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【働き方改革事例】「会社に来るのが楽しくてしょうがない」をスローガンに、本気で取り組む風土改革。キーワードは「Enjoy」と「ノリ」

アワードの受賞・ノミネート取り組みに限らず、全国のみなさんが取り組むさまざまなGOOD ACTIONを取材しご紹介していきます。


【企業・団体名】

豊田合成九州株式会社

【取り組みの概要】

分社後、自社独自の「競争力の確立」が不可欠となった。それを形づくっていくのは、個々人が束になって力を発揮する「強い組織づくり」であり、そのためには「職場と仕事を楽しむ風土づくり」が必要だと考え、社長を含めた会社全体で本気で取り組む「Eノリ委員会」を発足。結果、全社を通じて職場間のコミュニケーションが拡がり、深まり、経営側が想定する以上に業務実績も向上した。

【取り組みへの思い】

会社側があれこれと抱える課題を解決するのは、結局は「従業員が高いパフォーマンスを発揮する」ことに尽きます。それを本気で実現したいと立ち上げたのが「Eノリ委員会」です。とはいえこれは「きっかけ」にすぎません。ただ、この「きっかけ」から従業員の意識と会社の雰囲気が変わってきており、今はまだ半ばですが、今後の成長にますますの期待を感じています。(総務人事部/桑原 恒大さん)

▲インタビューに答えてくださった皆様

(写真の左から順に)
・川村 雄太さん(本社・福岡工場):総務人事部 人事G 人事T TL
・桑原 恒大さん(本社・福岡工場):総務人事部 人事G GL
・林田 智幸さん(佐賀工場):総務人事部 安全・総務G
・今泉 雄貴さん(北九州工場):北九州製造部 北九州製造第2課 IEめっき係 班長
・大福 聖さん(本社・福岡工場)事業推進部 DX推進PJ

【本文】

●これまで以上に不可欠。自社独自の「競争力の確立」。

豊田合成九州は、自動車(主にレクサス)の樹脂・ゴム系部品を製造する企業である。2019年、それまでトヨタ自動車グループである豊田合成の九州製造拠点だった福岡県宮若市と同県北九州市、佐賀県武雄市の3工場が分離独立し、現在に至る。

しかし分社化とは、文字にするほど簡単ではない。標準作業を遵守徹底し、いかに効率的に製造するかということだけを追求するのが全てではなくなるからだ。自らの足で立ち、勝ち抜いていかなければならないからだ。そのためには、独自性や他社との優位性といった「競争力の確立」が、これまで以上に不可欠となっていた。

●結束づくりに必要なのは、互いのことを知って、繋がっていくこと。

分社化のタイミングに先駆け、2018年、総務人事部に入社した人物がいた。桑原 恒大さんだ。当時をこう振り返る。
「製造拠点として安全も求められることから、強い上位下達での組織運営を続けてきたせいか、、良くも悪くも『過度に規律を重んじる』『職人気質で年功色が強い』という印象を受けました。もちろん全てが悪いことだとは思いません。これまでの歴史もありますからね。

ただ、分社化にあたり、以後もこれまでの延長路線を進んでいては厳しい。個々人が単体で力を付けていくだけではなく、個々人が束になって力を発揮する『強い組織』へと変貌しなければならないと感じていました。それこそが、当社の『競争力の確立』に繋がると思ったからです。」(桑原さん)

桑原さんは考えを巡らせた。
「競争力づくりとは強い組織づくりだ。それに不可欠なのは個々人の結束。では、それをどうつくる?」

当時、会社は分社化に伴い大人数採用を実施。将来を担う人財採用と位置づけ有望な若手も増えた。が、定着は難しかった。「おそらく、今まで無かった価値観の持ち主たちに突然対峙したことで、拒否反応が生まれたのでしょう」と桑原さんは振り返る。

ただ、これを糧に、桑原さんは一つの結論に至る。
結束づくりに必要なのは、もっと互いのことを知ることだ。今こそ分社化のタイミングに乗っかり、従業員同士で変化や成功体験を育んでいける『職場と仕事を楽しむ風土づくりプロジェクト』を立ち上げよう! 今度は拒否反応ではなく、良い化学反応が生まれるぞ。

●会社も本気。だから、活動は業務扱い。そして、否定は厳禁。

2022年、活動は一気に進展。新しく就任した社長が「会社に来るのが楽しくてしょうがない」会社を実現したいと発言したのだ。この機を逃すまいと反発も覚悟の上で、思いの丈を社長に直談判。社長はすんなり承諾し、加えて協力体制も提案される。一つ、活動は仕事・投資と位置付け就業時間として扱うこと。もう一つ、管理職層には社長から直接メッセージを送ることで理解と協力を促すこと。そして最後、どうせなら堅苦しくなく楽しめるものにすること。また、労働組合ともじっくり会話し、労使の方向性がしっかり合致した。
 
こうした後ろ盾を得て、同年10月、「Enjoy」と「ノリ」をミックスした
「Eノリ委員会」がスタート。
会社の本気度を伝えるため作成した社内貼りポスターには、社長に最高にノリの良いポーズをとって参加してもらった。

