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十勝岳にて(上)

2024年6月中旬、十勝岳火口域の観測点を撤収した
この観測点は私がまだ大学院生だった2014年に、延べ1週間、およそ10人がかりで設置した思い出の観測点だった

十勝岳は北海道中央に位置する活火山で、1988-89年の噴火を最後に噴火はしていないものの、現在も火口からはもうもうと噴気をあげている。2006年ごろから火口下数100mの深さに圧力が溜まっているような地面の膨らみ(目で見てもわからないがGNSSなどをつかうとわかる)が観測されていた。全磁力と呼ばれる地下の磁石の強さを測る観測を1年に1回行っていても、変化が見えていた。この変化はやはり地下数100mで温度が上がっていると考えると説明できるような変化だった。

観測点を作って1年に1回ではなく15分に一回測れるようにすれば、もっと火山のことがわかるのではないか、と当時のH先生は考えたらしい。そこで工事が計画され、皆で十勝岳へ向かった。

宿泊先は、あの『白銀荘』である。中谷宇吉郎が雪の研究をしたときとは建物こそ違うが、同じように泊まり込み、3泊4日×2で火山研究のための観測点づくりが始まった。当時、当火山分野にはおあつらえ向きにフィジカル系体育会系がなぜか集まっており、アメフト部2人、ラグビー部、登山部などなどというもってこいのメンバーが揃っていた。皆で多くの荷物を山に担ぎ上げ、山の上で穴を掘り、観測点を建てる。穴を掘るのもゴロゴロとした火山弾に当たればなかなか掘れないし、そもそも1m真っ角くらいの穴を掘らなければいけなかったので、相当大変だった。

白銀荘は山小屋なので、ご飯は自炊だった。なので、その日のご飯当番が決められ、その人は山登りを免除される代わりに皆が山を降りてくる頃に合わせて、夕ご飯準備が命ぜられた。私は完全に山登り要因だったので、一度もご飯当番には任命されなかった。ある日、山から降りてきたら、夕ご飯として桶寿司が並んでいた。山小屋で食べる寿司はある意味新鮮で美味しくいまだによく覚えている。

そんなこんなで観測点を無事に作ったのだが、火山観測はそんなに甘くはなかった。
つづく…