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オトジェニック・はらかなこ「20240328”Prologue”」

「オトジェニック」は、自分の好きな音楽を語るコーナー名として、「フォトジェニック」をもじって考えてみた造語なのだが、どうだろう。不評だったら、なかったことにする。

引き続き坂本龍一さん(教授)の話題。

昨年(2023年)1月、高橋幸宏さんがこの世を去り、坂本龍一さんが病と闘っているというニュースを聞いて、私の心はぽっかりと穴が開いてしまった。その穴を埋めようとYMOの曲ばかり聴いていた。そうしているうちに、あるYouTubeのチャンネルに行き着いた。
ピアニスト・はらかなこさんの公式チャンネルである。
私は、一瞬でこの映像に釘付けになった。
私の大好きなYMOの曲や教授の曲をピアノアレンジで次々と披露している。もともとピアノ曲の場合は、原曲の雰囲気を極力再現して演奏している。

そればかりではない、やはり同じころにこの世を去ったTHE SQUARE(T-SQUAREではない)の和泉宏隆さんが手がけた「宝島」だとか「OMENS・OF・LOVE」など、和泉宏隆さんの懐かしい名曲まで弾いているではないか!
とにかく、曲のチョイスが、アラフィフやアラカンのオジさんの心を鷲掴みにして放さないのだ。YouTubeのコメント欄には、私と同世代のオジさんが演奏を聴いた感激を率直に伝えている。おそらくリアルタイムで聴いてはいなかったであろう若者が、これほどまでに当時の音を再現できるものなのか!これで沼に落ちるなと言う方がオカシイ。
ピアノの技術もさることながら、ピアノを弾いているときの楽しそうな表情がとてもよい。とくに「OMENS・OF・LOVE」を弾いているときの表情がそうだ。ピアノを前にして、自己が解放され、鍵盤の上を自在に駆け回っている、そんな印象を受けるのである。あんなふうに軽やかに生きられたら、どんなにすばらしいだろう。
ということで、私はすっかりはらかなこさんのファンになってしまった。
教授の一周忌が近づき、久しぶりにYouTubeを見てみると、教授の一周忌に合わせてはらかなこさんが教授の曲をピアノでカバーするアルバムを発売するというので、さっそく予約注文した。アルバムのタイトルは、「20240328”Prologue”」。「20240328」は教授の一周忌の日付である。
届いたアルバムをさっそく聴いてみる。

01 MerryChristmas Mr.Lawrence
02 Thousand knives(千のナイフ)
03 Tong Poo(東風)
04 Self Portrait
05 Parolibre
06 Dear Liz
07 Rain
08 Etude
09 Ballet Mechanique
10 shining Boy & Little Randy
11 黄土高原
12 The End of Asia
13 Epiogue
14 koko

どれも好きな曲ばかりだ。そのほとんどが、私が80年代に繰り返し繰り返し聴いていた曲である。
驚いたのは、再現性の高さと、その同時代性である。晩年の落ち着いた感じの教授の演奏ではなく、リアルタイムで聴いていた、あのころの演奏を忠実に再現している。たとえば01は、教授が最初に戦メリのサントラをピアノアレンジした『Avec Piano』の演奏を、(1箇所を除いて)忠実に再現している。それでいて、はらかなこさんの大胆なアレンジも時折入る。そのバランスがまたよい。
私ははらかなこさんのピアノを聴いて、「カバー」に対する考え方が変わった。以前は「教授の作曲した曲は教授がピアノ演奏するのが一番だ」という原理原則主義に陥っていた。しかし教授自身、自分は作曲家であってピアニストではないと公言している。つまりこれらの曲は、本来はピアニストのものなのだ。そう考えたとき、狭小な偏見から解き放たれていった。
はらかなこさんの演奏は、教授以上に教授の世界観や音楽観を体現している、と言っても、決して言い過ぎではない。
さて、CDのジャケットを見返すと、そこに小さくはらかなこさんのサインが書かれている。さらにCDを入れていた封筒は、宛先と差し出しがおそらくはらかなこさんの自筆であり、差し出し人のはらかなこさんの名前のところには「ありがとうございます」と一言が添えてあった。
心がこもっているのは演奏だけではなかった。大切に丁寧に聴き続けることが私にできることである。

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