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【モルトを知る】ベースモルト編

モルトはホップ、酵母と並び、アロマ、フレイバー、ボディ感、アルコール度数など官能特性に強い影響力を持っています。ビールをビールたらしめる、"The Soul of Beer"なんてカッコいい呼ばれ方もされ、ビール醸造において最も重要な要素の一つです。
そんなモルトですが、意外と軽視されがちなので復習も兼ねてざっくり概要を説明していきます。

大麦と麦芽

大麦(Hordeum vulgare)は、イネ科の穀物で、小麦と共に世界でもっとも古くから栽培されていた作物の一つです。栽培が始まったのは紀元前10000年前頃ともいわれ、長い歴史があることがわかります。
大麦には二条、四条、六条の3種類がありますが、これは穂軸にある穀粒の配列の数に応じています。ビールづくりには二条と六条が使われ、最近は二条がメインになってきています。
大麦は収穫後、選別→浸水→発芽→乾燥といった流れで麦芽化が行われますが、これは一体何のために行っているかというと、穀物のでんぷんとタンパク質を分解し、醸造工程に必要な酵素を作り出すことを目的としています。
乾燥や熱処理の温度を調整することでベースモルトとスペシャリティモルトに分類されます。

ベースモルトとスペシャリティモルト

ビールモルトは基本的にベースモルトとスペシャルティモルトの2種類に分類できます。

ベースモルト

ベースモルトはその名の通り、ビールのベース(土台)となる麦芽です。ビールに含まれる炭水化物(デンプン)、タンパク質、酵素の主成分で、グレインビルの大部分(50~100%)を占めます。ベース麦芽にも味わいや酵素力(Diastatic Power、以下DP)に微妙な違いがあり、求める味わいに応じて特定のメーカーや種類が選ばれることも多くあります(ドイツスタイルをつくるならドイツ産ベースモルトを選ぶなど)。麦芽の違いを知ることで、醸造に適したベース麦芽を選ぶことができます。

スペシャリティモルト

スペシャルティモルトは、ビールをより美味しくするフレーバーや色味を生成するために、より高い温度で乾燥またはローストされたモルトです。でんぷんを糖に変換する酵素力を持たない非酵素麦芽であることが多い。乾燥温度や時間、焙煎工程の有無で3つに分類されます。

キルンドモルト - アンバーモルトやビスケットモルトなど
クリスタル(カラメル)モルト
- カラメルモルトや各種クリスタルモルトなど
ローストモルト
- ダークモルトやチョコレートモルトなど

ベースモルトの種類

Lager / Pilsner Malt

非常に淡い色合いを持ち、優れた酵素活性を持つことからすべてのスタイルのベースモルトとして使用できます。
他のモルトと比較して低い温度で乾燥されDMSの前駆体であるSメチルメチオニンが生成されるため、醸造の煮沸工程で揮発させないとオフフレーバーとなってしまうが、一部ヨーロッパでのビールスタイルでは許容されているためお好みで調整してもよいかもしれない。
ラガーモルトとピルスナーモルトは基本的には同じものですが、一部メーカーはラガーモルトのプレミアムバージョン的な意味合いで「ピルスナー」と呼ぶこともある。
各メーカーからPilsner/Lager Maltといった名前で発売されている。

Pale Malt(2-row)

ペールモルトは基本的に北米版のラガーモルトで、一般的に北米産の大麦品種が使用されています。どのスタイルにもベースとしても使用できる。ヨーロッパのラガーモルトよりもタンパク質量とDP、FANが高く、でんぷんの迅速な変換や酵母への栄養の供給に優れたモルトである。一方で高い酵素力は高い発酵性を誘発してしまう可能性があるため、マッシングの温度や麦芽比率でコントロールする必要がある。ラガーモルトと比較して極若干色味が強い。

Pale Ale Malt

ペールエールモルトは、ペールモルトよりも高い温度で乾燥され、イングリッシュペールエールの醸造に特化したモルトです。
トーストやビスケットのようなモルトのキャラクターがあり、イングリッシュペールエールのような低比重のビールでもしっかりとした味わいをつけるのに役立ちます。
DMS前駆体であるSメチルメチオニンは高い温度で乾燥させることで麦芽化中に揮発するため、DMSオフフレーバーの心配はない。

Wheat Malt

麦芽化された小麦です。麦芽化の過程ででんぷん・タンパク質が可溶化されており、酵素力もあるので最大で70%程度使用可能。
小麦には外皮がないため、大麦よりもタンニンが少なく、大麦と比較して重量比でより多くのタンパク質をビールに与え、ヘッドリテンションを良くします。しかしながらタンパク質が多く、殻がないため、小麦のマッシュは大麦のマッシュより粘性が高いため、ロイターに支障をきたす可能性があります。
小麦については以前書いた記事を載せておきます。

Vienna Malt

ヴィエナ/ウィンナーモルトは名前の通りVienna LagerやMarzenに使われる事が多いモルトです。上記モルトよりより高い温度で乾燥させるため、トーストのようなふくよかなモルティさを寄与できる。十分なDPを持ち合わせているため、100%ベースモルトとして使用可能であるが、個人的にはアクセントとして低い割合で使用するのがオススメです。

Munich Malt

ミュンヘンモルトはベースモルトの中で最も高い温度で熱乾燥される。パンや穀物を思わせるふくよかなキャラクターが特徴。種類によって色味の幅も広く、色の濃いものと薄いものでは特徴が大きく異なることがあるので、使用前に確認しましょう。
軽めの熱乾燥を行ったミュンヘンモルトはDPを持ち合わせているが、濃いミュンヘンモルトは乾燥温度が高いためDPがかなり低く、でんぷんを等に分解する力が弱いため、DP値の高いモルトと組み合わせて使用する必要があります。

Wheat、Vienna、Munichモルトは人によってはベースモルトに分類しない人もいるかもしれませんが、これらは特定の地域では麦芽使用比率の大部分を占めて醸造される歴史的背景もあり、また十分なDPを持ち合わせていることから今回はベースモルトとして分類しています。

モルトの組み合わせに正解はありませんが、自分が目指す味わいに応じて1種類、多いときは10種類を組み合わせて使うこともあります!モルトのキャラクターはもちろん、ホップや酵母との相性などを考慮すると組み合わせは無限大です。色々実験していろんな組み合わせを考えるのも楽しいものです!もちろんデータシートを読んだりするのも大事なのですが、これはまた別の機会に。

次回はスペシャリティモルト編です!

John Palmer, How to Brew 4th Edition, Brewers Publications, 2017 - http://www.howtobrew.com/
John Mallett, Malt A Practical Guide from Field to Brewhouse, 2014
Brew Your Own - Understanding Base Malt, https://byo.com/article/understanding-base-malt/


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