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栄生の余生を永遠に 13

大会を控えたこの時期には、練習量が一ヶ月前よりも軽くなっている分、いつもは午後六時まで練習をする所、今は午後五時までになった。大会前の一ヶ月は怪我をしないよう、監督も考慮してくれているみたいだ。
だが、俺は練習が早く終わったにも関わらず、友達を誘って公園へ遊びに行く。学校近くの公園には『又槎公園』と言う、割と大きな公園があって、そこでよく友達を誘ってサッカーをやっている。
その日も、五時以降、又槎公園でサッカーをする約束を友達と交わすと、俺はサッカーボールを抱えて学校帰りに真っ直ぐ公園へと向かった。
友達と和気藹々と話をしながらその公園に到達すると、どうだろう。風が急にざわつきだした。足元から散葉が次から次へと通り過ぎる。そのざわつきが何なのか。胸の中では鬱蒼感がよぎりだした。
「どうした?奏多、早く来いって!」
友達からそう言われて、俺が小さく相槌を打つと、俺はその友達の元まで駆けていった。
初めて来た訳でもないのだが、何処か懐かしく、しかし、その心地も何故か悪い。
胸に何かが突っかかっているような、そんな心地だ。
俺はそれを胸に引っかかりながらもサッカーボールを蹴る。友達と並走しながらドリブルしていると、心地がいい。
「サイドいくぞ!サイド!」
そう掛け声を発したその時だ。俺がボールを蹴ろうと、思い切り身体を開いたその時に、何者かが俺の手首を掴んで引っ張った。その拍子で俺は転けそうになり、身体を一度回転させて地面に手をつける。
「誰だよ!」と、大声を上げて辺りを見渡しても誰一人としてその場には居ない。それが少々薄気味悪い。友達が「どうしたんだよ、奏多」と、俺の周りに駆け寄ったが、俺はそれにさえ、何処かで見た感覚が押し寄せて「お前らこそ、どうしたんだよ」と、俺の意志とは無関係にも、そう答えてしまった。
「はぁ?」と、友達が首を傾げて「いや、なんでもない。ゴメン。なんでもないんだ…」と、すぐ様俺は立ち上がった。
「変な奴。ボール頂戴」
友達かボールを受け取ってから、何処かへ颯爽と駆けていくと、俺はもう一度、その転けた方へと目を配らせた。
その転けた部分だけ、当たり前だが砂が散らばって、荒れていた。それを見た俺は、またも一度首を傾げた。
「なんだったんだ…?」
俺はそんな事には気にも留めないようにしようと、忘れ去ろうと必死に転けた先を見ないように努めた。

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