不動明王のバカンス #3

 第三神 台風は神であっても止められない

 あれから3日経ち、不動明王と雅弘はテレビを見てドキドキしていた。
「まじかよ!こっち直撃じゃねぇかよ!」
「うーむ、これは直撃したらどうなるのだ?」
「予想できない災害だよな、風だけじゃねぇ、ここ最近は水災害が多くて川が氾濫するんだよ」
「氾濫するとどうなる?」
「こうなる・・・」
テレビ画面見ると、看板が飛び去り、道路は海と化し、氾濫した川は住宅地に流れ込み、茶色い水で水上都市と化していた。
「あーちゃん、台風は止められないのか?」
「台風とやらは自然が起こすものであって、我ら神がやっているわけではない、今まで我らがやっていると思ったのは?はた迷惑な」
 しかし、そうは言っても台風の対策はしなければならなかった。
ダンボールとガムテープを持って窓ガラスを防ぐことにした。
「本当にこれで大丈夫なのか?」
「土地が低い所じゃないから浸水はしないはず、問題は風で飛んできたもので家の中がめちゃくちゃになることだ」
「さすがにこれは風神と雷神のせいでもないわ」
 雅弘と一緒にホームセンターへ行き、災害対策のグッズを買うことになったが、考えはどうやら甘かったようだ。
来れば、米とパンとインスタント麺すらなく、風が吹くように空に近かった。
「やべぇ・・・何もねぇよ・・・」
「これが世紀末とやらか?」
「本気の世紀末になったら多分こんなもんじゃないだろうな」
「台風は確か明日丸一日、速度も遅いし迷走してるっていうから、うろうろ滞在しているだろうな」
「買えるものだけ買おう」
「そうするか」
ライトも買い、防災グッズ一色もカートに入れて、念のためと思うものも買った。
「そういえばこの間来た神様はなんて言うんだ?」
「大日如来様だ」
「偉いのか?」
「一番偉いといっても過言ではない」
「あーちゃんはちゃんと休めているの?」
「変身するから休めていないな、この間聞いたバカンスとやらを理解できていないのが痛感した」
雅弘は不動明王が「神であっても無力だ」という言葉に、神様は完璧だって誰が言ったんだろうと心の中で呟いていた。
 ホームセンターだけでなく、薬局やコンビニにも梯子して食料は何とか集めることはできたのであった。
「梯子しててにはいったのがたったこれだけか・・・」
帰ってから広げると、カップ麺2個、菓子パン1個、スープが3つ、ポテトチップス2袋、チョコレートが1箱だった。
「これで生き残れるだろうか・・・」
「雅弘、我は良いからお前が食べよ」
「神様だってお腹すくだろ?!」
「すくにはすくが沢山はいらん」

 夕方、雲行きが怪しくなり、雲が黒くなり雨がポツポツと降ってきて風も生暖かくそよそよふいてきて、だんだんあやしくなってきた。
「雨が降って来たな、あーちゃん洗濯物取り込んでくれた?」
「もうとっくに終っておる」
雨戸もガタガタ鳴り出して、風が段々強くなっているのが肌で感じた。
「だめだなぁ、温帯低気圧にならなそうだ」
「心配しても仕方ないだろう、停電する前に風呂入れておくぞ」
不動明王が給湯器にスイッチ入れてお風呂を入れて、洗濯物とタオルを畳んでいた。
その時、呼び鈴が鳴り、こんな時に何だろうかと出ると、カッパを着た智輝が紙袋にガスコンロと鍋を持って立っていた。
「智輝?!どうしたのだ!?」
「ごめん、泊めて俺の地区避難所あるらしいんだけど、浸水する可能性あるからここまで逃げて来たよ」
「その2つだけ持ってか?」
「カレー作ったから持ってきた」
「お前、心細くてきたのか」
ということで雅弘の家で3人で過ごすことになったのであった。
風がびゅううううーっ!と音がするまでふくもんだから時々、雅弘と智輝はびくっとしていたのであった。
何を思ってか不動明王は二人が見ていない間に外へ行き空へ行った。

 空の雲の上に顔を出すと、台風の外側で風神と雷神があたふたしていた。
「お主らなにしてる」
「不動明王殿!」
「すみません、我らが起こしてるわけではないのです!」
不動明王の前で風神と雷神が土下座までして訴えるので、「わかっとるわい」という表情するしかなかった。
「そんなの知ってるが止めることはできんのか?」
「無茶ですって!そもそも台風は突然生まれてこのように凶暴化するので我らでも手がつけられないのです!」
「ではせめて速く通らせることはできるか?」
「できるだけのことはいたします」
「そうしてくれ、下界の者たちに今死なれると困るのだ」
さっさと雅弘の部屋に戻ると、智輝が腕組んで怒っていた。
「智輝すまない、今厠へ行っておってな」
「いきなりいなくなるな!」
初めて人間に怒鳴られた不動明王は固まってしまった。
「いなくなっておらん」
「ご飯できたから食べるよ!」
「お・・・おう」
生まれてこの方怒られたことがない不動明王は何故怒られたのか理解していなかった。
テレビ見ながらカレー食べて、智輝が食器を洗っている時に、雅弘に聞いていた。
「雅弘、何故智輝はあのように怒ったのだろう」
「え?簡単な話だよ、心配したんだよ」
「我は神ぞ?心配されることはない」
「俺も弟がいなくなった時かなり心配したよ」
カーペットにごろりと寝転がり、テレビを見ていた雅弘に不動明王は考え込んでいた。
 『我は大日如来の化身・・・』
生まれてからずっと仏敵と戦い、縛り上げ、斬り捨てての毎日。
明王の中でのトップにはついたものの、気が晴れることはなかった。
「いつになれば終るやら」

