父とわたし ②

 子どもの頃、父とは親子だけど、2人きりになると何を話したらいいかわからなかった。お互いに気を遣っていたのだろうと思う。父はいつも気難しそうな顔をしていたし、冗談を言ったところなんてみたことがなかった。何を話したらいいのかわからないと思っていたのは、父も同じだったのだろうと思う。

 休日、家族で出かけるところといえば、スーパー銭湯や外食がほとんどの我が家。あとは、日帰りのつもりが帰りが夜遅くになってしまい、急遽宿泊することになるという無計画な旅行(もともとはドライブのつもり)くらい。子どもが好むテーマパーク的なところにはほとんど行ったことがなかった。でも、どういうわけか一度だけ父と2人ででかけた記憶がある。


 それは場外馬券場。


 場外馬券場は、わたしの家からは30分ほどで行けるところにあり、父とわたしの2人で場外馬券場に行き、馬券を買いに行ったことがあった。これが父と2人ででかけた1番古い記憶。確かわたしが小学校中学年くらいのこと。子どものわたしにとってはそこは楽しい場所とは言えなかった。おじさんばかりだし、タバコのにおいが鼻をついた。そして、普段家にいない父と2人での外出は緊張していて、落ち着かなかった。何を話したらいいのかわからないし、あまり乗り気ではなかったけれど、母がわたしのお気に入りのワンピースを着せてくれた。
 ドライブで馬産地に行ったり、牧場で乗馬体験だったら、実際に馬にも触れ合えるけど、場外馬券場。そこに馬はいない。日曜日なのだから、普通、遊園地やデパートなど子どもの好きなところに行くだろう、と思うのだが、そこをしないのがわたしの父だった。臆病者なわたしは、人混みの中で父とはぐれないように必死で後をついて歩いた。父に付き合って馬券を買った後、ケンタッキーで昼食をとった。ケンタッキーは好きだけど、わたし以上に父のほうがケンタッキーが好きだった。2人だけの時間、どんな会話をしたのかは全く覚えていない。2、3時間ほどの外出だったはずである。断片的な記憶だけど、わたしの中で忘れられない1日だった。
 余談になるが、数年前、久しぶりに行った場外馬券場は、昔と比べるととてもきれいになっており、タバコのにおいもしない場所に変わっていて驚いた。


③につづく

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