物流業界の人手不足をどう解決したらいいのか、といった課題があります。乗り物というジャンルは、なかなか変化しにくい分野なのですが、その中でも、さらに鉄道はより変わりにくいという性質があります。そのような鉄道においても、新しい動きを作れないだろうか、といったような様々な新しい動きや息吹、変わろうとする力のようなものを審査を通して感じたような気がしています。

コンバートEV [OZ MOTORS EV CONVERSION]

コンバートEV [OZ MOTORS EV CONVERSION]( 株式会社オズコーポレーション)

根津 オズモーターズのコンバートEVです。古い車を、外観はそのままに、中身だけを最新のEVに改造するという取り組みです。古い車が持っている情緒的な価値を上手に残しながら、古い車であるが故にシンプルな構造である点もうまく利用して、エンジンをおろしてモーターを載せてEVにしています。もちろんそこにはいろいろな苦労があるのですが、ある面では合理性も持っているというところが面白いと思いました。
新車がエコカーに切り替わっていくことは大事ですが、一方で、古いものを乗り継いでいくことの価値もあります。しかし、古いものを乗り継ぐには、どうしても時代的に追い付かない部分があるのですが、それをEVにすることで、環境にも対応しながら、古い車の良さも新しい技術の良さも持って、大事に乗っていこうというところが素晴らしいと思いました。

ダンプトラック [大型リヤダンプトラック耐摩耗鋼板(HARDOX)仕様]

ダンプトラック [大型リヤダンプトラック耐摩耗鋼板(HARDOX)仕様](極東開発工業株式会社)

根津 極東開発工業の大型リヤダンプトラック耐摩耗鋼板仕様です。ダンプトラックの荷台というのは、ほぼ変わらない形で長年使われてきましたが、そこにメスを入れたものです。
そもそもこれで解決したかった課題は、物流業界の人手不足です。例えば、荷物をたくさん積めれば、その分トラックの台数が減らせるので、必要なドライバーの人数も減らすことができます。そのためにいろいろ考えて、この荷台では全体で従来より500キロぐらい多く積めるように改良されています。つまりその分、荷台を軽くしているということなんです。
今まではたくさん補強を入れて、とにかく頑丈に造るという思想だったのですが、この製品では剛から柔へというコンセプトで、形を工夫したり、設計思想そのものによって柔らかく受け止めるという改良もされました。その開発の苦労は並大抵のものではありませんでしたが、軽量化しながらも十分な強度を実現して、結果としてたくさん積めるようにしました。物流業界の人手不足に対応するという、解決を目指している社会課題も明快ですし、剛から柔という新しい視点で取り組んだという点を高く評価しました。

電動式トーイングトラクター [トヨタ 3TE25 自動運転仕様]

電動式トーイングトラクター [トヨタ 3TE25 自動運転仕様]( 株式会社豊田自動織機)

森川 空港で使われているトーイングトラクターです。単体で見ると何だろうと思うかもしれませんが、普段、空港で見るときは、後ろにズラズラと貨物の台車を付けて、皆さんの荷物などを運んでいる縁の下の力持ちです。大きな空港ではこのようなトーイングトラクターは何百台もあります。これはすべて人が運転しているのですが、ここもご多分に漏れず人手不足が問題になっています。その中で提案された今回のソリューションは、今、話題の自動運転です。車の上にレーザースキャナーといわれるセンサーが付いていて、このセンサーで、例えば、空港ビルをレーザーの目で見て自分の位置を測るという仕組みです。これはよく普通の自動運転車で使う技術なのですが、空港というのはだだっ広くて、近くに建物がないというところが多いので、自分の位置を把握することは、普通の自動運転よりハードルが高くなっています。ということで、レーザースキャナーだけで自分の位置を決めるのではなく、車体の下にカメラのような別のセンサーが付いていて、微妙な空港の通路のでこぼこや傷を覚えて、これを見ながら自分の位置を決めるという技術的にも非常に面白いことを実現しています。このような技術を利用して、空港物流の社会的課題にソリューションを与えているという先進的な試みだと思います。これは、もう少し技術が進化すると、全く無人でトーイングトラクターが飛行機とターミナルビルの間を往復できるということになると思います。

