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まだ30代なのに虫歯で歯抜け

 まだ30代なのに、虫歯が原因で歯を抜いて差し歯をすることになった。きょう人生で初めて、歯医者で歯を抜く処置を受けた。
 麻酔で痛みを感じないとはいえ、歯科医にペンチのような器具を口に突っ込まれ、バキッ!ゴキッ!と大きな音を出しながら臼歯を引っこ抜かれるのはスリル満点だった。歯科医の腕が良いのだろう、音は豪快だがほとんど痛みを感じず、「なんていい医者に巡り会えたんだ」と、歯を1本失う最中なのにちょっとうれしくなるほどだった。
 以前は、住んでいた沖縄本島南部のクリニックに通っていた。虫歯予備軍の歯を全て治療する予定で通院していたが、毎回処置があまりにも痛くて、「虫歯になってから治療してもらおう」と途中で治療を放棄してしまった。その結果、右下の臼歯を1本失うことになった。でもついに腕利きの歯科医に出会えたので、今後は痛みにおびえることもない。歯の悩みはすでにほぼ解消された、と思った。
 「差し歯を入れるのは、だいたい2カ月後です」。歯を完璧に抜き終わった後でさらっと告げられ、驚愕した。「え!2カ月歯抜けの状態ですか?」。麻酔で緩みきった口元からよだれが出たがそんなことどうでもよかった。なぜ先に言わない。先に言われても処置してもらうしかなかったからこれが最善だった気もするが。「膿を完全に出さなきゃいけないから」という理由だった気がするが、ショックであまり覚えていない。
 いつもの先輩たちは、歯抜けに気付けば絶対イジり倒してくる。奥歯とはいえトランペットのピストンバルブを差し込めそうほどの大きさの穴で、油断はできない。明日からは大口開けて笑ったり話したりせず、飲み会もなるべく控えて寡黙に過ごさなければならない。何とか2カ月、口の中の秘密を守りきらなければならない。
 でも自分のことだから酒の場で、酔った勢いで自己申告して自滅しそうな気もしている。

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