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つばめの巣

直売所の巣


直売所に野菜を持っていくとつばめの巣ができていた。ぐるぐると旋回するつばめの姿を見て子どもが指をさしている。毎年村にはつばめがやってくる。
ぼくは東京近郊の工場街で生まれ育った。学校に上がる前は近所に田んぼが少し残っていた気がするけれど、それらはあっという間にビルや駐車場に変わって行った。そしてそこにつばめがやって来ることはなかった。大人になって東京でひとり暮らしを始めたときも、職場にも住んでいるアパートにもつばめはやって来なかった。


つばめという鳥


つばめは台湾などの温暖地で越冬し春になると日本列島にやってきて子づくりをする。つばめは肉食性で自らも飛行しながら飛ぶ虫を捉えて食べる。剣術の技の名にもなっている急旋回は伊達でも道楽でもない。つばめが虫を捉えるために必要な技術なのだ。
つばめは田んぼの上を飛び回り稲を食害する虫を捉える。稲作の守り神なのだ。


今もなお


鳥は飛行しながら糞をするから巣の下は汚れてしまう。直売所を訪れるお客の頭の上に落ちてくることをあるかもしれない。
それでも、たとえ商売に差し障るとしても農村地帯の人々はつばめの巣を撤去しない。するとすれば「つばめの糞に気をつけてください」という貼り紙を出すくらいだ。
今はもう稲作も機械化され手で田植えする人なんていない。農薬を使って除草し薬を噴霧して虫を防除する。そのような時代にあってもなお、つばめは昔と変わらず守り神であり人々はこの鳥の子づくりを大切に見守っているのだ。
変わるものがあるけど変わらないものもある。大げさかも知れないけどこれが文化の持つ力なのだろう。


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