雪上車 [NAVi(開発コード)]

雪上車 [NAVi(開発コード)]( 株式会社大原鉄工所)

内田 これはパッと見ると一体何なのかよくわからないのですが、雪上車です。南極観測隊が現地で活動する際に利用する自走式の観測機器でもあり、非常に限定された極限地で活動する乗り物です。
ユーザーが非常に限られていることからも、30年ぐらいリニューアルが行われておらず、極限研究事業の中で長らく見直しを検討されていた分野かと思います。吹雪で前が見えない中を車が進み、転倒してしまうこともよく起こるそうで、南極では常に危険と隣り合わせなので、とにかくこの一台で乗員の安全を守る必要があります。開発コンセプトに「シェルター」という言葉があったのですが、観測隊の方々を守るための安全の工夫が随所にされています。南極では不自由な環境で研究していると思われがちですが、こちらは木が使われていて、従来のものよりスペースを3%拡大したということで、内部は快適性も大事に考えられています。寒さを制御する機能や、内装や外装の工夫もされていて、快適性がとても高まったそうです。
最後に外装ですが、緑は南極に存在しない色だそうです。白い世界の中で目立つことも大事ですが、南極観測というのは人類の将来のための研究を行っているわけで、そういう意味では地球の人類の未来を背負っている存在でもあります。この緑が白の中で活躍しているというイメージが新しく、そういうことも含めて、研究開発全体をサポートしているデザインということで高い評価を得ました。

長距離列車 [WEST EXPRESS 銀河]

長距離列車 [WEST EXPRESS 銀河](西日本旅客鉄道株式会社)

森川 こちらは西日本旅客鉄道株式会社の長距離列車WEST EXPRESS 銀河という鉄道車両です。銀河というよく知られた長距離列車の後を引き継いだ形です。ここ20年ほど豪華寝台列車で巡る優雅な旅が人気で、JR系の各社が取り組んでいます。それらは大変人気があるのですが、高価でもあります。最低でも10万円、高いものになると50万円〜70万円と庶民にはなかなか手が届かない。そこに一石を投じたのがこちらです。
まず、車両は40年ぐらい前に走っていた快速電車の車両をリノベーションしたものです。和室のようなデザインなど、さまざまなタイプの客室を用意しています。列車内をウォークスルーで歩き回ることができ、いろいろな空間を楽しめる工夫もなされています。
何より特徴的なのは、列車だけではなく、旅そのものをプロデュースしている点です。ある駅では、プラットフォーム上で地元の人たちの地域の芸能を乗客の皆さんが楽しむことができます。そのため、止まる駅によっては1時間ぐらいわざと長く停車して、地元の人たちと交流を行ったり、地元の食を楽しむということが考えられています。地元との交流を楽しむ旅をプロデュースして、そのための器として新たに列車をリデザインしたというものです。そして、これは普通のサラリーマンでも十分手が届く料金設定で楽しめるようになっています。画期的な中長距離の旅、そして、その旅を演出する列車を造ったという素晴らしい提案だと思います。

鉄道車両 [交通部臺灣鐵路管理局 都市間特急車両 EMU3000]

鉄道車両 [交通部臺灣鐵路管理局 都市間特急車両 EMU3000](Taiwan Railways Administration, MOTC (TRA)+株式会社日立製作所+Taiwan Hitachi Asia Pacific Co., Ltd. )

根津 こちらは台湾を走っている高速鉄道で、日本でいうと新幹線のような鉄道です。台湾らしさとは何だろうということを突き詰めて、きれいなデザインを実現しているのですが、造っていくプロセスも興味深いものでした。鉄道というは設備に近いようなものですから、華々しくデビューすることが多く、デザインもプロがきっちり作っていくものです。しかしこちらの場合は、なぜこういうデザインにしたのか、あるいは、そこに込められた思いを、市民の方々に途中で公開していくというプロセスを踏んでいます。ですので、実際にこの電車が走り出す頃には台湾の皆さんがこの電車のファンになっているというような仕掛けがありました。これは、事業を請け負った日立が現地の皆さんと一体となって、そういったものづくりのプロセスを進めたものです。完成した車両も素晴らしいのですが、完成に至るプロセスも素晴らしいということで高く評価させていただきました。