▲「Eノリ委員会」のポスター

Eノリ委員会の活動にあたっては、ノリよくおこなえるよう、あえて幾つかの制約を設けた。一つは、活動の趣旨がブレないよう、「働く環境」「職場コミュニケーション」「主体性発揮」のいずれかのテーマを掲げること。次に、最終目的である「強い組織をつくる」に本気で向き合い自分史上最高のノリで楽しむこと。そして、どんなものにも決して否定はしないこと、である。これ以外はまったく無い。

活動の流れも極めてシンプルである。まず拠点毎にEノリ分科会を2週に1度程度開催し、有志メンバーを集ってプロジェクト化。活動内容を検討したら、2か月に1度開かれる全社Eノリ委員会の場で具体化させ、その場で社長が決済を即断即決する。

また、活動状況は早期に社内イントラで共有。従業員の一声で会社が変わっていっている様子を他工場にも公表することで、全社的な盛り上がりを見せている。

●三者三様の取り組みによって、会社の風土が変わっていった。

活動開始から約1年。では、この1年間での取り組みの一部を、実施した方の声とともに紹介しよう。

記念すべき第1号は、佐賀工場で行われた「カレー会」だった。

◎佐賀工場/林田 智幸さん(2019年入社)
「正直、どんな活動をしたらいいのかなんて見当もつきませんでした。でも、地元に有名なカレー屋さんがあって、キッチンカーも出せると聞いたので、『来たらみんなに喜んでもらえるんじゃないかな』と思って企画したんです。

工夫したのは、なるべくみんなに食べてもらいたいと思い、2日に分けて開催したことですね。工場勤務の場合、1日だけだとシフトの都合でお昼に当たらない場合もあるので。
当日は多くの人が心待ちにしてくれていて予想以上に賑わいました。みんなで列に並んで外で食べたりしているうちに、とくに普段関係性が薄かった工場と社屋の人たちとの間で親睦が深まり、その交流は今も続いているみたいです。

これを機に委員会は加速度を増す。第2号は北九州工場でおこなわれた。

◎北九州工場/今泉 雄貴さん(2009年入社)
「北九州では工場見学をおこないました。社外の方からすると『必要なの?』と思われそうですが、これには大規模工場特有の事情があります。当社は事業ごとに製造部品が異なり、それぞれに工場があります。同じ敷地内なのですが、勤めている場所以外に足を運ぶといったことはありません。なので、隣を知らず従業員同士の交流も無い――おかしな話ですよね。そこで、互いを知れば一体感が高まり、交流も生まれると思い、工場見学を企画しました。

見学では全員が名前だけじゃなく、担当作業から趣味まで明示した名札を付けました。すると自然と会話が生まれ、以前はすれ違っても無反応だったのが、挨拶や会話を交わすのが日常になりました。

一方で、福岡工場の取り組みもユニークだった。

◎福岡工場/大福 聖(2010年入社)
「私たちは休憩所の模様替えをしました。殺風景でとてもくつろぐ空間ではなかったからです。また、あえて業者さんに頼まずDIYにし、委員会メンバーの交流から深めました。メンバーと一言でくくっても、じつは様々な部署から集まった異文化集団。まずはそこの関係性構築が第一だったからです

着手したのはパーテーションの設置です。お昼寝したいとか、一人でリラックスしたい人に向けた空間をつくりました。『オシャレで使い勝手いいよ!』と評判は上々です。でも、それ以上に嬉しかったのが、休憩所から多くの交流が生まれていること。最近の社内は挨拶がとても増え、私自身もメールのやり取りだけだった部署と直接会話することが増えました。

▲実際に設置したパーテーション

●兆しが、どんどん大きくなっている。そして、「Eノリ委員会」は2年目へ。

Eノリ委員会発足後、すべての活動に共通していること。それはコミュニケーションの活性化と会社への愛着の深まりだと桑原さんは言う。

「もちろん全てが順調だったわけではありません。初めはメンバー間の衝突もありました。でも、そもそも『否定しない』が決めごとでしたからね。『とにかく一度やってみよう』の精神でやってみて、案外うまくいって、衝突したことさえ忘れてたなんてこともありました。

でも、以前は『トップダウンの遵守徹底』こそが大命題だった組織ですから、衝突が生まれたことすら変化です。なおかつ、それを乗り越えてきたわけですから、メンバーは格段に成長しています。

一方で、チャレンジすることの楽しさや従来とは異なる仕事からの学び、そして小さな成功体験の積み重ねはモチベーション向上にも繋がっています。これは、大きなチャレンジができる組織への兆しだと捉えています。

社外繋がりで一点。最近になって、当社の活動に興味を持たれた同業者が取り組みを見学され、参考にしているという事例も生まれています。福岡工場のある宮若市は、当社と同じく自動車部品を製造する工場がたくさんあり、以前からご近所づきあいもある関係性でしたから。ライバルではありますが、切磋琢磨しあうことで地域全体が発展していくと更に嬉しいですね。」(桑原さん)

強い組織づくりとは何か。働きやすい職場とは何か。そこに明確な答えなどない。様々なことが幾重にも重なって、そこに答えが現れてくるのだと思う。豊田合成九州の取り組みはまだ始まったばかりである。会社の本気度を礎にもっとたくさんの試みが行われた数年後、数か月後が楽しみでならない。

WRITTING:大水 崇史
本ページの情報は2023年11月時点のものです。

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