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課長、本部間抗争に巻き込まれる

うちの会社で扱っているのは化学薬品なのだが、おおざっぱに言うと民生品、工業品、特殊品の3つの事業部で成り立っている。利益率は特殊品が一番高いのだが、売り上げでは工業品が圧倒的に大きく、知名度では民生品という構成になっている。ご想像の通りそれぞれの事業部で仲が悪い。

私が所属しているコーポレートファイナンス部は(名前が長すぎるということでCFと略されることが多い)、事業部と直接やり取りすることも少なく、できるだけ等距離で付き合おうとしているのだが、時には心ならずも事業部間のいさかいに巻き込まれることがある。

ある日、工業品事業部長の徳永常務が特殊品事業部長の佐々木常務に大声で文句を言っている姿を目にした。どうやら、特殊品事業部の新人が工業品事業部の原料を使用したらしい。在庫がなかったこがきっかけらしいが、工業品事業部は製造工程管理が厳しく、原料の紛失は大問題になる。特殊品事業部はそこまで在庫管理が厳しくないので、新人は同じ作業場にあった原料を使ってしまったらしい。
徳永常務がこちらをにらんで声を荒げる「CFはさぁ、資金効率や原価管理の観点から、在庫管理はしっかりやりなさいって言ってるよな、その精神がちゃんと全社にいきわたってないんじゃないのかぁ?」。常務同士であまり事を大きくしたくないのか、たまたま居合わせた俺に向かってクレームとは…。

この件は、佐々木常務が再発防止策を徳永常務に報告することで決着した。このレベルの話で常務クラスが報告するなど常識で考えておかしいのだが、役員ともなると常識は通用しないらしい。常識を打ち破れというのはこういうこと…か?

その1週間後、ベテランの伊藤真理に会議室に呼ばれたので言ってみると、特殊品事業部の小林君が同席していた。どうやら先週の出来事について、伊藤が気になって調べていたらしい。小林君が言うには、どうやら工業品事業部が原料メーカーの製造分を全部囲ってしまって、特殊品事業部で使う分が無くなり、結果的に致し方なく小林君が工業品事業部の在庫を使ってしまったらしい。在庫管理が厳しいのも知っていたので、製造課には話していたらしいのだが、どこかで黙殺されたのだろう…とのこと。

裏が見えてきたのだが、追及したところで聞いてないと言われるのがオチだし、すでに佐々木常務が謝罪して再発防止をすると言ってしまった以上、真相を究明しても状況は変わりようがない。本件については、CFとして何か追及することはなく、原料メーカーに対していも耳打ちして別途在庫を取れるよう計らうこととした。

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