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ラスタの手記~エルゴ【AR522】

俺は1人で旅をする程度の実力は十分にあるし、そもそも1人が好きだ。そんな俺がつい先日知り合ったばかりの彼に師事し、ついて行こうと決めたのは、その技を盗みたいと思ったからに過ぎない。
早速これまでの疑問をぶつけてみた。師匠!師匠の占いはよく当たるって言われてますけど、どんな神様と契約しているのですか?
そういうと、フランツはこちらを振り向いて、苦々しい顔をしながら言った。「占い師には二種類ある、神に祈って啓示を受ける占い師と、戦略眼を持っていて、未来に起きることを予想しているだけなのに、それをわざわざ占いと称して、権力者に教えてやる者・・・俺は後者だ」とんでもない種明かしだ、占ってない占い師なんてありか?

フランツは続ける「権力者ってのは、自分より頭のいいやつの意見ってのは聞かないものだ、そのくせして愚かな奴が多いから、当たり前のことが予想できない、目が曇ってるんだよな。だから、占いという、彼らには到底理解できない手段で伝えてやっているのさ。兵法書なんてのもほとんどまやかしだぞ?」そんな話をしながら、俺たちはノーゼル中央部にあるエルゴの首都であるリランに到着した。

リランはいわゆる城塞都市だ、大きな壁で取り囲まれた町の中心には、高さ30メートルはあろうかという巨大な城壁がそびえ立っている。これは巨人族でも超えられない高さだ。
城主はマルゴリウスⅢ世で、エルゴ国王のマルゴリウスⅡ世の第一王子に当たる。周囲には、ほぼ同規模程度の3カ国(プエラ、レオス、アシュターレ)に囲まれており、いずれとも関係が良好とは言えない状況。外交政策は遠交近攻で、アシュターレを挟んで反対側にある大国マルファスと良好な関係を築いているか、アシュターレは、プエラ、レオスに同盟を呼びかけており予断を許さない状況にある。

フランツは今回国王に呼ばれてこの街に来ている、長期滞在は良い結果を生まない、フランツはそう言いつつ君主の住むこざっぱりした館にむかった。
国王マルゴリウスⅡ世は、城主であり王子でもあるマルゴリウスⅢ世よりも小さな居館にすんでいる、これは都市の守りは城主が担い、君主は国民の声を聞くために、入りやすい小さな館に住むという伝統によるものらしい。ご立派な心掛けだ。おかげで治安はすこぶる良いが。
国王の依頼は後継問題というシンプルなものだった、市民の声を聞いていると、Ⅲ世の評判は決して良いものではなく、次男であるアスターの評判が極めて良いのだそうだ。フランツは祭壇を借りると、人払いをして中にこもった。

フランツが祭壇にこもって2時間ほど経った頃、マルゴリウス2世は、部屋に招き入れられ、フランツの横に座ると、目の前に置かれた水晶球が、すさまじい光を放ち二人を包み込む。光が収まった時、フランツが国王にといかけた。「神からの啓示ではなんと?」Ⅱ世は「今のまま、Ⅲ世に継がせよだそうです」と答える。
では、私はこれにて。フランツはそういうと、謝礼を受け取り方法を指定して早々に祭壇を後にした。

師匠!せっかくおもてなししてくれるって言ってるのに、どうして行っちゃうんですか?慌てるように国を出ようとするフランツに声をかけると「バァカ、死にたいのか?、今ごろアスター派の残党が俺たちを探し回ってるぞ、お前も死にたくなければ走れ!」
フランツがいうには、この国にはアシュターレの工作員が大量に入り込んでいて、Ⅲ世の評判を下げる工作をしているらしい。アスター自身は知らないようだが、すでに政治の中枢にも手が伸びていて、アスターの取り巻きはⅢ世を排除した後アスターを国王とし、アシュターレに従属させるつもりだったようだ。そこで、フランツは水晶球に時限発生する光の呪文を仕込み、光った瞬間に別人の声で国王に耳打ちしたのだそうだ。

フランツは大陸の各所に密偵を放っていて、エルゴの状況もすでに把握していたらしい。今ごろはアスター派のメンバーは全員捕まっているのだそうだ。
「アスターは何も知らないことだが、まぁ処刑されるんだろうな、可哀想なことだが、あほな取り巻きを選んだ自分を恨むしかない。工作員が入ったくらいで評判が落ちる王子にしても、そもそもちゃんとした政治をしていないのだから、結局この国も永くは持たないんだろうな」他人事みたいに呟く師匠を見て、この人について行って良いものか、だんだん不安になってきた。

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