活動支援モビリティ [クーポ]

活動支援モビリティ [クーポ](スズキ株式会社)

森口 最近のモビリティの傾向として、小さくてゆっくり走るもの、スモール&スローが続々と出てきています。電動キックボードもそうですが、こちらもその一つです。スモールとスローが出てきた時代背景の一つとして地球環境問題もありますが、もう一つは高齢化です。特に日本は世界屈指の高齢化社会で、高齢者が自動車の運転免許を返納して、その後の足をどうするかということが議論されている中で、このクーポは自動車メーカーのスズキが手掛けたものになります。電動車椅子と歩行補助具の電動アシストを兼ねるという仕掛けを苦労して造ったそうです。自動車メーカーがこういった社会的な要求に応えている点を評価したいと思いました。実際に使っているユーザーや実際に見た人の声を聞いて、それをフィードバックして熟成させていくという開発プロセスも好感が持てました。そういうものづくりを、スズキは軽自動車でもやってきているのですが、ユーザーと共に歩んでいきながら、いいものに育て上げていくというところが印象に残りました。

社会課題を解決するNLJ幹線輸送シェアリングスキーム

社会課題を解決するNLJ幹線輸送シェアリングスキーム( NEXT Logistics Japan株式会社)

森口 こちらは、トラック輸送の改善のための、モノというよりはコトのデザインとなっています。日本では物流の9割ぐらいをトラック輸送が担っており、諸外国と比べてもかなり比率が高いそうです。しかも、コロナ禍では旅客輸送がガタ落ちしたのに対して、逆に物流は増えているという現状があります。以前からドライバー不足は問題になっていたのですが、ここへ来てさらに深刻になってきました。
もう一つは、積載率です。実は物流会社のトラックというのはどうしても満載で運ぶということが難しいのです。行きは満載だけど帰りは空だとか、行きも帰りも3割ぐらいしか積んでいないということがよくあるそうです。そこで、物流業者や荷主、例えば、食品会社や飲料メーカーなどに呼び掛けて、一台のトラックにいろいろな荷物を混載して、効率良く運ぶ取り組みを始めました。そうすると、当然ドライバーの数も少なくて済みます。そういった環境をつくっていこうということで、デジタル技術も使って実装したのがこの取り組みです。NEXT Logistics Japanという会社は、トラックメーカーの日野自動車から独立した社内ベンチャー的な企業で、トラックを造っているメーカーがこういうものを立ち上げて、物流の会社や荷主であるメーカーに一緒にやりましょうと声を掛けて、これを構築していったというプロセスも高く評価したいと思います。

乗用車 [SUBARU レヴォーグ]

乗用車 [SUBARU レヴォーグ](株式会社 SUBARU)

森口 SUBARUは昔からワゴンを造るのが上手な自動車メーカーで、レヴォーグという車を何年か前に出してヒットしました。レガシィがグローバルカーになり、サイズが大きくなっていったということで、日本向けにもう一度サイズを見直して、日本ならではのスポーティーな味付けも入れて造られたのがレヴォーグです。これが非常にヒットして、今回の受賞対象はそれの2代目になります。
初めてモデルチェンジをして2代目になったということで、基本のコンセプトは継承しているのですが、エクステリアはダイナミックになりつつ、時代のトレンドに呼応してランプ類を細く見せたり、そういうモダンな部分もうまく取り入れていると思いました。
もう一つ、SUBARUの特徴として視界の良さというのがあります。もともと飛行機造りから始まったメーカーですので、しっかり見えるということを非常に大事にしていまして、新型のレヴォーグも一見するとスポーティーなのですが、ドライバーの目線の高さの視界は変わっていないそうです。荷室の使い勝手もスポーティーなフォルムでありながら、テールゲートの開口部を広く取るなど工夫が見られます。外観以上に変わったのがインテリアで、中央に大きいディスプレイがあります。今、車の中では、ナビや音楽など、いろいろな装備をコントロールしなければいけないということで、それを大きい画面でまとめて、直感的に操作できるものに仕上がっています。

