どんぐり

(…やばい。緊張してきた…)

彼の住む都市まで向かう新幹線の中で
私は、今から初デートだとは到底思えない心境だった。

(…緊張しすぎて吐き気が…。やっぱり無しな人だったらどうしよう…。
なんかもう帰りたい…。)

緊張のせいでよく分からない思考回路になっていた。

でも

(…着いてしまった…。)

今目の前のゲートをくぐったら彼がいる。
緊張感で病気になりそうだった。

(いやいやいや、電話であれだけ盛り上がったし、大丈夫大丈夫…!!)

勢いでゲートを突っ切った。



いた。


ん?


黄色のサングラスにロン毛だと…⁉

最初から自分の好みど外れの格好の彼をみつけてしまった…。

(いやいや、負けるな私!!)

”こんにちは、Hさん?”

と私から声をかけた。

そうすると彼は

恥ずかしそうに頷いた。

…ん?

…ン?

…かわいいな…。

私の中で今まで抱かなかった感情が生まれた。


それから彼の案内でいろんなところをまわって、デートをした。

正直何を見たか、どこへ行ったかなんてあんまり覚えていない。

でも彼と話していたら、心が穏やかになって
ありのままでいられるのがよくわかった。

…こういうのなんていうんだっけ?

お互い背伸びせずに済んでる感じ…

えっと、えーっと…

どんぐりの背比べか!!


(違うだろ)

我ながらアホかと思ったが、間違っているのになんだかしっくり来てしまった。

彼と私ってどんぐりなのかな…(アホ)

顔がどんなにタイプじゃなくても、服装が全然好みじゃなくても
彼の横にいたらほっこりする。
たくさん笑顔になれる。


これが しあわせ か。


私がそろそろ帰る頃になって彼が

”ほんとに僕でいいの?”

と聞いてきた。


”もちろん。だってあなたといると私はどんぐりになれるから。”


そう答える代わりに、私は彼の手を握った。
彼の手は暖かくて、抱きしめられているようなぬくもりだった。

手しか繋いでないのに不思議だね。