本を薦めるのは難しい

毎週火曜日は、文化放送「大竹まこと ゴールデンラジオ」のオープニングのフリートークを聴くのが楽しみである。メインパーソナリティーの大竹さんと、火曜パートナーの小島慶子さん、そして火曜レギュラーの武田砂鉄さんの掛け合いは安心して聴いていられる。
ところが今週火曜(2023年12月26日)の放送は、やや噛み合っていないように感じたのだが、そう感じたのは私だけだろうか。
大竹まことさんが、今年の年末年始は仕事とは関係のない本を読もうと思っている、と話を切り出す。それも、むかし読もうと思ってなかなか読み進められずページを閉じてしまったような難しそうな本を、いま読んだら自分の中でどういう変化があるだろう。そういった本を読んでみたいんだけれど、という。
私がその話を聴いて即座に頭の中に浮かんだのが、大江健三郎の小説だった。私自身の思い出を振り返ってみても、たとえば大江健三郎の小説は読もうと思って挫折したクチである。でもいまなら理解できるかもしれない。大竹さんが言いたいのはそういうことなんじゃないだろうかと。
「砂鉄さん、何かお薦めの本はありますか?」と大竹さんは砂鉄さんに聞くと、砂鉄さんは、「最近読んだ本で『評伝クリスチャン・ラッセン』(原田裕規著、中央公論新社、2023年)という本があるんですけど、それがおすすめです」と答えた。そこからひとしきりクリスチャン・ラッセンのことでスタジオは盛り上がるのだが、大竹さんが知りたいのはそういうことなのか?
ひとしきり終わったあと、仕切り直して、「映画でいえば、『時計じかけのオレンジ』。むかしは見てもよくわからなかったけれど、最近見直してみて実はわかりやすい映画なんじゃないのかと思った」と、本ではなく映画の喩えを1つ出した。おそらく自分の意図をちゃんと理解してもらうために事例として出したのだろう。「小島さんは何がお薦めですか?」すると小島さんは、「今年の初めにアカデミー賞を取った『エブエブ』がお薦めです!」と本ではなく映画を薦めてきた。こうなるともう、大竹さんの意に沿った答えなのかどうかわからない。
たぶん大竹さんは「そういうことじゃない」と思ったのだろう。最後に、「読みたいと思う本が1冊あってね、カズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』なんだ」。生物学者の福岡伸一さんがカズオ・イシグロさんの『わたしを離さないで』について語った動画を観て、福岡さんに語ったという「記憶は死に対する部分的な勝利である」というカズオ・イシグロさんの言葉に心を動かされ、むかしならば挫折してページを閉じてしまうかもしれなかったような本を、いまならば福岡さんの語りを補助線にして読み通すことができるかもしれないと思ったのだ。
そうそう!そういうことなんだよな。私が最初に頭が浮かんだ「大江健三郎の小説」というのは、当たらずとも遠からずなのではないだろうか。
この、珍しくちぐはぐなトークを聴きながら、他人に本を薦めるのって難しい、とつくづく感じたのである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?