 とうとう夜中になり、3人が風呂あがってそろそろ寝床に入る時に停電になってしまった。
不動明王は座禅しながら目を閉じて寝ていた。
薄明りをつけて、雅弘は不動明王が寝ている姿を見ていた。
「戦う神様だから横になって寝ることも少ないのか」
何となく雅弘は不動明王を横に寝かせて、布団をかけてお腹あたりをぽんぽんして寝かしつけていた。
「雅弘さん何してるの?」
「寝かしつけている」
「神様を寝かしつける人間なんていないでしょ?」
「下界へ来たっていうのにいっこうに休めているきがしないんだよな」
「神様でもあんなに怒るんだよな」
 二人は迷惑系ワイチューバ―が墓石を破壊したり、石像を蹴っ倒したり、仏像盗んでみたとか、そんなことしている連中が本当に罰当たりなことしているんだなと内心思っていた。
「桃花ちゃん、極楽にいけているといいな」
「そうだね、極楽に行って今度は幸せなら良いって思う」
「・・・我は・・・不動明王」
 一瞬起きているかと思い、雅弘と智輝は黙ってしまったが、どうやら寝言だったようだ。
「せめて一日くらいこうしてやろうか」
風が激しく、雨が雨戸にぶつかる音までしていた。
台風は毎度毎度思うが、はた迷惑な災害である。
何故なら、災害の跡の跡片付けするのは常に人間だからである。

 朝になり、日は登っているけど台風の真っ只中。
「やべぇよ、通り過ぎるの今日の夕方らしいぜ」
「それまで大人しくしているほかないよね」
「雷神と風神は何しているんだ」
停電が解消したのはお昼だった。
テレビに映るのは災害だらけでどうでも良い情勢の話や政治家の汚職事件や芸の人の誰かが不倫しただのゴシップもので、横になっていた雅弘は「この事件いつになったら風化するんだ」と飽き飽きしていた。
一方、不動明王は珍しく、ぐっすりと眠っていた。
「雅弘さん、ラーメンできましたけど食います?」
「おう?何ラーメン?」
「醤油ラーメンです」
「お!俺の好きなやつ!」
「あーちゃんの分は?」
「起きたら作ってあげようと思って」
ラーメンを食べながら、ニュースをBGⅯ代わりにしていた時であった、轟音とともにベランダの雨戸を突き破り、窓が割れてどっかの店の看板が飛んできた。
「嘘だろ!速く塞げ!」
部屋の中は雨と風と葉っぱとゴミが飛んできてめちゃくちゃになっていた。
こんな大騒動しているというのに不動明王はぐっすり寝たままで、看板を外して盾にして塞ぐので精いっぱいであった。
「ごめんな・・・掃除させちまって」
「雅弘さん、これはたぶん神様も想定してないですよ・・・」
雑巾で床にかかった雨水を拭き取り、ゴミ掃除したときには、ラーメンが伸びきっていた。
それでも捨てることなく食べたのであった。
「何があった?」
ようやく目を覚ました不動明王に雅弘と智輝は溜息ついて、手をひらひらさせていた。
そして、破壊された雨戸と割れた窓ガラスを見て何があったか察しがついたのであった。
「お前たち怪我ないか?」
「ないよ、家の方が被害と損害あるけどな」
「台風過ぎ去ったら修理手伝ってやろう」
その後、天気予報の予測より台風はまるで鞭打たれるように夕方5時頃に過ぎる予定が、おやつの時間の3時になったのは言うまでもない。
 台風が過ぎたあと、ご近所さんがゴミ掃除して、雅弘と智輝は看板を運んで出していた。
人間は生きているうちに常に色々あって大変だなと不動明王は溜息ついて、雅弘は軽く声かけた。
「あーちゃん、人間って大変だろ?」
「ああ、いつもこうして生きているんだと体感したな」
「あーちゃん、もののたとえだけどよ、台風で例えば死んだり助かったりすることがよくニュースで報道されるけど、それは運だと思う?」
「何を馬鹿な、運というのは自分で切り開いて手にするのだぞ、それを運で片づけるのか?」
「いや、でもひとつだけわかることがあるんよ」
「それはなんだ?」
「一寸先は闇、それが人間なんだよ、だから救えなかったからってしょげることはないんだ」
「しょげているように見えたのか?」
「見えた」
「明日また、どこかに連れて行ったる」
「楽しみにしておこう」
 天気が晴れると、また暑くなり、どうやら残暑はまだまだ続きそうだ。
「あーちゃん、パンフレットでも見ます?」
「見せろ」
パンフレットを開いて見ながら、明日はどこへ行こうかと考えながら不動明王は残りの休暇日数を見て、指で数えていた。
不動明王のバカンスはまだまだ続きそうである。

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