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市川沙央 『ハンチバック』レビュー

★この本を読んだきっかけ
テレビで日本の安楽死の問題が良く取りあげられているのを見て、障がいを持っている人の立場を知って安楽死について考えたいと思った。それと同時に、優生思想がなぜ生まれてしまうのかについても考えて見たかった。

★印象に残った文(※抜粋というより思い出しながら書いてます)
・社会に取り残されないように、「学生」を名乗れるよう通信制の大学の講義を受けている
・障がい者は、税金を圧迫していると言われるが親が残した財産を相続できないまま、亡くなっていく人が多い現実がある
・それでも生きるということは、尊厳である

★この本を通して勉強になったこと
・誰にでも乗り越えられない壁や試練があるが、障がい者の方にとっては、それが日常的で目に見える部分で存在していることが改めてわかった。
・自分のコンプレックスと戦う延長戦上に日常があるように描かれていたが、最後の方のページでは子供を孕むことを望んでいたり、生きるべきという主張があったりと作者の人生に対する考え方が深いものだということが分かった。

★個人的な感想

●普通でなければならないという葛藤
この本の主人公に限らず、現代人は多くの普通にとらわれていると感じる。学生であれば、このランク以上の大学を目指すのが普通。社会人であれば正社員が普通。など…そういった固定概念が、自分たちの人生を支配して、普通でないことにコンプレックスを抱き羨望し普通になる欲求に変わっていくのだ。
「普通」でなければいけないという葛藤は拭いきれないけれど、常にその葛藤と戦い勝ち続けないといけないと思った。この小説の主人公に対しても、健常者と同じことが出来なくても、ずっと自分らしく生きて欲しいと思った。

●安楽死と障がい、死に対する個人的な考え
大学4年生の時の生活科学の講義で、「なぜ自殺ってしてはいけないんですか」と聞いている学生がいたことを思い出す。その時の先生の回答は「この命は自分のものって決まってはいないんです。他の誰かから借りている借り物かもしれないんです。だから自殺はしてはいけないんです。」ということだった。
一瞬、何かの宗教チックのような聞こえ方もするが噛み砕いてみればまさにその通りだと思う。どのような生き方をするかは自分自身の問題だが、自分が死ぬかどうかというのは他者も介在せざるを得ない。誰かのために生きるのではなく、先生の言うとおり誰かに借りてるものだから勝手に壊してはいけないという考え方は大切なのかもしれない。
 その一方で、安楽死を切望せざるを得ない状況の人も数多くいる。現代の医学、法律に取り残されてしまいもがき苦しんでる人がいるのを忘れてはならない。そういった方に、命は借り物だからとかいう詭弁を語ることはできないだろう。安楽死の是正についても、それを可とするか不可とするかという白黒の判断も大事だが、社会全体でハンディキャップがある人が生きがいをもてるためにどのような工夫をしていくかを考えていくことが大事だと思う。
この本を読んだことをきっかけに、私も考えていきたい。

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