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栄生の余生を永遠に 14

しかし、やはり全てを忘れられる事が出来無く、家から帰ってきて自室に籠もると、その時の光景が目の前で振り返っている。それに嫌気が差した俺は何度も何度も首を振った。
「奏多ー!あんた、お風呂入っちゃいなさぁい!」と言う母の声も遠く虚しく去っていってしまうくらいに、だ。
俺は腕を捲くっておそるおそる手首を見ると、俺は驚愕してしまった。なにせ、そこには手首を一周するように青い痣が痛ましくついていて、俺は口を開ける以外、方法が無い。
「なんだ?これは」
その痣をなぞるように、俺は手首を撫でてみると、大きく腫れ上がっているように、その青あざは山のように膨れていた。
だが、押してみても痛みはない。何がこうなったのか分からなかったが、俺は幾度も幾度も手首を撫でて、様子を見た。
取り敢えず、冷やした方がいい。なにかの衝撃で手を捻ってしまったのかと、そう頭で解釈した俺は、一度部屋から出て、薬箱が入っている戸棚を開けた。するとその後ろを、母が通り過ぎようとしていた。
口をあんぐりと開けた母は、そんな俺に「あら、どうしたの?それ。やけに青いし…手首、腫れてるじゃない」と、そう言った。
「なんでこうなったか、分かんない」と俺も首を傾げると「分かんない事なんてある?見せてごらん」と、俺の手首を優しく持ち上げた。
「これは酷いわね…あんた、本当に知らないの?絶対痛かったでしょ」
俺は母に本当の事が言えなかった。まさか『何者かに手首を引っ張られた』なんて、言えるはずもない。そもそも、どんな特徴かも、性別も、何も分からないのに、伝えようがない。なにせ、それを言った所で、信じて貰えるかどうかなど、分からない。小馬鹿にされて、頭を心配されるのが関の山だと、そう判断した俺は、何度も首を傾げた。
「さぁ…。気付いたら、この痣が付いていたんだ」
「そんな事あるぅ?」
母は信じられないような面持ちでこちらを見て、今度は母の方が、首を傾げた。
「あんたもしかして…」
急に眉間に皺を寄せた母が、俺の顔をまじまじと見つめだし、俺はいてもたってもいられなくなり「な…なんだよ」と聞き返して見た。
すると母は急にため息を吐いて「いや…なんでもない。まぁ骨折とかしてなそうだから、良かったわ…」と、深くため息を吐いた。
「お風呂入ってから湿布を貼った方がいいからね。先にお風呂、入ってちょうだい」
母にそう言われて「おーん」と雑にもそう返事をすると、俺はもう一度、手首を見た。
青あざが今にも浮き出しそうに、ふっくらと腫れあがってるその状態で、俺は一目散に風呂場へと直行した。



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