キャンピングトレーラー [ウッドビークル]

キャンピングトレーラー [ウッドビークル](株式会社HUG+株式会社古崎)

内田 キャンピングトレーラーというと、大きくて、特別な人の持ちものという印象があります。日本では持っている人もそれほど多くないですし、ごつい印象もあります。こちらは、株式会社HUGと株式会社古崎という開発した両社がいずれも自動車系の会社ではないという点が面白いと思いました。どちらも、内装工事やプロダクトデザイン、住宅や店舗のお仕事で、特に木材の利用を得意とされて活躍されている企業が2年をかけてキャンピングトレーラーを造ったということです。
車の業界ではないところからこ果敢に挑戦したというところがまず面白いという点と、皆さんがそれぞれでこれまで培った技術が、こんなにも車という空間の中に生かされるのかと驚かされました。部屋の中に入ると畳が敷いてあって、木の手触りが気持ち良くて、「楽しい」という部分を徹底的にスタディされて実現されています。
あとは、ワークスペースとしても機能するようにデザインされています。これは今の時代に重要だと思うのですが、畳の部屋の中で仕事もできるようになっています。こういうことができたらいいな、気持ちいい時間を過ごしたいな、という気持ちが設計の中に生きている提案になっています。
このコンパクトさも、けん引免許がなくても引っ張ることができる大きさということです。これまでのキャンピングトレーラーの常識を変えるような、車というのが家具とか住まいという文脈で捉えられるような新しいデザインだなと思いました。

路線バス [ポートループ]

路線バス [ポートループ](神姫バス株式会社+株式会社GK設計+株式会社GKインダストリアルデザイン+株式会社GK京都)

森川 こちらはポートループといいまして、神戸の中心である三宮地区から港、そこから西に行ったメリケンパークを結ぶ路面の公共交通です。
神戸といえば横浜と並んで魅力的な港町ですが、横浜と違うところは、神戸は港がちょっと遠いんです。長年、三宮とウォーターフロントを結ぶ魅力的な公共交通が欲しいというのが神戸の願いでした。しかし、1995年の阪神・淡路大震災で神戸は甚大な被害を受けまして、この26年復旧に取り組んできました。復旧が終わって、やっとこれから攻めのまちづくりに行こうというのが神戸の現在です。
デザインはGK設計が手がけています。GK設計はこれまでも魅力的な公共交通を数多く設計していますが、これも神戸らしい港の海を連想させるような色やデザインを用いて、LRTを思わせるような連節バス、バス停、車内も洗練されたデザインとなっています。これをきっかけに神戸がプラスのまちづくりに進んでいけるのではないかという期待が膨らむ社会システムだと高く評価しています。

移動販売車 [deli+co(デリコ)]

移動販売車 [deli+co(デリコ)](PLUME)

内田 こちらは移動販売車です。deliveryと「co」が心という気持ちを込めての名前ということですが、PLUMEというスタートアップに近い方たちが立ち上げたプロジェクトです。
移動販売車は、車なので移動することが当然大事ですが、一方で主たる業務、仕事の中心は販売です。ですが、移動販売車自体は1980年ぐらいからあまりスタイルが変わっていませんでした。このプロジェクトでは、販売する方たちが、店舗をデザインするかのように車をデザインするということを叶えたプロジェクト、ものづくりのシステムになっています。
車のオーナーが売るものによって、店舗のデザインはそれぞれに違うものだし、使い勝手もそれぞれに違います。一人一人のオーナーからリクエストを聞いて、建築家出身のプロデューサーの方たちが本当に店舗設計をするように、車両の規則にちゃんと適合する形で移動販売車をデザインしています。
生き方が多様になってきているこの世の中に対して、デザインで応えていき、メッセージを届けていきたいという狙いもあったそうです。時代感も含めて応援したいプロジェクトだなと評価しています。

