宝塚歌劇団問題に関する考察(2024.5.11)

 宝塚問題では、退団者の発表が相次いでいるようである。
 宝塚と、被害者遺族は今年3月28日に合意書が取り交わされた。
 しかし,私は、この件が、本当に問題なく解決できる否か、未だに不透明だと考えている。
 結論から言うと,この件が、問題なく解決するには、
①遺族側との最終的な示談交渉が円満解決すること。
②問題の宙組上級生からのハレーションを抑え込むこと。
がポイントになると思われる。

その1 3月28日付け合意書の意味

 合意書では,「責任は劇団側の管理・運営等であり、劇団側に全責任があった」という趣旨が記載されている(言い換えれば劇団員には責任がないということになる)。また,パワハラに関して否定していた事例のうち14項目をパワハラと認め,その改善策を講じるとした。
 そして,「阪急・劇団は、遺族に対し、本件に伴う慰謝料等解決金として相当額の金員を支払う。」と確約している。
 ここにいう「慰謝料等」とは賠償金になる。しかし,「解決金」とは,請求する法的根拠がない部分(法的に認められる「賠償金」に含まれない部分)の金銭をいう。つまり,「慰謝料等解決金」とは,
 慰謝料等の賠償金の他に,「賠償金として認められない部分の要求を
 解決金として支払う」

という趣旨であると思われる。
 この合意書締結前,劇団側はパワハラの存在そのものを否定していた。そのため合意書を締結する際,被害者遺族側としては,劇団側がどこまで誠実に責任を認めるつもりなのか,疑心暗鬼の状態だったと予想する。最も問題となる死亡損害等の認定をどうするのか,そうした点を考慮して「慰謝料等解決金として相当額の金員を支払う。」という文言になったものと推測している。

その2 遺族側との最終的な示談交渉が円満解決できるか?

 こういう事例で紛糾しやすい要素は、被害者の自死とパワハラとの相当因果関係にある。
 パワハラがあったからといって、全ての事例で被害者が自死に至るというものではなく、自死の原因がパワハラによるものと認定される必要がある。この点は、刑事事件上や労災認定上では、たとえパワハラが認定されたとしても、立証資料の有無・内容等が問題となりやすく、パワハラと自死との相当因果関係が間違いなく認定されるとまでは言い切れない。
 ただし、民事事件としては、3月28日の合意に基づき,賠償金以外に解決金も考慮すると約束されているだけに、この因果関係の問題を度外視して金銭が支払われることになる。
 この合意書の締結を,示談合意したと誤解している人もいるようであるが,合意書と示談書を同一視してはならない。合意書締結の効果は,あくまでも協議方針を定めたというだけであり,最終的な賠償金交渉はこの後に行われるということを意味している。
 多分、宝塚歌劇団は、この種の賠償金を負担する保険契約に加入しているものと思われる。この件は訴訟に発展する可能性は低いと思われ、契約している損害保険会社が最終的な支払いの可否を判断することになる。たとえ、これを損害保険会社から否認されたとしても、解決金として劇団が支払うことになるわけで,この点については、「多数の劇団員が謝罪文を作成していること」や、「劇団がその責任を認めており、その内容がある程度合理的だと評価できる可能性があること」で、民事上は損害保険会社も相当因果関係を認定せざるを得ないものと予想する。
 そういう意味では、①は比較的容易にクリアーできるであろう。

その3 問題の宙組上級生からのハレーションを抑え込むことができるか?

 私の実務経験上,解決するのが最も困難と思われるのが,この②の視点である。
 パワハラによって下級生を自死に追い込んだとされる女優には、その是非は別として,マイナスのイメージがつきまとうことになる。そして,このダメージを簡単に払拭することはできないであろう。彼女らは、厳しい世間からの非難・評価を受けることになる。大変言いにくいことではあるが,世間的にみると彼女らは既に女優としての商品価値を失っていると言っても言い過ぎではないだろう。はたしてこれを挽回することができるのか?
 宝塚歌劇団にしてみれば、なるべく早期に演劇活動を再開することが最大の目標であり、非難の的となっているパワハラ上級生の保護は二の次に考えていると予想する。
 「静かに出て行って欲しい」、「出て行ったあと騒がないで欲しい」というのが、劇団側の本心だと思う。
 しかし、宝塚歌劇団に入る女優達は,幼いころから厳しいトレーニングに耐え抜いた人が多く,高い競争倍率を勝ち抜いたエキスパートなのである。
 そうしたエキスパートとして,一度脚光を浴びた経験のある女優が、簡単にエースの座を明け渡すのか?そういう金銭等で解決できない大変難しい問題が内在している。こういう演劇・演奏等の人前で講演する形の人の集団では、私の実務経験上でも、相当深い闇がある。
 言葉に出なくても,劇団側からの無言の圧力が加わることは避けられないだろうと思う。仮に、彼女らが、世間からの重圧や、劇団側からの無言の圧力に負けて退団したとしても、退団した後で、また問題が再燃する危険性があると予想される。

 個人的には,宙組の再建は熾烈を極めると予想している。

以上

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