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研究室生活を乗り切るためにー論文の探し方・読み方ー

大学3年生・4年生で研究室に配属される大学生が,研究室生活を乗り切るために,現役大学教員が一つの方針を提案するこのシリーズ.第2弾は論文の探し方・読み方である.

弊学・弊学科では,研究室における重要な取得単位の一つに,論文購読がある.最新の論文(英文)を読み,ゼミメンバーに紹介するというもので,研究室に配属された学生が最初にすることであり,最初に苦労することでもある.他の大学でどのように実施されるかはわからないが,研究をする上で論文を読むということは非常に重要なことであり,決しておろそかにできないので,その探し方・読み方を知っておいて損はないだろう.

なぜ論文を読むことが重要なのか

探し方・読み方という本題に入る前に,論文を読むことがなぜ重要なのかをおさらいしよう.
・研究とは先行研究の上に成り立つものであるから
・論文の構成を論文から学ぶから

・研究とは先行研究の上に成り立つものであるから
『巨人の肩の上にのる矮人』
という言葉があるように,新たな科学的成果はそれまでの研究成果の積み上げの上に成り立つものである.先行研究を知らずに研究をするというのは,せっかく巨人が隣にいるのに,自分で一から階段を作るようなものだ.さらに,よほどの天才でない限り,自分が思いつくものは誰かがやっていると思った方がいい.そして,その方法の問題点や限界などはだいたい論文になっている.自分の研究は先行研究がカバーしきれていない領域や積み残した問題などを少しでも解決するというところから始まる.

・論文の構成を論文から学ぶから
研究室に分属されたほとんどの人は論文を読んだこともなければもちろん書いたことなどないだろう.それでも卒業するためには卒論を書かねばならない.おおよその論文の構成は型が決まっており,論文の書き方を指南してくれる書物は少なくないが,実は各分野ごとにお作法が色々ある.例えばデータの示し方などは,分野・専門領域によってまちまちだと思った方がいいだろう.そうなると,これを教えてくれるのはその専門分野について書かれた論文しかない.論文を読むことで,構成・言い回し・データの示し方を学べ,自分が卒論を執筆するときに活きてくるだろう.

論文の探し方

論文の探し方は簡単だ.ググろう.
google scholarは優秀だ.キーワードを入れれば,実にたくさんの論文を出してくれる.ただし,google scholarの検索結果は玉石混合であることに注意しなければならない.「論文」と一口に言っても,査読付きで国際誌に掲載されたものもあれば,学会のproceedingsを論文という分野もあるようだ.もちろんproceedingsも参考になるとは思うが,ここで探している論文は査読付きで国際誌に掲載されたものである.そして国際誌にも色々なレベルがあることを知っておかなければならない.読もうとしている論文が掲載されている雑誌が適切な雑誌かどうかは,周りの先輩や教員に聞いて確認してみるといいだろう.

ググるというのは非常に有効な論文の探し方なのだが,問題点もある.一つは,キーワードが適切でなかったときに適切な論文にたどり着けないことで,もう一つは,自分が『今』興味のある論文にしかたどり着けないことである.一つ目の問題点は特に解説する必要はないと思うが,問題は二つ目の問題点だ.研究室に配属されたばかりのとき,そもそも面白いと思える研究テーマはなかなか見つからないのではないだろうか.そして,ちょっとだけ知っておりなんとなく面白そうかなと思ったり,教員や先輩に言われたりしたキーワードで検索して論文を探すしかない.そうすると,本当に面白いと思える論文に出会える可能性は低くなってしまう.

こういった問題を解決するためにおすすめなのが,雑誌ごとに論文をサーベイすることだ.研究室の先輩や教員に,よく読む雑誌(国際誌)を聞いてみよう.そしてその雑誌のwebページに行くと,これまでに掲載された論文の一覧をみることができる.そして新しいものから順にタイトルを見ていき,気になるものがあれば要旨や中身を読んでみるといいだろう.案外,キーワード検索では引っかからなかった面白い論文に出会えるかもしれない.

論文の読み方

まずは専門用語に慣れよう
初めて英語論文を読むとき,それはまあ苦労するものだ.もし英語が得意でスラスラ読めるような人でも,専門分野ごとに現れる専門用語には苦労するだろう.専門用語はgoogle翻訳などに突っ込んでも,変な訳をされてしまい却って苦労することになる.そこでおすすめなのが,全て和訳して先輩や教員と一緒に読み合わせをすることだ.論文の最初から最後まで,英文和訳に付き合ってもらおう.だいたい,一本の論文を和訳できるようになれば,専門用語や背景がなんとなく理解できるようになり,英語が読めても内容がさっぱりわからないという事態は解消できるだろう.

論文を疑ってかかろう
査読付き論文を読んだときに陥ってしまいがちなのは,「査読を通った論文なのだからここに書いてあることは全て正しい」という思い込みである.書いているのも人間であれば査読しているのも人間なのだから,意外と論文にはミスがある.図で示されていることと本文で書いてあることが違っていたり,式展開が間違っていたり,そもそもそんな議論をしていいのか?というツッコミを入れたくなったりする論文もある.初めのうちはなかなか難しいかもしれないが,本文に書いてることを「なぜこういうことが言えるのだろう?どこから(図や表や先行研究)この内容は来ているのだろう?」という疑問をもち,自分なりの答えを見つけてから読んで行くと,図表を読み解く力がつき,論文の内容も理解できるし,だんだんとミスも見つけれるようになるだろう.

先行研究に遡ろう
論文を読んでいると,当たり前だが,その論文が引用している先行研究が出てくる.だいたいはイントロダクションや手法,議論で出てくる.できれば,その先行研究を探して,全て読めなくても,その内容を理解しよう.そうすることで,ここまでの研究の流れや考慮されてきたこと,誰かがやったけどうまくいなかったことなどを知ることができる.たまに,先行研究で全く言っていないことを著者が引用で示している場合(ミス)もあるので,その点でも遡ることが重要だ.

論文を読むことは,研究室生活の基礎である.

最初にぶつかる難関である論文読みだが,論文をしっかり読んでおくことで,
・研究テーマを決める材料になる
・自分の研究の立ち位置を知る
・論文の構成を学ぶ
・図表を読み解く力がつく
という,研究室生活の基礎となる部分が出来上がって行く.
是非,論文をしっかり読んで,幸せな研究室生活を送ってほしい.

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