まとめ

森口 私は2013年度からグッドデザイン賞の審査に携わり、もうすぐ10年近くになります。モビリティというと、これまでは自動車、鉄道、飛行機、船の4つに分けられていましたが、新しいモビリティがどんどん増えてきているという実感があります。今までは、大きくて速いモビリティが偉いという感じだったのが、環境問題などいろいろな社会的な要求によって、がらっと変わってきました。ゆっくり走るものにも価値がある、小さいものが面白いというので、最近の傾向としては、さきほどもお話したように、小さくて、ゆっくりなもののほうが、創造性豊かなデザインが出てくるのかなと思いました。もちろん、速いと安全性の要求が厳しくなりますので、それに対処すると似通ってしまうのは一理あるのですが、逆に言えば、ゆっくりとか、小さいもののほうが自由な発想が表現できるということになります。
あとは、新しい・古いという価値観も、今までは新しいものが良いという感覚だったものが、そうではなくて、古いものを大切に使うという価値観も大切にされるようになってきました。
日本は、おそらく乗り物先進国だと思います。ですから、新しいものをどんどん追求していく一方で、そういう経験を生かした熟成型のものが今年度も出てきましたが、この分野は今後も期待したいなと思っています。

森川 世界を席巻したコロナ禍では、とにかくモビリティを激震させました。何しろステイホームで、動くなと社会が言っている中で、本当に根本からモビリティのことを考え直すという2年間だったと思います。
一方で、技術的には、これもよくいわれる100年に1回の変革期にあります。車が、いわゆるCASE化、自動運転を代表するように非常に変わりつつあります。日本の事情でいえば、超高齢社会、それから人手不足という社会問題もモビリティに影響を与えています。このようにモビリティをとりまく環境が激変している中で、社会的な情勢や技術的情勢を非常によく考えられた力強い応募がたくさんあったと感じています。
人が動かないのなら、サービスを動かす、物を動かす。物を動かすにもトラックの物流ドライバーがいない。そういった様々な課題を、あるときには技術で解決したり、あるときには地域を巻き込んでコミュニティで解決していくなど、まさに新しい試みがたくさん見られました。
オンラインサービスの爆発的な普及で、実際に移動しなくても便利になった部分が多くありますが、コミュニケーションは非常に限られるという面もあって、これを今後、先進のモビリティでどう解決していくかというのも楽しみです。

内田 移動するということと、住まうとか暮らすとか過ごすということがほとんど同義になっているのではないか、だんだんそういうふうになってきているのではないかというのをすごく実感する年だったなと思っています。移動という動詞が拡大していっているということをすごく感じました。
もう一つは、パブリックとプライベートという話でいうと、公共交通は誰かが勝手に決めてデビューするというものだったところに、市民の声が反映される時代になってきている例をいくつか見せていただきました。公共というものが個人にどんどん開かれていくというのも、公共性が強い鉄道や船のようなモビリティの変化として感じました。

根津 いろいろ考えなければいけない、いろいろ変わらなければいけない、そういう状況にある中で、まさにこのユニットの受賞対象を見ただけでもいろんな動きが生まれてきているということが非常に感じられました。
それがまさに交動で「交わり」「動く」なのですが、こことここは物流という目で見るとつながりそうだなとか、全然違う技術なんだけれども、ある視点で見るとつながりそうだなとか、だんだん点と点が線になり、面になりとなっていくような印象を持ちました。
自動車業界は歴史もあって経験値も高いという人たちがいなければ動いていかない業界でもあるのですが、一方で新しいプレーヤーと交わりながら、この時代に合った動きをつくっていけるのかなというようなことが、希望を持って、今後に期待できるような、そんな息吹を感じられた審査だったのかなと思っています。

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